第4話 それぞれの考え
3人の人(?)達の視点から書いてみました。
~香織の兄視点~
俺の名前は、五十嵐真宙。今年から高校一年生だ。俺の両親は海外で外交官をしている。
また、俺には義理の妹である五十嵐香織がいる。妹は、顔は可愛いが、かなりのドジっ子だ。でも、まあ、それも妹のチャームポイントだと思う。妹じゃなくて、俺のクラスに妹みたいな子がいたら、俺は気になっていたりするのかな?
この前なんか、『よっか』と『ようか』を間違えて、4日の朝に、
「どうしてお兄ちゃん、もっと早く起こしてくれなかったの? 学校、初日から遅刻しちゃうじゃん! 」
「香織、学校ってようかからじゃないのか?」
「え、え、あっーー! なんでもないっ、なんでもないっ! それより、休みなら二度寝するね! おやすみーっ!」
ってことがあったり、春休みに友達と遊びに出かけて帰ってきてから、ソファーに後ろ向きにドカッと座ろうとして床にお尻を打っていた。
そんな、可愛い妹だが、妹の通う中学校の始業式の日の4月8日に事故にあった。自転車で帰っているところ、車にひかれたらしい。車はそのまま立ち去ったそうだ。救急車で妹は運ばれたが、病院で命を落とした。俺は、妹の持っていた身分証明書から、俺が兄であることが分かったのか、病院から電話がかかってきて、すぐに病院に向かったのだが、死に目に立ち会うことができなかった。
妹を可愛がっていた俺にとって、妹の死は耐えられるものではなかった。
俺はそして、鬱になった。
―――………―――
~???視点~
もう力がほとんど残っていない。この、広いようで狭い、出口のない牢獄にぽつんと座り込んでいる。せめてもの抵抗で、殺風景だった空間を私の大好きな色でいっぱいにした。
誰に助けを呼んでも、きっと届かないだろう。孤独にはもう慣れていたはずなのに、涙が止まらなかった。
「あの子がうまく動いてくれるといいな。」
そう、私は独り言を呟きながら、ピンクの空間の中で、いつ目覚めるかわからない眠りについた。
勝手に巻き込んじゃって、ごめんなさい。
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~ハンス視点~
3年と半年ほど前、とうとう私の愛する妻である、クリスタが身ごもったのだ。その事を妻から、聞いた時の感動は一生、忘れることがないだろう。とうとう私とクリスタの愛の結晶ができたのだ!
それから10ヶ月ほどして、私たちの愛娘であるへレーナが生まれた。へレーナは銀髪に紫色の瞳で、妻であるクリスティーナに似てものすごく可愛い。へレーナは、明るく、好奇心旺盛だ。
それはそれとして、へレーナも3歳になって、私と妻は、へレーナに伝えなければならないことがあるのだ。
順を追って話していこう。
この世界には、大きな大陸が1つのあり、ここには大まかに分けて6つの種族が住んでいる。人族、獣人族、長耳族、竜人族、天人族、そして、私たち魔族だ。
はるか昔の種族学の権威が分類し、大陸に住むほとんどの民がこの分け方を採用している。
魔族には、モンスターとは違い、人族達と同じように知能を持ち、人族と大きく見た目が異なる者や、吸血鬼や人狼といった人に姿は近いが、人ではない者が含まれる。人族曰く、吸血鬼や人狼は人では人に近い姿にも関わらず、人でないため、危険であり、異端であるそうだ。
そして、人族の多くは、魔族を敵対視し、魔族唯一の国ディアブロヘイムの王を魔族を統治する魔王とし、討伐すべきものとしている。
魔族には、吸血鬼も含まれるわけで、人族の社会に進出している吸血鬼達や人狼達も、自分達が魔族だと人族に悟られないように生きている。
つまり、私と妻がへレーナに伝えなければならないことというのは、彼女が吸血鬼だという事だ。彼女は、まだそのことを知らない。吸血鬼が血を吸うのは、12歳からだからだ。そして、この国の中だけで生きるならいいが、他の種族と関わることも将来、あるだろうから、社会での立ち回り方を教えなければならない。
私は、妻に、そろそろへレーナに彼女が吸血鬼であることを伝えた方がいいのではないか、とへレーナが彼女の寝室で寝た後、話を持ちかけることにした。
その後、私たちは暗い部屋の中、光属性の魔石の入ったカンテラ1つだけを明かりとしてつけて、テーブルを挟んで向かい合っていた。
私が、真剣な表情になると、妻は、いつもはふわふわしているが、いつになく真剣な表情になった。
「レーナも3歳になったことだし、そろそろ吸血鬼云々についてと世の中のことを教えた方がいいと思うんだけど、どうかな?」
「私もそろそろ教えるべきかなって最近考えていたんだけど、どうやって教えたらいいと思う?」
いきなり、吸血鬼云々の話をレーナに持ちかけるのはどうかと思い、さりげなく教えるには、どうしたら良いか、2人で話し合っていると、
「僭越ながら、私に考えがあります。」
今まで黙って聞いていたセバスチャンが、口を開いた。律儀で忠誠心の厚い彼は、人狼で、私が生まれるのよりも早くからこの家に仕えていて、私をここまで育ててくれた恩人でもあり、父や兄のように慕っている。
「奥様が、旦那様が子供の頃に使っていた絵本をお嬢様に読み聞かせて、その時についでにその話を自然な流れで教えるのは、いかがでしょうか?」
すると、クリスタは、ポンッと手をうち、
「セバスチャン、名案だわ! あなた、やっぱり優秀ね!」
「おいおい、あまり大きい声を出すと、レーナが起きるぞ。」
その頃、へレーナの部屋では、
「くー……、くー……」
とへレーナは寝息を立てて爆睡しており、ハンスの心配は、杞憂に終わるのだった。
こうして、妻が『読み聞かせ作戦』を近日、実行することで、話がまとまったのだった。