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インディ娘ちゃんのノーテンキ学園冒険隊  作者: マックロウXK
第一章 インディ娘とノーテンキ冒険隊
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寝床探しと抱き枕

「だけど、クラウドくんがこーんなに強いなんて思わなかったな」


 こーんなにと両手を広げるジェスチャーをして、ニコニコ顔で晴海が褒める。


「うーん。店に強盗が来るかも知れないからって、親父から鍛えられてるからねえ」


 クラウドは、苦笑いをしながら頭をかく。


「クラウドの親父さん、色々ぶっ飛んでるからなー」

「店って、アルバイトか何かやってるの?」

「オレん家、雑貨屋やってんだ。良かったら買いに来てよ、安くするからさ」

「オレらにゃ、ガチで定価で売るくせに」

「るっせーな。オレもしょっちゅう銭湯(ふろ)入りに来てるだろ。お前らも売上に貢献しろ」


 クラウドと晴海が先頭を行き、ブラザーズがそれに連れ立って歩く。

 4人は今日の寝床を確保せんと校舎に向かった。

 家に帰って寝れば良いのではないかとは思うのだが、晴海の話では2つの理由でそれは無理らしい。


 1つは、事前の調査や聞き込みの結果、誘拐された生徒会役員15名を校外に運び出すような怪しい動きは存在しなかった。すなわち、生徒会は学校内に囚われているとの事。

 もう1つは、一度校内から出たら、生徒会を捜索しているライバル達から締め出されて、二度と入れなくなってしまうとの事。


 そのため、しばらくは学校で行動を共にし、一緒に寝泊まりする事になった。

 奇妙なシチュエーションの中、『一つ屋根の下で夜を明かす』というフレーズが頭の中をリフレインしているクラウドは、やはり単純バカである。


「あー、やっばり開いてないみたいね」


 玄関口から校舎内に入ろうとしたものの、鍵がかかっている。


「何で? 生徒らに捜索させるなら、カギ開けとけばいいのに」

「もしかしたら、先回りしたどっかの部員が、他の部を入れない様にしてるのかもしれないね」

「めんどくせえな」


 たかだか、校舎に入るだけでもこの始末。


「じゃあ、どうやって入るんだ?」

「ふふん♪ こういう事もあろうかとっ!」


 晴海はドーンと胸を叩く。

 強く叩きすぎて、ゲホゲホ咳き込む。


「何やってんの?」

「……あたしのクラスの窓を開けといたから、そこから入りましょ」


 クラウドたちは、晴海のクラス1-10教室に校舎の外から侵入を試みる事にする。


 上沢高校の校舎は、南の校門側から順番に、教室棟・食堂購買棟・文化会系クラブ棟・専門教科棟(通称、六角校舎)で構成されている。

 教室棟は、第一・第二校舎に分かれていて、1・2年生は南側の第一校舎、3年生は新しい第二校舎を使っている。

 晴海の教室は第一校舎の2階にある為、どの様に攻略するかが問題になる。


「こうして見ると、けっこうキツいな」


 クラウドは2階のベランダを見上げて言う。ベランダの手すりまで5mはあるだろうか、肩車をしても無理である事は一目瞭然。


「でも、1階はどこも開いてなかったし、他に方法はないよ」

「このパイプを伝って行けばいいじゃないかー」


 ブラザーズは壁に伝わっている、雨どいを登って行く。

 金具が古くなっていたのか、雨どいは根元から外れ、メキメキ、ドベシャーンと、2人はパイプの下敷きになった。


「おーい、生きてっか?」

「1人ずつ登った方が良くない?」


 今更ながらに言う晴海。

 これでまた上に行く手段が無くなり、振り出しに戻る。


「うーん、かぎ縄があったらいいのにな」

「かぎ縄か……。しょうがねーなあ」


 もったいつけながら、クラウドは背中のリュックから傘を取り出し、先端にロープを結わえ付ける。


「そのバックって、色々入ってるのね」

「よし完成、これならいけるだろ!」


 傘を放り投げ、ベランダの手すりに引っかける。

 ロープを引っ張ってみても手ごたえ十分、1人分の体重なら軽く耐えられそうだ。


「大丈夫? 登ってる途中で壊れたりしない?」

