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逆さ虹の森 4

 逆さ虹の森の中がいちばん色鮮やかになる季節が、やってきました。

 緑色だった葉が、赤や黄色に塗り替えられていきます。

 それは、りすくんの待ちに待った季節でもありました。


 えっさっさ ほいさっさ

 きょうは秋の しゅうかくだ

 こっちのどんぐり ほいさっさ

 あっちのどんぐり まあるいぞ


 りすくんのんきな歌声が、逆さ虹の森のなかにこだましています。

 今日は森の仲間みんながどんぐりの収穫の手伝いに来てくれているのです。

 どんぐり池のまわりの木々はみんなドングリのなる木なのです。

 クヌギやマテバシイ。かしの木ナラの木、コナラの木。

 りすくんのどんぐり池のほとりに立つ小屋の前には、ドングリの山ができていました。


「みんなありがとう、みんなのおかげでたくさんドングリを集めることができたよ。あとはボクだけでも、集められるよ! 今日はぼく、みんなにマテバシイのクッキーを焼いていたんだ」


 りすくんは大きな木のお皿に山盛りの、マテバシイクッキーを用意していてくれました。

 小屋の脇に作られた焚き火のかまどの上では、たっぷりのお湯がシュンシュンと沸いていて、グレイがご自慢の木苺ジャム入りの、紅茶をいれてくれました。


「うわああああ、こりゃあうまそうだ! オレもう腹ペコだったんだぜ!」


 ヘビくんがクッキーにかじりつくと「あら、ヘビくんはいつも腹ペコじゃありません?」と、キツネさんが笑いました。


「おいしいおいしい!」

「おいグレイ、オマエの紅茶も、うまいじゃないか」

「ピュルリリリリリ、ちょっとちょっと、私のことも忘れないでよ! 紅茶はさましてもらえるかしら?」


 お空の上からコマドリさんもあわてて下りてきました。

 そこへ、一匹のお客様がやってきました。


「やあ、りすくんこんにちは。今日はお願い事をしに来たんだが、かまわないかな?」


 のっそりと木立の間から姿を表したのは、イノシシさんでした。

 りすくんはちらりと池の中を覗き込んでから、イノシシさんにいま収穫したばかりのドングリの中から、とりわけりっぱなものをひとっつ渡しました。


「ありがとう」


 ドングリを受け取ると、イノシシさんは池に向かって投げました。

 森の仲間たちは、おやつを食べるのも忘れて、ドングリが池の中へと落ちていくのを見ていました。

 

 ポチャン……。


「ウチの奥さんが、元気な赤ちゃんをうめますように」


 イノシシさんがお願いをすると、池がほんの少しだけ明るくなったように見えました。

 みんな、池のそばにやってきます。

 のぞきこむと、池の底の砂はきれいな黄金色です。


「きっと、願い事が叶いますよ」


 りすくんは胸を張って言いました。


「よ、イノシシの大将、子どもが生まれるのか?」

「わあ、すてきだね、たのしみだね!」

「イノシシさんも、クッキーを食べてくといいぜ!」

「まあ、あなたのクッキーじゃなくってよ?」

「ピュルリリリリ、イノシシさんのところに赤ちゃんができたのよ。お祝いよ、お祝いよ」

 

 コマドリさんは早速うわさ話を届けるために、どこかへと飛んでいってしまいます。


「おおーい! コマドリさん! まだ生まれてないんだよー!」


 イノシシさんの声は、コマドリさんに届いたでしょうか。

 

「しかし、どんぐり池が灰色になってしまったという噂を聞いたから、どうなっているかと思って心配していたんだが、大丈夫なようだね?」


 イノシシさんは森の動物達に誘われて、クッキーを食べ始めます。

 グレイがイノシシさんのために紅茶を入れます。


 池のほとりには、りすくんとアライグマくんが、みんなの様子を眺めながら立っていました。


「おい、りすよ……」

「なに?」

「この池、ちゃんともとに戻ったんだよな?」

「うーん。イノシシさんがあの事件いらい、さいしょのお客さまだからなんとも言えないけど」


 りすくんはそこまで言って、池をもう一度のぞき込みました。

 池の底は金色で、水はとうめいで、美しく紅葉した山々を映しています。


「池ももとに戻ってるし、ドングリもたくさんとれたし、きっと大丈夫だよ」

「そうか」


 りすくんは、池のほとりをはなれて、みんなのところに戻ろうとしました。


「りすよ……」


 またアライグマくんの声がして、りすくんは振り向きました。


「なあ、どうしてグレイはオンボロ橋を渡れたんだろうなあ。オレサマたち、あんな願いごとをしたのになあ」


 りすくんはくりっと目を大きくしました。

 だって、そんなことあたりまえです。


 だってグレイは「乱暴者なんかじゃないからだよ! ね? グレイ!」


 グレイが顔を上げます。

 白いエプロンをして、みんなのために紅茶のおかわりを入れています。


「ふん、たしかにな」

「でしょ? グレイ! ボクも紅茶のおかわり~!」

「オレサマにもおかわりをよこせ!」


 グレイはうなずきます。

 逆さ虹の森は、穏やかな秋の日差しに包まれています。



 おわり

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