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逆さ虹の森 2

 せんとうは、ヘビくんを体に巻き付けたアライグマくんです。左手には先の尖った石を持って、壁にひっかき傷をつけながら歩きます。


「ちっくしょう、根っこがボコボコ出てやがる。印がうまくつかねえな。みんなも印を見落とさないようにしろよ!」


 アライグマくんの後ろにはくまさんが、くまさんの後ろからはキツネさんが歩いています。

 一番うしろは、りすくんを肩にのせたグレイです。

 しばらく歩いたときでした。


「ねえねえ、そこの根っこの形、さっきも見たみたいだよ」


 と、くまさんが言いました。


「な、なんだと!?」


 アライグマくんが壁を確かめます。

 みんなもあわてて壁をさわりながら、石のひっかき傷がないか探します。


「あ! ありますよ。ひっかき傷みたいのが、ありますわ」


 キツネさんの声を聞いたくまさんが「ぐすっ!」と鼻をすすりはじめました。


「お、同じところを回ってるんだ! きっと、迷路から出れないんだよう」


 そんなくまさんにイライラとしていたアライグマくんは手を振り上げながら「ぐずぐずなくんじゃねえ!」と、どなりました。

 

 パシッという音がして、りすくんは思わず顔を手で覆いましたが、くまさんの泣き声は聞こえてきません。

 おそるおそる顔をあげると、アライグマくんが振り上げた手の中から、グレイがとがった石をもぎ取っていました。


「よし。じゃあこんどは右側の壁づたいに行ってみよう。ぐるぐる回ってるところなんて、そうそうないはずだ。きっと出られるさ」


 もぎ取った石を手に、グレイは右の壁に傷をつけながら歩き始めました。


「ちっ、じゃあオレがしんがりをつとめてやるよ。ほら、クマ子、ぴーぴーないてたらおいてくぞ。早く立てよ」


 おいていかれては大変です。くまさんは立ち上がり、また歩き始めました。


「くまさん、よく見つけてくれましたわね。おてがらですわ」

「まああれだ、くまさんは記憶力がいいんだぜ、な?」


 キツネさんとヘビくんが言うと、アライグマくんは「フン。まあ、助かったよ」と、ちょっと小さい声でくまさんの背中に言いました。


「あの……あの……」


 ちょっと足を早めたくまさんが、グレイに追いつきました。


「なんだい?」


 くまさんから声をかけたというのに、グレイが振り向くとくまさんはピキンと固まってしまってしまいます。まだグレイのことが怖いのでしょうか。


「また、なにか見つけたのかい?」


 しんぼうづよく、グレイはくまさんのことばを待っていました。


「う……ううん」


 けれどもくまさんはプルプルと首を振ると、うつむいてしまいました。


「そうか、ならいいが。さっきは助かった。また何か見つけたら教えてくれ」


 グレイはくまさんに背中を向けて、また歩き始めることにしました。

 みんな、それからははなしもしないで、ただただ歩きました。そして。


「ねえ、なにか音が聞こえない?」


 グレイの肩で、あちこちの気配を探っていたりすくんが言いました。

 立ち止まったグレイが耳をあっちに向けたりこっちに向けたりします。


「ああ、ほんとうだ、聞こえる。こっちだ!」


 グレイが早足になります。

 森の仲間たちも、走るようにして、グレイに並びます。


「水の音みたいだ!」

「こっちだぜ!」

「あ! 根っこの間から明かりが!」


 走っていった先の、壁からもれる眩しい光に、みんな目を細めました。


 アライグマくんがバリバリと根っこと土を掘りはじめます。


「ぼやぼやしてんなよ。掘るぞ!」

「うん!」


 くまさんもがぜん元気が出てきたみたいです。

 みんなで土だらけになって、必死で掘りました。

 掘って、掘って、掘って、掘って……。

 迷路に差し込む陽の光が強くなっていきます。

 聞こえていた水音が、大きくなります。

 そして、からだの小さなりすくんが一番最初に外に出ました。


「オンボロ橋の下だあ!」


 迷路の中の動物たちにも、りすくんのうれしげな声が聞こえてきました。

 ヘビくんがりすさんの後に続きました。キツネさん、そしてついにくまさんも出てきます。

 最後に、アライグマくんとグレイがしっかり川原の石をふみしめながら一緒に出てきました。


「やった! やったよ!」


 りすくんは笑いながら踊っています。


「やったあ やったよ 橋の下。みんな一緒に外にでた!」


 りすくんはお得意の即興の歌を歌います。まあ、多少調子は外れていますが。

 くまさんは河原にへなへなと座り込むと、わあわあと泣きはじめました。アライグマくんは、こんどは怒りませんでした。

 ヘビくんは川の水を飲み、キツネさんも涙ぐんでいます。


「やったな」


 アライグマくんは、ちらりとグレイを横目でにらみながら言いました。


「ああ、やったな」


 グレイが答えると、二匹は同時ににやりと笑いました。

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