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君さえ居ればそれだけで  作者: ゆめあんどん
1/3

1. All I ever needed was you.

私の妄想にお付き合い頂ければ幸いです。



俺の彼女は世間一般の感覚から言えばドライというやつなのだろう。


忙しい彼女と会えるのはどんなにスケジュールを合わせたところで月に2、3度が限度。

会うのは専ら彼女の家で出かけることはほぼない。



基本会っていても仕事をしている彼女を俺が眺め、

時折彼女のためにコーヒーを淹れて、一緒に飲むだけで終わるのがほとんどだ。

それでも会えるだけいい方なので全く不満はない。

好きなことを仕事にしているからか、彼女が仕事に取り組んでいる姿は生き生きとしていて、見ていて飽きない。





大学のサークルやゼミの飲み会で聞かれるので彼女がいると答えてはいるのだが、一緒に写真を撮ったこともなく、彼女とのエピソードを話さない俺を見て、俺は彼女が居ないと思っている人の方が多い。

入学当初、男としか遊びに行かず、女の子の誘いを断る様子からゲイ疑惑が浮上した時はさすがに焦った。



「本日のゲストは、天方白百合(あまかたさゆり)さんです!」


テレビから、女子アナが今、若手No. 1と言われている女優を紹介しているのが聞こえた。


「うわぁ、今日も白百合ちゃんは可愛いなぁ。」

「最近毎日どこかしらの番組で見るようになったよな。」

「主演映画も決定したらしいぞ。」


騒ぐ男子学生を、尻目にテレビに映る女優に目を向ける。

花が綻ぶようなとはよく言ったもので、清楚で可愛らしいその笑顔で共演者をも魅了しているようだ。

司会進行のお笑い芸人が鼻の下を伸ばしデレデレになって見惚れている。


だらしない顔だな、何てぼーっと番組を眺めていると、目の前に缶のコーラが置かれる。


「よっ!お疲れさん。レポートの締切は間に合ったのか?」

「ああ、何とか。今回は本当に単位消えるかと思ったよ。」

「石原マジ容赦無いからなー、俺も早々に受理されたのは奇跡だと思ってるよ。」


石原とは学内でも情け容赦ない評価を付けることで、有名な教授だ。毎年受講者の半分以上が落とされ涙をのんでいる。


「いや、蓮二が通らなきゃ誰も通らないだろう。」


こいつは見かけの派手な印象からは想像できない程に頭が良く2年連続で主席を獲得している。そして、大学では俺の秘密を知るたった一人の親友である。もう一人親友はいるが他大の医学部にいるため連絡は頻繁に取るが一年のうちに会えるのは数回がそこそこだ。



「そうか?まあ、それはともかく、最近彼女とはどうなの?相変わらずか?」

「まあな。最近は忙しそうにしてて体調が心配になるが・・・。」

「あー、皐月のその顔見れば順調なのはよーくわかったわ。お前らって本当に分かりやすいよな。」

「分かりやすいなんて言うのはお前と大和ぐらいだよ。」


俺や彼女は、普段あまり表情筋が動かないのでよく誤解されやすい。出会った頃なんかは、それが災いしてお互い気になっていたにも関わらず、お互いが相手に興味を持たれていないと思い、距離を置いてしまったことがあるのだ。その時は蓮二と大和が、俺たちの様子にヤキモキしていたらしく、仲を取り持ってくれたのだ。



「わかりやすいよ。まー確かにずっと一緒にいるからっていうのもあるけど、目とか、雰囲気とかで大体わかる。あと、お前らお互い思い合ってるくせ自分のことに対して鈍感過ぎ。」



そうだろうか。彼女が鈍感なのは昔からだが、自分が鈍感と言われるのはちょっと納得がいかない。


俺の考えていることがわかったのか、蓮二は仕方なさそうに苦笑した。



「まあ、なんかあったら気軽に相談しろよ。協力するし、時間できたら久しぶりに彼女も交えて皆んなで遊ぼうぜ。」

「ああ。ありがとな。」

「それじゃ、俺はこれからバイトだから、またな。」

「おお。」



特に用があるわけでもなく、さりげなく気にかけてくれたようだ。本当に良い友人を得たと思う。




その後の講義も終わり、バイトも今日はない為夕飯の材料を買いにスーパーへ向かった。


思い出すのは最近の彼女の顔色の悪さだ。不規則な仕事でただでさえ体調管理が難しいのに、このところ本当に忙しいようで、先月会ったとき、また痩せてしまったように見えた。


一人分の材料で考えていたが、夕飯を作りに行こう。そうと決まれば足りない分の材料を買い足し、彼女のマンションへと向かった。





***





ご飯ありがとう。




翌朝、目を覚ましメッセージを開くと彼女から一言お礼が届いていた。送信時間は3:05。昨日も帰ってくるのが遅かったようだ。きっと今家に居たとしてもまだ寝ているだろうし、電話で声が聞きたいけれど、寝かせてあげた方が良さそうだ。


次はいつ会えるのか、すごく聞きたい衝動に駆られたが、今は仕事に集中しているだろうから邪魔になりたくない。途中まで打った文面を消し、スマホを閉じた。




今日は二週間ぶりにサークルに顔を出すことにした。映画サークルだが、作るよりは観る専門で、各々が見たいDVDを持ち寄って感想を自由に出し合う、というのが主な活動内容だ。参加もかなり自由で名前だけ所属して一度も顔を出さない奴はザラだが、どんな奴でもいつでも歓迎する雰囲気がとても好きだった。



