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最強タッグになるために俺たちは校長を倒す

作者: シャドーナイト
掲載日:2017/10/08



 小さい頃から最強と呼ばれるのが夢だった。



 だから俺、今村討意(いまむらとうい)は毎日修行に励んだ。朝五時から十二時まで体力作りのランニング。十二時からは、筋トレや一流冒険者の父さんと剣術の稽古。もちろん魔法の修行も精一杯励んだし、幼馴染とタッグを組んで魔物を倒したりもしてきた。おかげでレベルは相当上がったので、同じようにステータスも上がる……はずだった。


「とー君おっはよー!」


 不意に後ろから声をかけられ振り返ると、そこに居たのは泉愛菜(いずみあいな)、俺の幼馴染だ。元気でうるさい声のはずなのに、身体中に染み渡るような癒し声。

 いや、今はそんなことより……


「いい加減俺を雑魚キャラの名前で呼ぶのはやめてくれないか、愛菜」


 触るだけで倒せるような雑魚モンスターの名前で呼ばれるのは、納得がいかない。


「とー君に雑魚って言われるんじゃ、生まれたての赤ん坊でもトークン倒せるかもね。あはは」


「あはは。じゃない! いくらステータスが成長しないからって、あんまり馬鹿にするなよ。その分唯一成長する『回避』だけは成長スピードが半端ないんだからな!」


 周りに俺や愛菜と同じ、冒険者育成専門学校『意苦猛(いくもう)』の制服を着た生徒がいるので少し抑え気味の声で言う。

 しかし全く気にする様子もなく、愛菜は笑い続けた。暫くすると、ストレートロングの黒髪を耳に掛けながら少し真面目な表情で呟いた。


「二人で一番取ろうね」


「ああ。最強タッグとして有名になって、この学校を卒業してやるんだ」


「うん! そのためにはこれから始まる入学式で変な事やらかさないでよ?」


「なんもやらかさねぇよ」


 凛とした顔立ちに、瑞々しい唇。

 相変わらず、なんでこんなに可愛いんだよ愛菜は。変な男に目つけられないよう注意しておかないとな。

 そんなことを考えながら愛菜の美貌を眺めていると、これから三年間お世話になる通学路の端の民家に寄り掛かって、ネガティブオーラを纏わせている男が視界に入った。

 慌てて愛菜の肩に手を回して引き寄せる。


「きゅ、急にどうしたの!?」


 ああいう奴に、愛菜を関わらせるのは色々とまずい。昨日彼女だと思って抱いた女性が実は母親だったくらい落ちぶれている。そんな時急に愛菜みたいな美少女が目の前に現れたら、俺ならすぐ声をかける。


「いや、別になんでも」


 適当に会話を濁すと、男が手に持つパンフレットが目に入った。昨日送られて来た『意苦猛入学式』パンフレットは、見た目ではなくその内容が不思議だった。

 入学式といえば普通理事長の挨拶や、先輩のお言葉、その他いろいろなことがあって成り立つものだ。なのに昨日送られて来たパンフレットには、たった一言だけしか書かれていなかった。


『校長挨拶』


 二、三時間も校長が一人で喋り続けるのだろうか。いや、まさかな。


「ーーん、ねぇとー君聞いてる?」


「え、ああ悪い。ちょっと考え事してた」


「もう……まあいいけど、着いたよ。これから三年間お世話になる『意苦猛』に」


 愛菜の顔がほぼ真上を向いていたので、視線を辿って俺も上を向いた。


「先週の説明会で聴いてはいたけど、とんでもなくデカイなここ」


「ほんとだね。…………あれ、あそこ」


 袖を引っ張られたので、愛菜の指差す方向を見る。


「うわ、眩しいっ!」


 突然太陽が目の前に現れたかのような光が俺の両目を刺した。というか、あれは本物の太陽?


