ノーテンキ冒険隊・最後の聖戦(前編)
無機質な電子の声で、爆発の時間を予告するブロッケン。
ブラザーズと雷也と群がっていた兵士達は、ズザザザザッと後ずさる。
「僕は本気だ……。もう、この世界で生きるのは嫌になった……」
「待つでござる! 死ぬのは勝手でござるが、山瀬殿も巻き込むのでござるか?」
「なんだかんだ言っても、僕は彼女を愛している。共に死ぬ事で、ようやく僕たちは一つになれるんだ……」
あまりにも、自分本位な理屈を語る。
さらに、霧崎は言葉を続ける。
「僕は生来の気弱さに付け込まれ、子供の頃からずっといじめられていた。だけど、オーロラ様と出会ったことで人生が変わった。類い稀な発明の才能を持ちながら、誰にも認めて貰えなかった僕を、彼女は必要としてくれたんだ。女の人に頼られるなんて初めてだった、嬉しかった……。でも、夢は潰えた。僕はもう、死ぬしか無い」
最期の言葉を放ち、霧崎はガクッと気を失った。
「ちょっと待てって、そこで気絶すんなー!」
「都合良すぎだろー!」
どうすべー、どうすべーと慌てふためくブラザーズたち。
「何か、かわいそう……。そんな方法でしか、自分の気持ちを表せないなんて……」
そこへ、クラウドと晴海が駆けつける。
「おおー、インディ娘ちゃん、無事だったかー」
「クラウドも一緒だったのか?」
「まあな。さあ、このバカはともかく、山瀬さんをとっとと助け出すぞ!」
クラウドはメガ正宗、雷也は鉄拳、ブラザーズも石をぶつけてガラスをぶち破ろうするが、多重防弾ガラスは伊達じゃなく、ヒビ一つ入れる事ができない。
「固ってーな、くそっ! 全く歯が立たねー!」
「そういや、こいつ、ロケットランチャーでもないと破壊出来ないとか言ってたな。ドラれも~ん、リュックからロケットランチャー出してよ~」
「誰がドラれもんだ。んなもん、持ってるか!」
「なんだよー、いざって時に全然役に立たないなー」
「なんだとー! 三雲雑貨店特製『五次元リュック』をバカにすんなよ!」
クラウドとブラザーズはお互いのほっぺたを、ぐににににーっと引っ張り合う。
『アト、9分、デ爆発シマス』
「もう、そんなケンカしてる場合じゃないでしょ! お願い、みんなも手伝って!」
晴海は、周りを取り巻く男たちに呼び掛ける。
だが、その反応は。
何で、助けないといけないんだ?
こいつら、悪の黒幕だろ?
カリスマ教に操られていた者、むりやり労働をさせられていた者などからは、むしろ放っておくべきとの意見が湧いて出る。
さらに。
「俺たちは、この女にたぶらかされてたんだ。助ける必要なんか無い!」
「俺たちの仲間は、このロボットに大ケガを負わされた! 死ぬのは自業自得だろ!」
一人が石を投げ始めると、その場にいた者たちは一斉に石を拾ってブロッケンに向かって投げつける。
「うわうわうわ!」
「みんな、やめてー!」
晴海は山瀬たちを庇うように立ち、クラウドは飛来してきた石をメガ正宗で弾いて守る。
晴海たちの必死の訴えに暴動がおさまると、晴海はその場にいる者たちに話しかける。
「確かに、この人達は許されない事をしたかも知れない。でも、玲華さんは罪を償うって約束してくれたし、あたしの大事な友達なんです。そして……」
晴海は霧崎を見て、再び周囲に向き合う。
「独りぼっちだったあたしは、雪姫と出会う事ができた。玲華さんには愛してくれる人がいた。でも、この人には誰もいなかった。誰にも救われず、独りでいる寂しさに押し潰されてしまったんだと思います」
晴海は瞳に涙を浮かべながら、男たちに哀願する。
「だから、みんなお願い……。2人を助けてあげて……」
『アト、8分、デ爆発シマス』
戸惑いを隠せない、元カリスマ教の兵士たち。
だが、これまでの彼らの所業を思い返すと、率先して動く者は1人もいない。
「クラウド、メガホン借りるぞー」
「あ、こら、勝手に取るなよ」
「硬いこと言うなよー。要はこいつらを動かせばいいんだろ?」
雨森ブラザーズは、クラウドのリュックに手を突っ込み、それぞれメガホンを手に取ると、周囲に向けて演説を始めた。
「はい、はーい。モテない野郎どもは、みんな聞いてねー」
「耳寄り情報だよー」
拡声器越しの間の抜けた声が響き、雨森ブラザーズが周囲の男たちに呼び掛ける。
「まず、ここにいる山瀬さんは生徒会副会長だよー」
「助けたら、部活動に便宜を図ってもらえるかもしれないよー」
まずは具体的な利益をちらつかせるブラザーズ。
おお、確かに。と、ざわざわとする各部活の部員たち。
「そして、超絶美人な上に巨乳のお姉さんだよー」
「もしかしたら、『助けてくれてありがとう、私あなたの事が好きです』なーんて、フラグが立っちゃうかもしれないよー」
むむっ、それは聞き捨てならん。と、コクピットの中の山瀬の姿を確認すると、欲望を撫で上げられた男たちは、そわそわし出す。
「それに……」
ブラザーズはタメを作って言い放つ。
「こんな美人を見殺しにして、お前ら男を名乗れんのか?」
「こんな巨乳美人を死なせたら、人類の損失だろ?」
『そのとおりだ!』
魂に火を点けられ、ブラザーズの周りを取り囲んだ男たちは、天啓を受けたかのように、自分たちが何をするべきかを悟る。
「とにかく、あーだこーだ言うのは後回ーし!」
「みんなで、巨乳美女を助けるぞー!」
うおおおおおおおおおおーっ!