いつの間にか入部したらしい、初めて見る女の先輩のおススメのアクション映画を見終え、帰りの支度をしていると、飲み会に誘われた。


飲み会にはあまり乗り気ではなかったが、いつも親切にしてくれる部長(男)に誘われたのもあり、断るの微妙かと思い、行くことにした。








***





はめられた。




てっきりサークルの飲み会だと思ったらまさかの合コンだった。どういうことだと部長に視線を送ると申し訳無さそうに目線で謝られた。人がいいから、きっと直前にでも合コンの人数確保を頼まれて断れなかったんだろう、と推察する。



合コンの雰囲気にあえて水を差すのも部長に悪いと思い、最低限の挨拶のみで積極的に会話に入らないでいると、横に女の子が座ってきた。


「会話に加わらないの?」


ハイボールを飲みながら横目でチラリと視線をやると、一瞬、ストレートロングの黒髪に目を奪われた。


「合コンって知らなかったし、俺、彼女いるから。」

「でも、そう言って貴方の彼女一度も見たこと無いって聞いたわよ?」


誰が余計なことを・・・と目線を前に向けるとサークルのチャラ男で有名な先輩がニヤニヤした顔でこちらを見ていた。ハイボールをかけてやろうかと思うくらいにはムカつく顔だ。


「彼女がいるのは本当だよ。」

「どれぐらいの頻度で会うの?」

「・・・月に2、3回」

「それ本当に彼女?・・・寂しいんでしょ?」


動揺を見抜かれてしまったらしい。寂しくないと言ったら嘘になる。彼女のマンションにご飯を作りに行っても、彼女とは会えていない。最近は連絡もあまり取れておらず、最後に会ってからもうすぐ3ヶ月が経とうとしている。



何よりも、あることが原因でこの日は気持ちにあまり余裕が持てない状態だった。



「・・・慰めてあげようか」




彼女と似た髪をもつこの女の子を見ていると、取り返しのつかないことになりそうな気がして、さり気無く話題を逸らし、ハイボールを煽った。





合コンがお開きとなり、やっと解放されたと駅に向かうと、先程の女の子がまた話しかけてきた。


「ねえ。さっきははぐらかされちゃったけど、私、あなたに興味があるの。・・・私なら、寂しい思いさせないよ?」


やめてくれ。


「無理だよ。」

「どうして?あなた今どんな顔してるかわかる?」


彼女と似た髪を揺らし、顔を覗きこんでくる。


「とっても苦しそう。」


この子は彼女じゃない。


動けない俺の首に腕を回してくる。


頰を擽る髪の柔らかさが彼女とあまりにも似過ぎていて。


耳元で俺を誘うこの子の声が最近画面越ししか聴けていなかった彼女の声と重なった。








***





合コンの日から2日後、彼女からメッセージがあり、久しぶりに少しの時間が取れたと連絡が来た。その日の講義は自分でもどうかと思うほどうわの空で、内容が全く入ってこなかった。


ここのところ皐月が元気がないことに薄々気づいていた蓮二が、そんな様子に密かに安堵していたことにも俺は気付いていなかった。




彼女の好物である豚の生姜焼きを用意し、リビングで

彼女を待つ。時刻は19:00を回ったところ。予定ではもう帰ってきてもいい時間だ。せわしなくスマホをいじっていると、玄関のオートロックが解除される音を聞いた。



リビングのドアが開き、3ヶ月ぶりの彼女を見る。


また痩せてしまったように見えた。真っ白な肌に柔らかく長い黒髪が特徴の彼女は、儚げな印象を持たれることが多いが、疲れからかその印象が一層増して、今にも溶けて消えてしまいそうだった。



「お帰り。ご飯出来てるよ。生姜焼きにしたんだ。好物だろ?食べよっか。」

「・・・ただいま。うん。ありがとう。」


一瞬辛そうな表情をした彼女は、すぐに元の表情に戻り準備をしに部屋に入っていった。


どうしたんだろか。しばらく連絡できなかったことを気に病んでいるのだろうか。それは彼女のせいではないのに。



彼女が戻り、向かい合って一緒にご飯を食べる。俺はこの時間が本当に大好きだった。表情がなかなか動かない彼女が無防備に笑う瞬間の一つがご飯を食べる時なのだ。



けれど、今日は少しいつもと彼女の様子が違った。何かをずっと考えているようで、話しかけてもうわの空だ。



後片付けも終わり、リビングのソファーに並んで座ると、沈黙が流れた。



どこかおかしい様子に俺は戸惑いが隠せない。



「どうしたの?何か悩みごと?・・・連絡が取れなかったのは気にしなくて大丈夫だよ。」

「・・・えっと。そうじゃないの。」

「じゃあ、何?」


彼女は俯いていてその表情はわからない。





「別れましょう」



鈍器で殴られたような衝撃で頭が真っ白になった。何で、どうして、そんな言葉ばかり浮かんでは消え、俺は言葉を発せない。



その後のことはあまり記憶がなく、辛うじて彼女の部屋を出て一人暮らしのアパートについたところまでは確かに憶えていた。



けれど、俺は冷静になるべきだった。

動揺し過ぎていたせいで、忘れていたのだ。

彼女は職業柄演技が得意であることを。




だから自然過ぎる微笑みに騙され、彼女の手が震えていたことにも、俺が部屋から立ち去る時に涙を流しながら見送っていたことにも全く気づけなかった。







表現を一部修正しました。(編集: 2025/08/25)

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