「あの人の頭、太陽みたいだね」


 俺のセリフを代弁してくれたので、そっと口を閉じ、目を細める。だんだんと光は薄れ、その姿が露わになっていく。

 そしてーー


「ハゲだ」


「ハゲだね」


「意苦猛(育毛)なのに」


「育毛なのにね」


 あんなに綺麗なハゲを見たのは初めてだ。父さんも結構薄毛だと思っていたが、まさかアレを超える人間がいたとは……


「全部聴こえとるわいガキども!」


 三階のテラスと思われる場所から、男は手に持っていた何かを投げた。ソレは速すぎて、目で捉えることすらできない。捉えられないのだが、俺の体、いやステータスがソレを避けた。


「ほう、アレを避けるか。今年の生徒は骨がありそうじゃ!」


 ベチャっと嫌な音が後ろから聞こえたので振り返ると、割れた風船とその中から溢れ出したスライムが地面を汚していた。

 続いて愛菜も振り返り、俺に訊いてくる。


「とー君、一体何が……!?」


「俺に訊かれても。おいあんた!」


 大声で叫びながら男のいた所を見るが、しかしそこには誰もいなかった。


「なんなんだよあの人……」


「まあなんでもいいじゃん! 早く中入ろ!」


 学校の案内マップで体育館の場所を確認し、俺たちは入学式の会場へと足を進めた。



****



 入学式が初まってから僅か一分。


「それでは本日の始まりにして終わりの、校長挨拶に移りたいと思います。その前に! パンフレットにも、公式ホームページにも載せてない校長挨拶の長さについてお伝えします」


 それについては俺も気になっていた。校長挨拶と書かれた横に、『時間:??』と記されていたからだ。

 隣の席に座る愛菜も気になっていたのか、体を少し前に倒す。

 耳を澄まし、時間を正確に聴き取る。


「100時間」


「は?」


 俺の声を起点に、生徒達全員が声を上げた。


「ふざけるな!」


「冗談言ってないでさっさと始めろよ!」


「というか私もう帰りたいんだけど!」


 いやそれはダメだろ……


「100時間とかふざけんなよ!? そんな長くここにいられるわけないし、まず、ここにいる全員餓死するっつうの!」


 生徒達は騒ぎ、司会の女性は必死に収めようとするが全くもって効果がない。この後に説明があるはずだし、俺は早くそれが聴きたいのだが。

 愛菜も隣で耳を塞ぎながら目を瞑っている。

 あんまり得意ではないが、そろそろ俺が声を張って収めてやらないと司会の人がかわいそうだしな。

 そう思って肺一杯に空気を吸うが、


「いい加減にしないか!!」


 体育館中に響き渡った重音は、司会の後ろで仁王立ちしている先生らしき男のものだ。どんな魔法を使ったのか、一瞬にして生まれた片手剣を右手に持って更に言い放った。


「俺にも我慢の限界というものがある。司会や先生が喋ってる時に喋るとか、この学校舐めてんだろ?」


 すると、二席前の最前列に座るリーゼントの男が抗議する。


「それはこっちのセリフだ! 入学式早々100時間のスピーチとか俺たちのこと舐めてーー」


「おいお前。俺の話ちゃんと聴いてんのか? 次喋ったらお前の命、いや、そんなもんじゃ足りねぇ」


 全身を襲ってくる寒気が、剣を持つ男の殺気だというのは言うまでもないほど明らかだった。なぜならそれが、黒いオーラとして目に見えてしまっているから。


「命よりも大切な物……そうだなぁ。髪…………そう、髪だ。次喋ったらお前の髪をそぎ落としてくれる」


 リーゼントの男は両手で頭を抑えながら、その口を開いてしまった。


「ごめんなさい。命はあげます。でも髪だけは……!」


 なんでそうなるんだよ。命やるくらいなら髪やれよ。

 俺のツッコミもむなしく、男は長剣を一振り。

 バサッ。

 髪は根元から削ぎ落とされて、いつか見た男の太陽のような頭とそっくりになった。


「…………」


 驚きのあまり言葉もないのか、少しの間沈黙が場を支配した。

 そして俺は気付いてしまう。男がショックのあまり気を失っているということに。

 隣に視線を移すと、愛菜は未だ耳を塞いでいた。軽く突っついても返事がない。まさか寝てるのか?

