逆さ虹の森 1
地面から飛び出してきた根っこに捕まり、どっちが上でどっちがしたかもわからないほどりすくんは振り回されてしまいました。そのあと、土の中に引きずり込まれたと思ったら、最後にドスンとどこかに落っことされて、おしりを打ったりすくんは「いたいっ!」と、ひめいを上げました。
口の中に土が入ってきて、まずいったらありません。
「だいじょうぶかい?」
先に地下迷路に落とされていたグレイがかけよってきてくれます。
「みんなどこにいるんだろう……」
まっくらな地下の迷路です。みんなのいる場所どころか、どこへ行けば森の中へと戻ることができるのかすらわかりません。
「おおーい、だれかいないかあ?」
りすくんがありったけの大きな声を出しましたが、どこからも返事はありません。
グレイがオオォォォォーーン! と吠えましたが、やはりあたりは静まり返っています。
二匹とも必死で耳をピクピクさせました。
「あ!」
「聞こえた?」
二匹は顔を見合わせてうなずき合いました。
どこかから、だれかの泣いている声が聞こえてきたのです。
りすくんとグレイは、声のする方へ向かって歩き出しました。
泣き声はどんどん大きくなり、すぐに大きなくまさんがわんわん泣いているところにたどり着きました。
よく見るとくまさんのまわりにはキツネさんにアライグマくん、それからヘビくんもいます。
「みんな! まだ遠くに行ってなくてよかったよ!」
りすくんがかけよると、くまさんの泣き声がピタリと止まりました。
「り……りすくん? 来てくれたの?」
「うん、グレイも一緒だよ」
グレイは壁の影で様子をうかがっていましたが、ゆっくりとみんなの前に出ていきました。
「オオカミ!」
くまさんはとびあがり、ヘビくんはアライグマくんのからだに巻き付き、アライグマくんは「こっちに来るんじゃねえよ!」とどなりました。
「みんな! グレイはみんなを助けるために、ここまで来てくれたんだよ! みんなはグレイのことなんてこれっぽっちも知らないくせに、なんでそんなイジワルなのさ」とりすくんが言いました。
アライグマくんは「なんだと? オオカミ山のオオカミが、あっちこっちで暴れまわった話は、ここにいるみんな、知ってるんだぞ? そいつがいいこと言ったって、オオカミってのは群で行動するっていうじゃないか」と、はんろんします。
りすくんだって、負けてはいません。
「あのときの乱暴者のリーダーは、もう死んじゃったんだよ。それに、オオカミ山にはもうグレイしか住んでないんだよ」
「なんだって?」
りすくんの言葉に、アライグマくんがひるみました。
「ほんとうかなあ?」
アライグマくんのからだに巻き付いたヘビくんがグレイの方へ首をもたげ、チロチロと舌を出したりひっこめたりしています。
首をユラユラゆらめかせながら、グレイを確かめているみたいです。
「ほんとうさ。新しいリーダーはオオカミ山をすてて、べつの場所へと旅に出た。オレはひとりであの山に残ったんだ。オレに命令するリーダーはいないし、オレはできればアンタたちと仲良くしたいと思っている」
「フン」
ヘビくんは鼻息をならしました。
「なあ、アライグマくん、オレはもうおなかがペコペコで死んじまいそうだぜ。オオカミのヤツもこう言ってることだし、ここはこの場所から出ることを一番に考えようぜ」
ヘビくんはチロチロと舌を出しながら、こんどはアライグマくんの方へ頭をゆらりと向けました。
アライグマくんは腕を組んでしばらく考えていましたが、ふいに小さな声でいいました。
「おいオオカミ、オマエ、なんかいい方法考えつくのかよ?」
アライグマくんのしつもんに、グレイは「ああ」と、力強くうなずきました。
「いいか? 迷路ってのはたいがい片方の手を壁につけたまま歩いていけば、いつかはゴールに辿り着くもんだ」
いっしゅん、とっても静かになりました。くまさんですら、鼻をすするのを忘れています。
「ちょっと待ってくださいません?」
最初に話しだしたのはキツネさんです。
「たしかにやみくもに動き回るよりいいかもしれませんが、同じ場所をぐるぐる回ってしまうってことはないかしら?」
「たしかに、その可能性がないとは言えない。だから、壁に傷をつけながら歩いたらどうだろうか? それで同じところを回っているようだったら。はんたいがわの壁をつたっていけばいいだろう?」
どうする?
そう問いかけるように、グレイはその場のみんなの顔を見渡しました。
「よし!」
アライグマくんは腕組みをとくと、足元に転がっていた先っぽのとがった石を拾い上げました。
「オレサマが、この石で、壁に線を書きながら歩いてやるよ。みんな、暗くても見落とすんじゃないぞ」
「だいじょうぶですわ。私こう見えても、暗いところは得意なんですのよ」
「オレも暗闇は得意だ」
「アタシも、暗くても平気」
どうやら、キツネさんもグレイもくまさんも暗くてもへっちゃらのようです。
「ううーん。オレはあんまり自信がないぜ」
ヘビくんはアライグマくんに巻き付いたまま言いました。
「実はボクも、真っ暗なのは得意じゃないなあ」
りすくんが言うと、グレイがりすくんの前に手を出してくれたので、りすくんはたたたたっと、グレイの肩に、登りました。
「よし、じゃあ行くぞ。みんなちゃんとついてこいよ!」
アライグマくんを先頭に、森の仲間たちは、真っ暗な地下の迷路を歩き始めました。