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第5話 絵本♪

 今日も私は、いつもどおり、家の外へ遊びに行こうと準備していた。セバスチャンに作ってもらったサンドイッチをリュックサックの中に入れ、出かける準備をする。


 晴れている日は毎日、私が外へ遊びに出かけたがるので、毎朝、セバスチャンがその日のお昼のお弁当を私の部屋に持ってきてくれて、私がそれを受け取るのが、私とセバスチャンの日課となっていた。


 「レーナ、いってきましゅ! ゆうがたにはおうちにかえるね!」


 いつもの様に私が、玄関から父の執務室の方へ向かって叫ぶと、部屋から父が出てくる。


 「レーナ、パパは仕事が忙しいけれど、今日はママがレーナに絵本を読み聞かせくれるって言ってたぞ。」


 「パパ、ほんと!?」


 父のハンスが、そう言った時、私は素直に嬉しかった。私は、幼い頃に両親を事故で亡くし、兄の家族の養子になったものの、兄の両親は外交官であるため、家を空けることが多かった。そのため、私は親に甘えることがほとんどなかったのだ。


 私はリュックサックを投げ捨て、母がいるリビングに走って向かった。途中で、リュックサックを玄関に投げ捨ててきたことを後でセバスチャンに怒られるかと思ったが、この際、些細なことなので、気にしないことにした。


 リビングに入ると、母のクリスティーナもちょうど、書斎から絵本を1冊持ってきたところだった。


 「あ、レーナちゃん、ママが絵本を読んであげるよ」


 「あい!」


 私は、母の膝の上にちょこんと乗せてもらう。母は、テーブルの上に絵本を置く。


 絵本の題名は『勇者レギオンの冒険』。おお、勇者冒険の絵本か。いわゆる勧善懲悪もの…桃太郎や金太郎みたいなかんじだ…で、子供にはぴったりな絵本だろう。も私、この本の題名は知らないから、この世界独自の話なのかな。


 「この絵本は、人族の絵本なんだけどね。」


 と、母は、前置きしてから絵本を読み始めた。ん? この絵本が人族の話だなんてわざわざ言うなんて、私が、人族じゃないみたいじゃん。いくら、私が、ドジだからって、そこまで言われるようなことはしてないはずだよ! たぶん……そうだよね?






 むかーし、むかーしのことでした。


 人族の歴史ある国の1つ、レコルド帝国の田舎の村の、貧しい平民の家に1人の男の子が生まれました。


 彼の名は、レギオンと言いました。彼は、彼の両親のはじめての子供でした。


 その男の子は、世にまたとない程清らかで玉のように美しい子でした。


 そして、太陽や紅玉(ルビー)を思わせる赤い髪に、輝く金の瞳を持っていました。


 幼少期から年に似合わぬ聡明さを見せていた彼は、やがてだんだんと成長し、凛々しい美少年になりました。村の乙女たちは、彼の顔が快活な笑みを浮かべ、その唇が明朗な声を響かせるたびに、ほうっ…とうっとりため息をつくのでした。


 さて、彼は精霊に好かれており、魔法の才能がありました。同じ村に住んでいる、若い頃は帝都の魔法騎士団に所属していた老人に魔法を教わり、努力すれば努力したぶんだけメキメキと上達していきました。


 また、彼には剣の才能もありました。毎日、午前は毎日、長い道を隣街の道場に通っていました。15歳の時には道場主に、「もう、お前に教えることはない」と言われました。


それでも彼は、さらに強くなるたびに日々修練を重ね続け、森で狩をしたり大きな街の大会に出たりし続けました。


彼の村を襲う魔獣から愛する人々を守るため、何人もいる弟妹たちを養うため、体の弱い母と戦争で足を悪くしていた父親のぶんまで稼ぐために、彼は剣をふるい魔法を使うのでした。


