第8話 あなたは……だあれ?
今回は長めです。
私が5歳になってしばらくたった頃のある日、私はいつもの様にセバスチャンからお弁当を受け取り、家を後にする。
街の人達にすれ違うと、
「よう、レーナちゃん、今日も可愛いねえ。」
「おじさん、ありがとう。」
私は嬉しくなって、挨拶してくれた、街で唯一の居酒屋の店主のおじさんに向かってはにかむ。誰だって可愛いと言われたら、嬉しくなるものだ。
この街は千人程しか暮らしていないので、みんな顔見知りみたいなものだ。住んでいる人は皆、魔族だ。吸血鬼だけでなく、いろいろな魔族が居る。
私は、一応領主の娘だが、小さな街だからということと、うちが男爵家ということで、領民との距離は近い。
私はリュックサックを背負ってトコトコと歩いていき、街の外へと繋がる門を通る。
人が多く住む所の近くには魔獣は出てこないが、念のため、街は木の柵で囲ってあるのだ。魔獣も、人間達に手を出すと、反撃されることを本能で知っているらしい。
まだ私はまだ、魔獣を見たことがないが。
「おっ、レーナちゃん、おはよう。気をつけろよ!」
「はーい!」
衛士のお兄さん(といっても、20代っぽいが。)に元気よく答えて、街の外へ出る。
いつもは街の中をぶらぶらするか、街の外へ出て、このまま、小さな川が流れている野原に行って、植物や魚を見て遊ぶかのどちらかだ。
しかし、もう5歳であるので、もっと遠くに行っても大丈夫かな、と思い、川の向こうまで探検してみることにした。
今までの私ではこんな小さな川でも流されそうで渡るのが怖かったのだ。
靴を脱いで、手に持つ。
そのまま私は川をじゃぶじゃぶ渡っていく。スカートなので、服は濡れなくてすむ。
川を渡りきり、リュックサックに入っていたハンカチで濡れた足をふく。
セバスチャンがいつもハンカチを持たせてくれるけど、初めて役にたった気がする。
いつもお弁当を食べる時は、小さなケースの中にこれまたセバスチャンがおしぼりを入れてくれるので、普段ハンカチは使わないのだ。トイレから出たら、ぴっぴっ、だし。
それからまた、木がちらほら見える方に向かって私は歩き出す。
「ふふふん♪」
鼻唄を歌いながら、木がある方に進んで行くと、だんだん木は密集していき、森になっていった。
今は春なので、新緑が綺麗だ。風で髪がさらさらとなびく。
奥へ奥へと歩いていくと、地面や木に苔が生えている。まるでジ○リの世界みたいだ。近くに小川があるのかな?
もう少し進んだら、お弁当を食べてから引き返そうと思いながら木々の間を歩いていると、突然視界が開けた。
そこには、小さな泉があった。
「おおっ!」
私は泉に走り寄って、リュックサックを地面に置いてしゃがみこむ。泉を覗き込むと、泉の水は、とても澄んでいた。
その時、私は視線を感じ、ふと顔を上げる。
泉の反対側の倒れた木に1人の女の子が腰掛けて、頬に手をあてて、じっとこちらを見ていた。
「うわっ!」
私は驚き、後ろにのけ反る。
「あはは~、見つかっちゃったかな? キミは可愛いから、ちょっと眺めてたんだよね。」
「あなたは……だれですか?」
「うーん。そんなに簡単には教えられいかなー。なんてったって、ボクは気まぐれだからね。」
「そ、う、ですか……。」
「いやいや、別にボクは怪しい人じゃないよ? 別にとって食べたりしないさ。」
私は、落ち着いてその子を観察してみる。プラチナブロンドの髪の毛に、髪型はショートで、可愛い顔立ちをしている。見た感じ、元の世界の基準でいうと、中学生くらいだろうか。彼女は、悪戯っ子のような笑みを浮かべている。
私が言うのもなんだが、どうしてこんなところに子供がいるのだろうか。もしかして迷子なのかな? 迷子になったのが恥ずかしくて照れ隠しをしているのかもしれない。
私は、じっと少女の目を見つめる。綺麗な目だ。
少女も私を見つめてくる。
数秒間見つめ合った後、私が話を切り出そうとすると、
「ん? ヤダな、そんなに見つめられたら照れるでしょう。」
と言ってくるので、スルーし、
「もしかして迷子なんですか?」
「ちがうよっ! あははっ、お子様なキミに言われるとは! あははははっ! 久しぶりにこんなに笑ったよ! ふふふふふ。」
「笑わないでください!」
「ごめんごめん。迷子になってそうなのはキミの方なんだから。普通は大人でもここまで来ないよ。ちなみにボクは迷子じゃないよ。まあ、この辺りに住んでいるとでも言えばいいかな?」
「うぐぅ。私はここに探検に来たんですぅ!」
「探検か……。子供らしくていいね。うんうん。ボクのことは気にしなくていいよ。ボクはこのままキミを観察させてもらうよ。キミは可愛いし、見てて飽きないしさ。」
「……。」
この子、顔は可愛いけど、ものすごく変わってる。まず、女の子なのに一人称が『ボク』だし、一方的に話して、勝手に私のことを笑ってきた。すごーく変な子だ。
「ぐぅーー」
私のお腹がなった。
私は、お弁当をまだ食べてないことを思い出した。
地面に腰を下ろし、お弁当を取り出す。お弁当といっても、サンドイッチなのだが。
そういえば、まだこちらの世界に転生してから、白米を食べてない。思い出したら、急にお米が恋しくなってきた。この世界のどこかにはお米はあるのかな? あったら、おにぎりを作って食べたい。お弁当のレパートリーが増えるはずだ。
おしぼりで手を拭き、サンドイッチにぱくりとかぶりつく。やっぱりセバスチャンの料理は美味しいね。
横に視線を向けると、いつの間にか少女は、泉の反対側から私のすぐ横に来ていた。
私の食べているサンドイッチを目で追っている。もしかして食べたいのかな?
「……はんぶんこする?」
私が半分にちぎって差し出すと、
「ありがとう!」
少女は、受け取るや否や、がふがふとかぶりつき、ぺろっと食べてしまった。食べるの早すぎでしょう。
食べ終わってから品がないことに気づいたのか、
「……。みっともないところを見せちゃったね。おいしかったよ。ありがとう。」
まあ、美味しく食べてくれたならよかった。
私は、食べ終わると片付け、スっと立ち上がる。
「あれ? もう行っちゃうんだ。」
「太陽が傾きかけてるからね。あまり遅くなるとパパとママに心配かけちゃうから。」
「そっか。親を大切にするのはいいことだよ。そうだ、また明日もここに来なよ。ボクはここで待ってるからさ。一応、ここはボクの秘密基地だから、誰にも教えちゃダメだよ?」
「うん! わかった!」
バイバイと手を振って、私達は別れる。
また明日来よう。明日からはセバスチャンに頼んで、ちょっとお弁当を多くして貰おう。そう考えながら、私は家へ向かって歩き出す。
そして、次の日も私は当然泉に向かった。
私は晴れている日は毎日、泉に通い続け、一年後には、謎の少女と親友になっていた。
少女の正体は、まだ秘密です。
改稿)女の子の登場のところで、
○○色の髪の毛で→プラチナブロンドの髪で
○○に後で髪の毛の色を入れようと思っていたら、お恥ずかしながら、そのまま投稿してしまいました。次からはもっと確認します。