逆さ虹の森 3
それからみんなは、根っこ広場に向かいました。
みんながもどったときのコマドリさんの喜びようときたら、たいへんなものでした。
ピルピルと鳴きながら「みんながもどってきたわ!」と、森の上を飛びまわりました。
コマドリさんが落ち着くと、みんなはそろってどんぐり池を目指しました。なにしろみんなどろんこでしたので、水浴びをすることにしたのです。
池の水は冷たかったのですが、それでも泥を落としてさっぱりすると、みんなようやくほっとしました。
池のほとりに、グレイ、アライグマくん、ヘビくん、キツネさん、クマさんがならんで腰を下ろし、ぽかんと池の上の青い空を見上げました。
ついさっきまで、暗い地下のめいろをさまよっていただなんて、しんじられないくらいにおだやかです。陽の光が、みんなを照らしてくれています。
りすくんは、とことことみずぎわまで歩いていきました。
池の水は澄んで透明でしたが、池の底は、やっぱり灰色のままです。
水面に写ったりすくんの顔が、ゆれる波で歪んで見えました。
「りすくん……」
よばれて振り返ると、森の仲間がみんな、りすくんの後ろに並んでいました。その少し後ろにはグレイもちゃんといます。
「みんな、どうしたの?」
りすくんはいっしょうけんめい笑顔を作りました。
どんぐり池はもとに戻りませんでしたけど、みんな地下の迷路から無事に戻ってこれたのです。
悲しいなんて、おかしいことだと、りすくんは思いました。
「あのね、その、えっとね」
クマさんがもじもじとしています。
「わるかったな」
とっても早口で、アライグマくんが言いました。
「ごめんよ」
「ごめんなさいね。どんぐりをぜんぶ池に投げ込んでしまったりして。私たち、パニックになってたんですわ」
「ごめんね、ごめんね。アタシ、こわかったの」
みんな口々にりすくんにあやまってくれました。
「いや、オレが逆さ虹の森に来なければ、こんなことには……」
「いや!」
アライグマくんがグレイの言葉をさえぎります。
「アンタは悪くない。その……アンタにも悪かったと思ってる、ごめんな」
みんなはびっくりして、アライグマくんを見つめます。
りすくんはもちろん、梢の上にとまっていたコマドリさんも、びっくりしておりてきました。
「な、なんだよ! オレサマだって、あやまるんだよ。それに、助けてくれて、ありがとうな」
そういうとアライグマくんはまた元の場所にもどって、ごろりと横になってしまいました。
「あ……そうだな、オオカミ、オレもアンタにあやまんなきゃだぜ」
「そうですわね、私も助けてもらったのに、お礼もせずに……」
「アタシもアタシも……」
「ちょっとちょっと、アタシだけ仲間はずれにする気? アタシがみんなのことを心配して、助けてもらったのよー。こわいと思ってごめんなさいね。それから助けてくれて、ありがと~」
それからみんな、口々に「ごめんなさい」と「ありがとう」を言いました。
それを見ていたりすくんは、こんどこそ、心の中からうれしい気持ちになりました。
これでもうみんな、グレイのことを怖いなんて思わないでしょう。
「よかったね! グレイ! ボク、ボク、うれしいよ!」
そう言ったりすくんに、グレイは首を振りました。
「いや、りすくんがいなかったら、きっとオレは今でも乱暴者のオオカミだと思われて、嫌われたままだったと思うよ」
そう言ってグレイは、手のひらをりすくんに向かってさしだしました。手のひらには、どんぐりがひとつだけ、のっていました。
「あれ? どんぐり? まだ落ちてきてないよね?」
りすくんはキョロキョロとあたりを見回します。森のどんぐりは、まだまだ青くて、木から落ちてきていないはずです。
「りすくんが俺にくれたどんぐりさ。おぼえてないかい?」
「ああ!」
それは、りすくんがグレイにあった日に、お客さまとまちがえてグレイに渡した、あのどんぐりでした。
「りすくん。オレは、なんでもできるわけじゃあないけれど、もしオレのできることがあれば、りすくんの願いを叶えてやりたいと思うんだが……」
りすくんはグレイの手のひらからまんまるどんぐりを受け取りました。すごく大きくて、りっぱなどんぐりです。
グレイからどんぐりをうけとったりすくんを、森の仲間が見守っていました。
横になったはずのアライグマくんも目をひらいて、ムクリと起き上がりました。
りすくんは池に向き直ると、力いっぱいどんぐりを投げました。
どんぐりは虹のようなほうぶつせんを描きながら池へと飛んでいきます。
「グレイが逆さ虹の森の仲間たちと、仲良くなれますように!」
ぽちゃん。
池の底の砂は灰色のままでした。
金に光ったりもしませんでした。
どんぐりの落ちた場所からまあるい波紋が広がります。
そしてまた、透き通った鏡のような水面へとゆっくりもどっていきました。
いつしか動物たちはみんな一列に並んで、池をのぞき込んでいました。
「ボクの願い、きっと叶うよね?」
水面には、みんなのぴかぴかの笑顔が映っていました。