と、その意気は天を衝き、高まった士気は炎のように舞い上がった!
「よし、俺はハンマーを持ってくる!」
「僕たちはこじ開けるための、バールのようなものを探してくるぞ」
「我々はサバイバル同好会の威信をかけて、巨乳美女を救い出すのだ!」
『イエッサー!』
男たちは、それぞれに出来る事を求め、全力を尽くすべく立ち上がる。
今、上沢高校は1つの結晶体と化し、同じ目的のために動き出した。
「……とまあ、ざっとこんなもんだなー」
「見事でござる。さすがは『全日本らぶのこめ撲滅連盟』の盟主たち。人々を戦いに駆り立てる術を心得てるでござるな」
「ブラザーズくん達の方が、教祖様に向いてそうね」
へへへんと、自慢気なブラザーズにクラウドは。
「でも、山瀬さんには彼氏がいるんだろ? あんな確証の無い事を言って大丈夫なのか?」
適当な美辞麗句を並べ立て、後から詐欺だと言われかねないと思うが。
「いいんだよ。オレらは希望的観測を述べただけで、それを確約した訳じゃないんだから」
「騙すより、だまされる方が悪いんですよ」
「くっ、この毒キノコどもめ。お前らだけは、絶対に敵に回したくねー」
けけけーっと笑うブラザーズに、クラウドはこいつらが味方で良かったとしみじみ思った。
*
「あー、うんとこしょー!」
「どっこいしょー!」
上沢高校の生徒たちに持って来てもらったハンマーで、ガチョンガチョンとコクピットのガラスを殴るブラザーズ。
男たちが数人懸かりでガラスを割ろうとしたが、ようやく多重構造のガラスに1枚ヒビを入れただけで、なかなか破壊には至らない。
そうこうしている内に。
『アト、6分、デ爆発シマス』
「くそーっ! 時間が足りねー!」
「ガラスを割るのはあきらめて、時限爆弾の方をどうにかした方がいいのかな?」
「おーい、おめぇら!」
そこへ、ボロボロの迷彩服を纏い、頭を雷様のコントの様なアフロヘアーに爆発させた男が近寄って来る。
「あっ、ヨガ男!?」
「シグレ少佐?」
「アフロで判断すんじゃねぇ、ムラサメだ!」
爆弾のスペシャリスト、特殊工作部隊長のムラサメ少尉が、両腕をダラリとさせながら、丁度良くその場にやって来た。
「ナイスタイミングだ。ムラサメ、このロボットの中の時限爆弾を何とかしてくれ!」
「その前に、俺様のこの腕をどうにかしねぇとな。ニワカはいねぇのか!? お母さーん!」
「はーい、ただいま……って、誰がお母さんっすか?」
ムラサメの呼び声に答え、ムラサメ小隊の副隊長兼、料理長兼、軍医兼、作戦参謀兼、お母さんのニワカ軍曹が、隊員とともに救急キットを持って現れる。
「うわ、右は脱臼、左は完全に折れてるじゃないすか。応急処置はしときますが、ちゃんと病院に行って下さいよ。谷若病院に」
「しれっと、自分ちの営業してんじゃねぇ」
ムラサメとニワカは軽口を叩きながら、あっという間に添え木と包帯で処置を終える。
「そんじゃ、爆弾の処理をおっ始めるぞ!」
「了解!」
ムラサメはブロッケンに耳を当て、タイマーの音から場所を特定する。
「ここを剥がしてくれ。だが、あんまりやり過ぎると、コードとか切っちまうから、慎重にな」
両手が自由に動かないムラサメは、部下達に指示をする。
ニワカはアーミーナイフを抜き、ボディの鉄板をくり抜くと、爆弾が姿を現す。
だが、それを見たムラサメは。
「こりゃあ……、手が込んでやがる。今の俺様じゃ難しいな」
「お前、爆弾のスペシャリストだろ? 何とかならねーのかよ」
「ダミー配線を抜かねぇといけねぇんだが、両手がこのザマじゃ無理だぜぇ」
『アト、5分、デ爆発シマス』
「じゃあ、お前の爆弾でフロントガラスをぶっ飛ばしてくれ!」
「あいにく、もう全部使い切っちまってなぁ。手持ちがねぇんだ」
「えー、もっとたくさん持って来とけよー」
「爆弾の無いお前なんか、ただのセクハラおっさん高校生じゃないかー」
隊員たちから、どっと笑いが起こる。
「どっ、じゃねぇ! そもそも、どこのどいつが俺様の火薬庫をぶっ飛ばしたと思ってんでえ!」
『その節は、大変失礼いたしました』
90度の腰の角度で、深々と陳謝するクラウドとブラザーズ。
「ねえ、他に方法は無いの?」
作業をしている男たちの輪の中に、晴海も加わって来る。
クラウドに寄り添うようにしている晴海を見て、爆弾魔のムラサメは。
「おっ、ヨリが戻ったみてぇだな。羨ましいぞ、リア充爆発しろ」
「それ、隊長が言ったらシャレになんないすよ」
気恥ずかしさで、パッと離れるクラウドと晴海。
冗談を言っている間にも、刻一刻とリミットが近づいて来る。
「考えろ考えろ、何か、なんか手はあるはずだ……」
「どけよ、てめえら……」




