根っこ広場 2
次の日になると、キツネさんとヘビくんはいっしょにどんぐり池へと向かいました。
きのうはコマドリさんのみまちがいだなんて言いましたが、二匹ともちょっとこわごわ、ぬきあしさしあしでどんぐり池へと近づきます。そして大きな木のかげから、こっそりとのぞき込みました。
みると、りすさんが一人で忙しそうにおそうじのまっさいちゅうでした。
二匹はきょろきょろとあたりを見回しましたが、オオカミらしい動物はみあたりません。
「なあ、やっぱりコマドリのやつのみまちがいだぜ」
「そうですわね。りすくんひとりみたいですわ」
二匹でヒソヒソと話していたときです。
グルルルルルルル……。
という、おそろしいうなり声が、二人のまうしろから聞こえてきました。
動きを止めた二匹は、ゆっくりと顔を見合わせ、そして後ろを振り返ります。そこには……。
灰色の獣が鼻にシワを寄せ、大きな口からとがった牙をのぞかせて、二匹を見下ろしていたのです。
「ひいぃぃぃぃぃぃぃ!」
キツネさんとヘビくんは声にならないさけびを上げると、いちもくさんに逃げていきました。
キツネさんとヘビくんが見た灰色の獣は、もちろんグレイでした。どんぐり池へと続く道のおそうじをして、もどってきたところだったのです。
グレイは、青い顔をして逃げていくあやしい二匹を見送ると、池のまわりのおそうじをしているりすくんに声をかけました。
「なあ、いま、あやしい動物が二匹のぞいてたぞ」
「あやしい?」
「ああ、あれはヘビとキツネだな」
「ええ? ヘビくんとキツネさんなら、この森にもいるけど……なんでのぞいてたんだろう? 声かければいいのになあ」
と、りすくんは首をひねりました。
そのころ、ヘビくんとキツネさんはころがるように根っこ広場へと走っていました。
「たたたた、たいへんだぁ!」
「オオカミよ、オオカミだわ!」
根っこ広場にはその他の動物ももうすでにあつまっています。
ヘビくんとキツネさんは、いま見てきたオオカミの恐ろしさをわれさきにと話しはじめました。
「ほうらごらんなさいな、アタシの言ったとおりでしょう」
コマドリさんはいばり顔。
「ほんとうかあ?」
それでもアライグマくんはうたがっているみたいです。
「ま、まさかまさか。ほ、ほんとうにこの森にオオカミがきたの? しんじない、アタシ、しんじないわ!」
くまさんは、大きなからだをブルブルふるわせ、まっさおになりながら言いました。
「ようし、じゃあくま子、こんどはおまえが見てこい!」
アライグマくんがうでぐみをして、よこめでくまさんをにらんでいました。
「ななななななな」
くまさんはとびあがりました。
仲間たちの目がくまさんを見つめます。
「そうね。しんじられないんなら、見てきたほうがいいわね」
コマドリさんがツンとしながら言うと、キツネさんとヘビくんも「そうだそうだ、信じられないって言ったのはくまさんなんだから、見てきてよ!」
と言いだします。
くまさんはまっさおになりながらも、言い返すことができずに、とぼとぼとどんぐり池へと向かいました。
どんぐり池についたくまさんはそうっとあたりを見回します。けれども、りすくんも、オオカミもみあたりません。
くまさんは池のそばにある小屋へと近づいてみました。
小屋の中をみてみると、そこには灰色の獣が、りすくんの落ち葉の毛布をかけて眠っているではありませんか。
きっとオオカミです!
くまさんはびっくりしましたが、そいつがねむっていてくれたので、少しだけホッとしました。
それからくまさんは、ねむっているオオカミのすぐそばに、赤黒いシミのようなものがひろがっているのを見つけました。
そのシミは、昨日のヤマゴボウの汁のあとだったのですが、くまさんはそんなことは知りません。
「ま、まさか!」
血?
そう言おうとした時、寝ていたオオカミが寝返りをうつと「ぐがおぅ!」と、ほえました。
くまさんはもう、いちもくさんに根っこ広場へと走って帰っていきました。
「オ……オオカミだよ! りすくんが……りすくんが!」
くまさんは根っこ広場にたどり着くと、すわりこんで泣きはじめてしまいました。
「オイオイオイ、どうしたっていうんだよ!」
「りすくんがあぁぁぁぁぁ!」
アライグマくんが声をかけましたが、おいおいと泣くくまさんは答えることができません。
「たいへんたいへん! アライグマくん、アンタ見てきなさいよ!」
コマドリさんが騒ぎます。
「な、なんでオレが!」
「みんなもう見てきたのよ。まだ見てきてないのはアンタだけじゃない。それにアンタ、オオカミなんて信じてないんでしょう!」
コマドリさんのいきおいに押されて、アライグマくんはしぶしぶどんぐり池へと向かいました。