 この状況で寝るのはまずいと思って強めに肩を揺する。しかし「う〜ん」と唸るだけで、全く起きようとしない。

 やむ負えない、少しだけ声を出すか……


「おい、もう誰も騒いでないぞ。というか誰も喋ってすらいないぞ。俺以外」


 左隣の人も気づかないほど小さな声のはずなのに、男はそれに気がついた。


「今喋った奴は誰だ!? すぐ出てくれば一思いに体毛を全てこの聖剣で逝かせてやる!」


 体毛を全て!? それは色々とまずい。てか聖剣をそんなことに使うのはやめろ!

 体育館内はどよめくはずもなく、皆無言を貫き通している。

 男の声がうるさかったのか、愛菜はハッと目を覚ました。そして立ち上がり、


「喋ってましぇん!」


 敬礼しながら言い放つ。

 寝ぼけてるにしては酷すぎる! 


「いや、お前はたった今喋った! 喰らえ、体毛断罪!」


「ふぇ?」


 俺より先にお前が変なことやらかしてどうする!?

 ああもう、元はと言えば俺のせいだ。どんな噂がひろまろうと知ったもんか!

 俺は立ち上がり、愛菜をお姫様抱っこして体育館内全人類の視線を浴びる。しかしこうしていれば、例え体毛断罪がどんな技であっても、俺のステータスさえあれば避けられるはずだ。


「やめないか、エドモンド先生」


 振りかぶられた聖剣の前に、太陽が現れた。髪の毛一つない頭皮で体育館の照明を全て反射し、まるで白い紙に虫眼鏡で太陽の光を浴びせたかのように輝いている。


「しかし校長!」


 おい待て。校長……? だとしたらなんでスライム風船なんか投げてくるんだよ。それ以前になんでそんなもの持ってるんだよ。自作しないと手に入らないぞあんなの。


「ほう? わしに指図するのか?」


「い、いえ、決してそのようなつもりは……」


「よかろう」


 校長の目が俺を完璧に捉えた。しかし言葉が放たれるよりも早く、エドモンドが口を挟む。


「最後に、無礼を承知で一つよろしいでしょうか?」


「なんじゃい? 言うてみ、エドモンド」


 エドモンドは恥ずかしそうに指先をモジモジさせてから息を整えると、呟く。


「僕の名前はエドモンドではありません。山下です」


 エドモンド改め山下先生は校長が頷いたのを見ると、一礼して下がっていった。


「それじゃあ改めて。ゴホン。ロズワール先生ーー」


「山下です」


「下山先生ーー」


「山下です」


 笑ってはいけない雰囲気のせいで誰も笑うことができない。できることなら俺も今すぐに大爆笑したい。


「山下先生の仰る通り、わしらが話してる時に上から喋るのはよくないのぉ。よって主等を一流冒険者に育てるため、今後それについては厳しく指導する」


 ひとまず安心して良さそうなので、俺は愛菜を椅子に座らせる。早速眠り始める姿は実に美しくて、なぜかは知らないが制服のボタンが上から三個ほど外れていて…………下着……が……

