どんぐり池 3
グレイがむくりと起き上がりました。
「なあ、りすくん。なにか手伝うことはないかい? 落ち葉の毛布のお礼をさせてほしいんだが……」
「え? お礼なんていいよ」
「いやいや! こんなによく眠れたのは久しぶりなんだ。さいきん眠れなくてこまってたのさ。なにがなんでも手伝いをさせてもらわなくちゃな」
「仕事っていっても、まい朝池のまわりのお掃除をするくらいなんだ。あ! そうだ。じゃあさ、もう少しして、森が赤や黄色になったら、落ち葉やどんぐりを集めなくちゃならないから、とっても忙しくなるんだ。だからそのときにお手伝いを頼んでもいい?」
りすくんのていあんに、グレイは「よしきた! まかせておけ!」と、ガッツポーズをすると「またな!」と手をふって帰っていきました。
りすくんのきょうのお仕事もおしまいです。
日が暮れる前に、お家に帰らなくてはいけません。
けっきょくその日「どんぐり池」にやってきたお客さまは、グレイだけでした。
しかたありません、こんな日もあります。というより、お客さまの来ない日のほうが多いくらいなのです。
でも、お客さまはいつ来るかわかりませんから、おしごとを休むわけにはいきません。
次の日もりすくんはおひさまがのぼると、元気に「どんぐり池」にむかいました。
えっさっさ ほいさっさ
きょうもおしごと えっさっさ
おいけのそうじだ ほいさっさ
みんなのおねがい かなうといいな!
きょうも調子はずれの歌をうたっていますよ。きのうの歌とよくにていますが、ちょっとちがいますね。りすくんの歌は、りすくんの気分で少しずつかわるのです。
池のそばまでやってきたりすくんは「あれ?」と首をかしげました。
池のまわりを忙しそうに行き来するだれかの影が見えたからです。
「もうお客さまがいらしてるのかな?」
近づくと、その誰かさんは、大きな灰色の姿をしています。
「グレイ!!」
りすくんは大きな声で呼びかけると、かけよりました。
「よう! おはようりすくん」
「どうしたの!? グレイ! やっぱりお願い事ができたの?」
「いや、ちがうよりすくん。お礼の手伝いをするっていったじゃないか」
「え……」
「なんだ、めいわくだったかい?」
グレイのふさふさのしっぽが、しゅんとたれさがっています。
「そんなことないよ!」
「よっし! じゃあ、あっちにたおれた木があったから、片付けてくるよ」
グレイはスタスタと、森の中へと入っていきました。
池へと続く道の一つに、木がたおれていたのですが、とおれないほどではないし、りすくんにはどうしようもないので、そのままにしてあったのです。
たしかにあの木をどかしてくれれば、とっても助かります。
(グレイって、大きくて力持ちで、気がきいて、ステキなひとだなあ)
とりすくんは思いました。
木を片づけて小屋に戻ってきたグレイは、横になると、すぐに寝てしまいました。
きのう出会ったときのように「ぐがおぅ、ぐがおぅ」と、いびきをかいています。
「よくねむるなあ」
りすくんはきのうのように、落ち葉の毛布をかけてあげます。するとやっぱりいびきは少し小さくなるみたいです。
りすくんはグレイがぐっすりと眠っているのをかくにんすると、森の中へと入っていきました。
グレイはずいぶんと長い間ねていました。
なにしろこのところ夜になってもよく眠れなかったのです。
どんなにガンバっても眠れないものですから、あきらめていたグレイですが、きのうりすくんに温かい毛布をかけてもらった後は、ぐっすりとねむることができたのでした。
きょうは毛布のおれいに、道をふさいでいた木のかたづけをして、小屋でひと休みしようと横になったとたんに、ぐうぐうねてしまいました。ふしぎなことです。
ユメの中で、りすくんが毛布をかけてくれたような気がします。
いったいどれだけねむったのでしょうか。
はっとして、目をさますと、りすくんの顔がめのまえにありました。
「おはようグレイ!」
「おう、おはよう……」
起きたグレイは、りすくんの手が赤いことに気がつきました。