 いつの間にか、レコルド帝国の中でも彼は、彼の右に出る者がいない程、強くなっていました。


 少年が、いつもの様に森で夕ごはんのために狩りをして帰ってくると、家の軒先にお貴族様が使うような馬車が止まっていました。


 彼は、自分か自分の家族がお貴族様の不況を買うようなことをしたのかと不安に思い、手に白兎を持ったままで玄関のドアを少し開けて、覗いて見ると、彼の両親と、後ろに2人の騎士を連れたおそらく貴族であろう人が話していました。


部屋の中に、父が編んでいたらしい籠と母が使っていたらしい糸紬ぎ機が出たまま片付けていなかったので、ずいぶんと急な訪問のようです。


 覗いている彼を見つけた貴族らしき身なりのいい人が


 「おお、ようやく帰ってきたようだな。」


 と言うと、彼の母親が、


 「レギオン、こちらのお方は、この帝国の軍部大臣をされている、オルレイ・アルノルト侯爵ですよ。ご挨拶なさい。」


と、かなり緊張した様子で言いました。


 レギオンが急いで挨拶をすると、


 「そう、畏まらないでよい。それにしても、噂通りの美丈夫だな。動きに無駄もない。」


 オルレイ侯爵は、軍部大臣を務めているため、剣が達者であり、戦争になると、自らも戦線に行き、兵士たちと話すため、平民に対しても気さくなのでした。


 少年の家にオルレイ侯爵が来たわけは、彼こそが勇者にふさわしいと皇帝が判断を下し、彼を帝都にある城に連れてくるためということだった。


 彼は、彼自身の知らぬ間に戦士として有名になっていたのです。


 そして、帝都へと連れて行かれ、皇帝と謁見しました。


 皇帝になると、自分の治世で1回は、勇者達を魔王討伐のために派遣することが帝国の慣例です。


 彼は、今代の魔王討伐の際の勇者として派遣されることを聞きました。彼に拒否権は、ありませんでした。


 しかし、彼の心は、正義とやる気に満ち溢れていました。人間の敵である魔王を討伐するために。彼が勇者として戦えば、皇帝は家族を養うためのお金もきっとくれるでしょう。家族思いの青年にとって、これほど魅力的な提案はなかったのでした。



 次の日から彼は、帝都で魔王討伐のためのパーティーメンバー集めを始めました。


 すると、我こそは、と帝国中からパーティーメンバーに入りたい人がやって来ました。


 今や、彼は、過去のどの勇者よりも強く、美少年である、と帝国中で噂になっていました。


 結局、大楯使いの男、回復魔法の得意なヒーラーの魔術師の少女、双剣使いの戦士の少女を仲間にしました。



 この後、彼は、帝都を仲間と共にあとにし、兵士を率いて魔族の国であるディアボロヘイム王国の王都へと向かいました。


 その頃、魔族の国までも、今代の勇者が表れたという噂がおり、魔王城では、勇者の対策をとり、戦えない役人やメイド達を避難させるのに大忙しでした。


 ディアボロヘイム王国の将軍達は、勇者を迎え撃つため、それぞれ、関所などの重要な拠点に兵を連れて配置されました。


 勇者の作戦は、『力任せでゴリ押し電撃突破』という名の脳筋作戦でしたが、各地で魔族の将軍達を撃破していきました。


 勇者パーティーは、王都の門をぶち破って、一直線に魔王城へと一陣の風のように駆けていきました。すると、魔王城の門の前に魔王が立っていたのです!