 悩殺された周囲の男子たちは鼻血とともに気を失った。かく言う俺も鼻の中が血の匂いで満たされてきた。幸い外に出ることはなかったが、後少しで危ないところだ。

 再び校長に目を戻した途端、激しい光が俺の目を襲う。


「すみません校長先生。幼馴染が大変失礼なこ……と、を……」


 目を細めた俺が見たのは、多分幼馴染という単語に反応して、最近大気圏を突破したと話題になっているロケットの発射並みに鼻血を噴射する校長の姿だった。

 きっと魔法で鼻血の飛距離を伸ばしているのだろう。

 綺麗に掃除されていてピカピカな床が、一瞬にして血の海へと変わる。

 もう嫌だこんな学校。先生が特殊すぎる。


「幼馴染……黒髪…………美少女ッッ!!」


 かなり興奮しているのか、校長は竜巻のように回転を始めた。山下先生含め、数々の先生が校長と言う名のエロじじいが噴射する鼻血の餌食となっていく。

 同じように被害にあった最前列の生徒達は流石に叫び始めて、後列へと走る。

 しかしこんなことさえ微動だにしない男が一人。そう、あのリーゼント(だった)男である。

 俺は気にせず震えた声で叫ぶ。


「校長! あなたの鼻血で得する人なんて一人もいません! せめて回転をやめてください!」


「幼馴染黒髪美少女幼馴染黒髪美少女幼馴染……」


「ダメだこの人、って、司会の人! 早くそこから逃げろ!」


 俺は床で息を荒げている司会の女性に叫んだ。


「ハァ、ハァ、校長の体液だぁ! あああ、身体中にビリビリ来るこの匂い、この感触! たまらないいいイイィィーーーッ!」


「真面目にこの学校ダメだ」


 やっぱりもう逃げなくていいよ。俺に人の性癖をとやかく言う資格なんてないし。

 なんでこんな学校の卒業生が全員揃って一流冒険者になれるんだろう。

 ああ。こんな頭のおかしい先生達に囲まれて、狂人的なメンタルを手に入れたからか。


「ここに来ればステータスが成長しない理由くらいわかるかなと思ったんだけど」


 生徒達は大混乱に陥っていた。校長から逃げるように、みんな体育館から出て行く。


「俺も愛菜連れて帰るか」


 愛菜の背中と足に手を回し、抱える。

 瞬間、俺の体は大きく右に飛ばされた。いや、ステータスが飛んでくれたと言うべきかもしれない。

 躱したソレは出口で詰まっている生徒のうち、薄く金色に輝く長い髪を持つ女子の背中に直撃した。


「ひゃっ!」


 破裂して、中から飛び出たスライムが女子生徒の制服に絡みつき、ゆっくりとスカートの中へと垂れていく。


「嫌だっ。背中がヌルヌルして……きゃっ! 何かスカートの中に入って来たっ! 気持ち悪い、誰かとってー!」


「「「俺が!」」」


 五人の男子生徒がその子に近づいて、気持ち悪い動きをする右手をスカートに伸ばしーー


「変態!」


 繰り出された平手打ちで頬を打たれ、後頭部から床に倒れこんだ。


「「「こ、これはこれで……ハァハァ」」」


 もう見たくない。というかこの空間に居たくない。早く帰りたいのに、あのエロじじい!

 

「ニッコリ」


「満面の笑みでニッコリとかいってんじゃねぇーーーーっ!」


「それには俺も賛成だ、少年」


 後ろから突然声をかけられたので振り向くと、そこには間違った聖剣の使い方をする山下先生がいた。


「あそこまでの生徒に対する非道、この山下、祖父の名にかけて許すわけにはいかない!」


「お前も同じようなもんだけどな!? まあいいや、味方は一人でも多い方が助かる。……因みに祖父の名前は?」


 ドヤ顔でサムアップしながら、山下(先生)は言った。


「エドモンド……エドモンド……ドモンド……モンド……ンド……ド…………だ!」


「自分でエコーかけなくていいから!」


 本当になんなんだここの先生は。それよりさっきから少しずつ照明が強くなってる気がする。


「なぁ、山下先生」


「なんだね、少年」


「ここの照明なんか強くなってきてないか?」


「それはな」


 山下先生の指差す方を見ると、黒い帽子に黒いローブを羽織った(明らかに魔女)女性が魔法の詠唱をしていた。


「あの魔女が光属性の魔法で照明を強くしているからだ」


「なるほどな。ならまずあいつから倒すか。このままだと校長の頭が眩しすぎてまともに近づくことすらできない」


「了解した。ところで少年、名はなんという?」


「俺は今村討意。ここで寝ている泉愛菜と、いずれ最強タッグとして有名になる男だ」


「討意、か。まさかとは思うが、『ひ』と書いて『い』と読むわけではーー」


「違うわ! 間違って今村討意(いまむらとうひ)なんて呼ばれたら泣くぞ俺」


「これは失礼。では行くか!」


「お、おう!」


 そう言うと、俺はまず愛菜のボタンを締めてから、文字通り彼女を叩き起こした。魔女が照明を強くしていてくれたおかげで、すぐに起きてくれた。

 戦闘にも加わってくれるそうだ。幼い頃から一緒に戦ってきたパートナーが側にいるというのはとても心強い。


「それで、あの魔女みたいなやつを倒せばいいんでしょ?」


「おう、そっちは任せた。じゃあ山下先生、俺たちは校長を含む他の先生たちを殺るぞ」


「それは構わないが、あの魔女は俺よりも強いぞ。愛菜一人で大丈夫なのか?」


 愛菜をいきなり呼び捨てとは、まさかこいつ気があるのか? 

