第2話 た、たべないでください!
目が覚め、意識が覚醒する。周りは未だに全てピンクでどこまでも続くような空間みたいだ。
目に痛いショッキングピンクではなくて、コスモスや桜の花びらを思い出させる、可愛らしくて優しげなピンク色。
光源は何処にもないはずなのに、キラキラとした光に包まれているのが、とても神秘的だ。
(私はどれくらい眠ってたのかな?ちょっとの間だったような気も何日かの間だったような気もする)
すると、見知らぬ誰かの声だけが聞こえてきた。
「あ、目が覚めたんですね。私は訳あって姿を見せられないんですぅ。ごめんなさいね。あなたをこちら側に呼んだことで力がほとんど残ってないの。」
年若い少女特有の、澄みきった清流のような声は、私を気遣っているのか、何かを語りかけているけれど、頭の奥がもやもやしていてよくわからない。
音声として認識できていても、言語として認識できないのだ。
(どうやら天国に来てしまったみたい。若い女の人の声がするのに、姿は見えない。とすると、私、本格的に頭お花畑になっちゃったのかな?)
(それにしてもここはどこなんだろう。周りの様子は見えるが、(といってもただピンクなだけだが。)自分の姿は見えない。こういうのを精神体世界って言うのかな)
私が考え事をしている間もその女の人の声は話し続ける。
「あなたがここにいる理由を話したいのだけど、私、ほんとにあとちょっとしか力が残っていなくて、これ以上こうしていると存在自体もなくなっちゃうから。ってやばっ! もう時間がないからじゃあね!」
そして、女の人の声が聞こえなくなった。
(なんか、いきなり声かけてきてすぐに去っていって、嵐みたいな人だな。)
再び私は、眠気に襲われる。
(なんだか気分もふわふわしててゆっくり眠れるのかぁ、ここが天国だったら、天国も悪い所じゃないな)
そう私は思いながら再び意識を手放した。
―――………―――
再び目を覚ます。今度はまたちがう光景が目に飛び込んできた。私の目の前に知らない初老という感じのおじさんと、若くて綺麗な、銀髪碧眼の女の人が私を覗き込んでいた。
「っ!」
急いで距離をとろうとするが、体は動かない。
「おぎゃー」
助けを呼ぼうとするが、自分の口から変な声が漏れる。私がパニクっていると、
「…………!」
「…………!」
その2人の人達は、私の知らない言葉で嬉しそうに話し始めた。
(動けないでこの状況なんて、私、この人達に食べられちゃうのかな)
「…………」
おじさんの方は、何かを言って私の側を離れてどこかへ行ってしまった。するとまた直ぐに1人の別の若い男の人を連れて戻ってきた。というより、その男の人がドタバタと、おじいさんの手首を掴んでおじいさんを引きずるようにして走り込んで近づいてきた。
「…………!」
やって来た、男の人も…この人の髪も銀色だ…何かを嬉しそうに叫んでいる。
すると、男の人の手が私に伸ばされ、頭を撫でられた。
(私、13歳で、もう中学一年生なんだから、こんなことされる年頃じゃないんですけど!)
そう思って、男の人に抗議しようとするが、
「うがー!」
(なんかまた声出ないんですけど! それにこの声って赤ちゃんの声じゃない!? も、も、も、もしかして私、赤ちゃんになっちゃったの!?)
「…………!」
男の人は隣で声を出して笑っている。そんなことお構いなしに私は、パニックしてた。そして、恐る恐る自分の手を見てみる。
「うがぁーー!!」
そう、紅葉の手だった。
(私、ほんとに赤ちゃんになっちゃった……。そう言えば、こういうの転生って言うのかな? お兄ちゃんの部屋にそんな感じの内容のラノベ?って言ったっけ。そんな本があったような……。とすると、この若い女の人と男の人が私の親なのかな? おじいさんは誰かわかんないけど)
ふと見上げると、男の人の、綺麗な紫色の瞳と目があった。
私にあえて、いかにも嬉しくてたまらないといった風にキラキラ輝いている。
『ヘレーナ』『ヘレーナ』『ヘレーナ』
私の今世の両親が、こちらに向かって何度も呼び掛けてくる。これが、この音の響きが私の名前なのかな…?
女性の柔らかくて白い手が、男性の筋ばった大きな手が、宝物を扱うかのように撫でてくる。
『いいこ、いいこ』
撫でられながら考えていると、赤ちゃんの体だからかだんだんと眠気に襲われてきた。
(あの人達いい人そうでよかった)
そう思いながら、私は瞼を閉じた。