 「私こそが、ディアボロヘイム王国第35代国王アルシェルである! 私が直接相手になろう!」


 その後、勇者と仲間たちは魔王と激戦を繰り広げ、魔王に怪我を負わせることに成功しました。


 しかし、1歩及ばす、勇者達は魔王に負け、殉死してしまいました。


 彼らは、死んでしまったものの、将軍達を倒したことや、魔王に怪我を負わせたことにより、魔族の国の国力を落とすことに成功したのです。


レギオンの遺族は、彼を喪った悲しみに涙を流しました。しかし、約束通り皇帝が彼らを援助したので二度と食べるものに困らず、弟妹たちは都に出て教育を受けることもできました。

レギオンのすぐ下の弟のアリオンは、レコルド大学の博士になってから故郷に戻り、村を発展させて、豊かにしました。


 赤い髪の勇者とその同士たちは、レコルド帝国で英雄視されるのは勿論、ファルファラ教国でも、あと一歩まで魔王を追い詰めた英雄として聖人扱いされています。


 彼らの名前は、歴代で最も偉大な勇者と仲間たちとして後世に語り継がれることでしょう。


かつては貧しく、寂れていた勇者の故郷の村…帝国の中でも有数の都市となったその土地の、彼の家があった場所に作られた広場にはファルファラ教国から招かれた一流の芸術家によって作られた、彼の銅像がたっています。


大剣を魔族の国の方角に向け、口は魔術詠唱のために少し綻んでいる彼の像は、今も多くの人々によって花を捧げられています。


よく見ていた人は気がつくでしょう。銅像の台座にはこう、記してあるのです。


『彼は勇猛なる戦士で、思慮深い賢者でもあった。しかし、忘れてはならない。彼を真に英雄たらしめるのは、その剣技でも魔術でもない。故郷を愛し、家族を愛し、同胞を愛するその優しい心こそが、レギオンを勇者にしたのだ。』


かつて自分が育った街を眺めて、彼はいったい何を思うでしょうか。彼の像の前を通るたびに、人々は彼に恥じぬ人となるために心をひきしめるのでした。



 とっぴんぱらりのぷう





 という内容の絵本だった。


 絵本を読み終えると、母は、


 「それでね、レーナちゃん。レーナちゃんもパパもママも魔族なんだよ。


 「……え?」


 私の時間はフリーズした。私は母の言っていることが分からなかった。


 それでも、母は続ける。


 「レーナちゃんには、いつ教えようかパパと悩んでたんだけど、そろそろ伝えようと思って、こういうかたちで伝えてみました! てへっ!」


 いやいや、「てへっ!」 じゃないでしょ!かなり大事なことじゃん!

 さっきの絵本なんて、魔族を悪者にして描いてたよ?

 私、目が3つあったりしないし、体半分がなんかの動物だったりしてなくて、見た目は人間だと思うんだけど……。


 「ねぇ、ママ、なんでレーナたち、まぞくなの?」


 「私達はね、吸血鬼なんだよ。」


 「……うん。」


 私が、どうして魔族なのに人族の見た目なのかようやく分かった。だか、人族にバレたら大変なことになるんじゃ……。


 母は、私の頭を撫でながら、


 「怖がんなくて大丈夫よ。魔族が悪いなんて人間が勝手に言ってるだけだし。ママもパパも今のこの国の国王に会ったことがあるけれど、国民想いでいい人だったわよ。」


 「わかった。じゃあ、ひとぞくたちは、ひどいひとたちだね。」


 「レーナ、ママは、人族みんなが悪い人達だとは思わないわ。一部の偉い人達が魔族が悪者だと決めつけて、民にそう刷り込むのよ。

 だから、人族に仕返しをしちゃダメよ。悪いことをされて、悪いことをやり返したら、やり返した方も悪い人になっちゃうから。

 第一、私たち吸血鬼は、見た目は人族だから、魔族だとバレなければトラブルは起こらないわ。

 レーナ、魔族だってわからないように行動してね?レーナがひとに捕まっちゃったら、ママ、悲しくなっちゃうから。

 ママと約束してくれる?」


 「うん。」


 「この話はこれでおしまい。次は、ママと別のことをして遊ぼっか?」


 「うん!」


 こうして、母の読み聞かせはお開きとなった。

個人的にクリスティーナさん結構好きなんですよね。


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