 心で呟いたその問いに答えるように、山下先生は顔を赤く染めた。

 ダメだ。この学校の人間だけは……特にお前は絶対にダメだぁ!


「だ、大丈夫。地元では美少女ゴリラって呼ばれてるほどの馬鹿力の持ち主だかぐふおぉぉっ!」


 頭頂部にゲンコツが落ちてきた。俺は勢いに負けてそのまま土下座をしながら愛菜の声を聞く。


「その呼ばれ方は嫌いなの! そこの魔女の前に倒されたいの!?」


「嫌です。ごめんなさい」


 俺の回避値、七百三十一をもってしても愛菜の技を避けられないのはどうしてなんだろう。

 国家の騎士隊長でも回避は四十程しかないのに。

 二百年前に居たとされる魔王ですら回避は百二十だって父さんが言ってたはずなのに。

 どうしてお前の攻撃はこうも簡単に当たるんだよ。こういう時こそ仕事してくれ、ステータス。


「そこの何とか先生!」


「山下です」


「戦闘中もしこいつが邪魔だったら、まとめてやっちゃっていいですから!」


 長い黒髪を宙に靡かせながら訴える愛菜。山下先生は彼女に話しかけてもらって凄く嬉しそうに笑みを浮かべている。


「もう好きにしてくれ……ほら、行くぞ山下!」


「先生をつけろ先生を」


 山下の手を強引に引いて、なるべく愛菜から遠ざける。

 その間にも校長の頭皮は輝きを増し続けていて、世界が光に染まりつつあった。


「おーい愛菜ああーー!」


 俺は右手を突き出して、親指を上げる。そしてそれを下に向けると同時に、


「殺れ」


 ただ一言吐き捨てた。


「あんまり人前で使いたくないんだけどなぁ。仕方ないか」


 ついに、これまで全く動かなかった校長が動いた。愛菜が放つ水々しいオーラに恐怖を感じたのか、左右の手からスライム風船を一、二、三、四、五六七………………数え切れないほど出現させると、浮遊魔法で一斉に飛ばした。


 愛菜逃げろーーーっ!


 とは言わない。なぜならスライムは、愛菜の栄養であり力の源であり、家族であるのだから。


「なっ……! 愛菜が、俺の愛菜がああぁぁぁ!」


「お前のじゃねぇよ」


 愛菜の制服が裂け、潤いに満ちた白い肌は青へと変わる。最高級の絹を思わせる黒い長髪は金の王冠になり、マシュマロのように柔らかい肌は、ゼリーのように弾力を持った。

 細胞の全てが形を失って、ぐにょっと床に崩れ落ちる。どこが顔なのかすらわからなくなった時、校長が目を見開いた。

 光の隙間から微かに見えたその顔が実に滑稽だったので俺は、


「ニッコリ」


 そう言い放つ。続けて俺はさらに叫ぶ。


「これこそ! 世界でたった一人、愛菜だけが覚えたユニークスキル! 《キング・オブ・サムシング》」


「「「どう見てもスライムだろ!」」」


「お、愛菜の美しさが一瞬で青い何かへと変わったショックで目が覚めたのかな、変態なる男子たちよ」


 愛菜の下着を見て気絶した男子たちの全てが突然目を覚ました。あの美少女がスライムに変わったんだ。ショックでハゲてもおかしくない。


「「「違うから! たまたま今起きただけだから!」」」


 取り敢えずみんなには避難してもらった。一流冒険者を目指してるからといっても、そのほとんどは戦闘経験すらない素人だ。

 『避難してもらう』という名の『戦うのに邪魔だからどかした』である。

 それはさておき。


「おーーい愛菜あああ! そろそろ目が焼け落ちそうだから早めに頼む!」


 愛菜ことキングスライムは、手のような形に伸ばしたスライムで親指を立てるジェスチャーをした。これであの魔女は…………想像したら謝りたくなってきた。


「スラーー」


 左から右に一閃されたキングスライムの腕(と思われる場所)は自らの欠片を飛ばす。

 ベチャベチャっと音を立てて魔女に着弾し、黒いローブを上から下へと垂れていく。スライムに触れた服は全て溶け、張りのある肌が露わになった。とんがり帽子にも着弾して、影で見えなかった顔が見えた。


「ろ、ろ……ロリっ子きたあぁぁぁぁぁぁ!」


「君はそういう趣味だったのか。ちなみに俺は美少女なら誰でもオーケー!」


 ロリっ子は戦意喪失して、目尻に涙を浮かべている。それもまたロリっ子の可愛さ。たまらん。


「ロリっ子は後でじっくり堪能するとしてーー」


「ーーーーうわぁっ!!」


「………………………」


 今ロリっ子が喜んだように見えたのは気のせいだろうか。気のせいだよな。俺は彼女に変態極まる視線を向けた。それで喜ぶはずがない。

 

「う、うわああ、あ、あ、あ〜〜! このスライムがわたしの力を奪って、うわあ、あー」


 誰が聞いてもわざとだと分かる叫び声がロリっ子から出た。

 同時に照明の強さは元に戻り、頭皮の輝きも直視できるほどにまで弱まる。


「ナイス愛菜! 行くぞ山下!」


「もう準備はできてる! 生徒に対する非道を謝れ、校長! 喰らえ、体毛断罪っ!」


 だからその使い方やめろっつーの!


 俺はその一撃で校長を倒したと確信した。繰り出された斬撃は大気を縫うかの如く軌道で、避けられるはずがないと思ったからだ。


 しかしーー


「効かぬわそんな攻撃!」


「なぜだ!? 体毛断罪は確かに当たったはず。体毛を全て削ぎ落とされて、ショックとか受けないのか!?」


 床を両手で叩きながら絶叫する山下。嘲笑うかのように校長はニッコリと頬を吊り上げた。


「そんな技なくとも、わしは毎日体毛を一本も残さず切り落としとるわ!」


「なっ!?」


「嘘だろ……」


 体毛を毎日切り落としている…………つまり、体毛がないのが普通。ということはーー!


「ちょっといいか、山下」


「?」


 俺は山下に作戦を伝えると、校長に向かって全力で走った。


「血迷ったか!」


 無数のスライム風船を全て躱し、校長の目の前で急停止。


「はあぁっ!」


 回避以外は初期ステータスの俺なりに力を込めて拳を突き出した。


「舐めるなっ!」


 無駄のない動作で拳を右に弾かれた。

 残念、俺はただの囮!


「山下おおお! 今だーー!」


 俺は左足を軸に百八十度回転すると、校長の肘に手を回して押さえつける。さすがは老人だけあって、筋力は低い。これなら俺でも抑えてられる。

 力を溜め終えた山下が聖剣を上段に構えて、真下に振り下ろした。


「俺の最終奥義、《大将! 体毛増し増しで!》を喰らって、生きて帰った者はいない…………まあ使うのはこれが初めてだがな!」


 俺が目にしたのは、漆黒の斬撃から幾重にも伸びる毛。


「俺が提案した技だけどキモい!」


 あまりのキモさに一瞬力を緩めてしまう。その隙は見逃されることなく、拘束を破られてしまった。

 刹那、校長の唇が小さく動いた気がする。声になることはなかったその言葉を俺は読んだ。


『わしも最終奥義を使うとするか』


 反射的に体が校長から離れた。


「なんだこれ、眩しすぎる!」


 極限まで目を細め、校長を見る。

 漆黒の斬撃は光に呑まれて消滅。山下の叫び声が耳に刺さる。

 光の元に視線を移すと、俺の目に飛び込んできたのは……


「おいおい嘘だろ。あんなのもう光ってるどころじゃねぇぞ。あれはーーーーーーテカってる!」


「これぞわしの最終奥義! 《オイルアンド発光魔法!》 わっはっはっは!」


 くそっ! 父さんの薄毛なんて比べ物にすらならない。ハゲの道を極めるとこんなに強いのか!? 俺の回避でも、全方向に走る光までは避けられない。どうすれば、どうすればこいつを倒せる?


『相手の立場になって考えるんだ』


 父さんの言葉が脳裏に過る。

 相手の立場に……俺はハゲで、攻撃方法は頭の光とスライム風船だけ。

 相手は体毛を増やす先生と、攻撃の当たらないガキにキングスライム。他の先生からは鼻血をかけた恨みで睨まれていて…………そもそもなんで俺たちを体育館から出してくれないのだろう。

 俺が校長なら、その理由はーーーー


「校長」


「なんじゃい!?」


「こんなに眩しいと、校長のかっこいい頭が見れないよ。俺、校長の頭を見るためにこの学校に入ったのに……これじゃあ…………」


 俺の演技が下手なのもわかってる。これが正解の言葉なのかもわからない。でも、俺なら生徒に褒められて、頼りにされたい!


「校長の技の組み合わせ、すっごく強いし、俺たち3人を相手に一歩も引かない勇気だって、校長が一流冒険者である証なんだ。

 だから俺は学びたい。先生から、戦闘とは何か。勇気とはなんなのか。ハゲとはなんなのかを!」


 人の姿に戻ったのか、愛菜の声も続けて響いた。


「私も先生から授業受けたいよ! こんな不毛な戦いはもうやめて、私たちに授業してよ! 先生かっこいいし、私、先生のことーー」


 しかし俺たちの演技を、山下がぶち壊す。


「愛菜……君はこんな老人が好きなのか!? こうなったら俺も老人に……」


 空気読め!


「ぐぬっ!? そんなにわしのことを……」


 パチン!

 澄んだ高音が響き、なんと光が収まった。

 俺は顔を上げ、校長を見る。

 床に両手と膝をついて、皺の多い瞳から涙を流していた。

 愛菜と山下はハイタッチを交しながら喜んでいる。俺は走って二人に近づくと、大きくハイタッチを交した。





 その後は愛菜と山下が浄化魔法で、他の先生達の鼻血を綺麗にした。校長は深く反省していて、謝罪の意も込めて俺のステータスが成長しない原因を突き止めてくれた。

 原因は俺が小さい頃、道端に生えてた草を食べたこと。その草は猛毒の持ち主で、普通は死んでしまうらしいが、俺は運良く生き延びた。その代償としてステータスが成長しなくなっていた訳だ。

 何日かして再び入学式が開かれた。校長はスピーチを五分で終わりにさせると、無理やり俺にスピーチをさせた。

 俺は愛菜を道連れに恥を受け入れようとしたのだが、愛菜のアドリブは驚くほど完璧で、体育館内の皆が沸いた。

 あいなにマイクを手渡され、覚悟を決めて一言だけ口にする。


「えーっと、道端に生えてる草はくれぐれも食べないようにしましょう」


「当たり前だろ〜」


「そんなことしないわよ〜」


「それと! この学校では俺たちが一番とるから!」


 そう言って愛菜の肩に腕を回す。愛菜も俺の肩に腕を回し、無邪気な笑顔を浮かべた。


「という訳でみんなには、俺たちに負けない気持ちで精一杯修行して、学校生活も全力で盛り上げていってほしい!」


 少しの間沈黙が場を包み、そしてーー


「「「うおおぉぉぉぉおおぉおおお!!」」」


 今回の入学式は平和に終わり、三日後から学校生活が始まった。

 そこで俺の生活が普通にならなかったのは、最早言うまでもない。

 

 


 

 

楽しんでいただけましたか?

連載にして学校生活の方まで書こうか迷ったのですが、人気が出ないことへの恐怖に負けて、短編という形で投稿させてもらいました。100点とか行ったら連載も考えようかな。



この物語はフィクションです。作者がハゲ嫌いというわけでも、体毛で悩んでいるわけでもありません。


フィクションです(大事なことなので二回)



フィクションです(大事なことなので三回)

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