「三雲雑貨店の取り扱い品は、そんなヤワじゃないよ」


 クラウドが安全を確認し、その後全員で登る。

 無事、難関を突破した。


「よーし、じゃあ中に入りましょうか」


 晴海は窓を開けて、教室に忍び込む。クラウドたちもそれに続く。

 当たり前の事だが、教室内には誰もいなかった。

 夜の教室。闇のファインダーを重ねると、見慣れたはずの平凡な一風景を、まるで別世界の景観へと変えてしまう。

 吹き抜ける風が心地良い。


 ブラザーズが教室の蛍光灯のスイッチを入れようとすると。


「電気は付けちゃダメよ」

「え、なんで? 暗いじゃないかー」

「あたし達がここにいるって、バレちゃうじゃない」


 確かに、明かりを付けたら外から丸見えだ。

 当然と言えば当然なのだが、晴海は本当に細かい事まで良く気づく。

 伊達に美少女冒険家なんて名乗っている訳ではないのかな、とクラウドはちょっとだけ思う。


「よし、寝ましょ」

「もう寝るのか!?」

「だって、もう10時よ。あたし冒険家だから、本当はもっと早寝早起きなの」


 自分のロッカーから寝袋を取り出す。スリーシーズン用の封筒型寝袋だ。


「オレらの分は?」


 晴海は、あはははっと笑いながら。


「そんなのある訳ないじゃない」

「って事は、オレらザコ寝?」

「自分だけずるいなー」

「そんな事言ったって、寝袋は高いのよ、数揃えられる訳ないじゃない!」


 封筒型寝袋は、冬山用のミノムシ型に比べると、保温力は劣るが手軽さと値段は若千お手頃になっている。

 だが、そう安い物でもない。

 晴海は新聞紙を、クラウドたちに向けて放り投げる。


「新聞紙は保温力があるから、巻いて寝たら暖かいよ。試してみて」


 まあ、それならと体に巻いてみる。

 確かに暖かいが、カサカサ感が何とも言えず、みすぼらしい。


「うう、みじめやー」


 嘆くブラザーズ。彼らは半袖半ズボンなので、寒さが身に染みるだろう。

 クラウドも気持ちは同じだ。


「あたし、こっちで寝るから。おやすみなさい」


 晴海は、3人と少し離れた場所で寝袋に入る。

 クラウドたちも体を横たえる。


「あー、ねたねた」


 新聞紙で春巻状態のブラザーズ達がなんか言っているが、それもつかの間、静寂が訪れる。


「あ、そうだ。クラウドくん」


 晴海はムクッと起き上がり、こっちを見る。


「なに?」

「あたしが寝てるからって、襲っちゃダメよ♪ じゃ、おやすみ」


 いたずらっぽく笑って、晴海は再び寝袋の中に潜り込む。


「……」


 見ると、ブラザーズがニヤニヤしている。ムカついた。


「めんどくせー……」


 可愛いけどやっぱり変な女の子と、ボケまくりの悪友たち。

 ホント、明日からが思いやられる。

 そんな事を思いながら、クラウドは眠りについた。



 *



 それからしばらくの後。

 クラウドは、右腕に違和感を感じて目を覚ました。


「なんか、腕がしびれるな……」


 腕を持ち上げてみる、動かない。何か上に乗っかっているみたいだ。


 クラウドは、寝ぼけまなこを開いて見てみる。

 眠気が一発でぶっ飛んだ!

 晴海がクラウドの腕を枕に、寄り添う様に寝ていた。


(こッ、コレは一体っ!)


 衝撃に思わず声を上げようとするが、辛うじて呑み込む。

 どうしてこんな体勢になったのか分からない。位置関係から、彼女が転がって来たとしか思えない。

 晴海は見かけによらず、寝相が悪く、寝袋から体がはみ出している。

 スースーという寝息が頬にかかり、髪の甘い香りが鼻孔をくすぐる。

 ほんのちょっと顔をずらすだけで、唇が触れてしまいそうな距離感だ。


(と、とりあえず腕を抜かないと……〉


 こんな所、ブラザーズに見つかったら、何言われるか分かったもんじゃない。

 クラウドは晴海を起こさない様に、そーっと頭から腕を抜く。

 だが今度は、晴海はクラウドの腕を抱き枕の様に抱き締めてくる。

 服ごしだが、柔らかい感触がほんのり伝わってくる。


(おいおい、マジかよ! やばいって……)


 本当は嬉しい事態なのかもしれないが、根が純情なクラウドには、この状況を楽しむ余裕など無い。

 何とかこの現状を打開したいが、これ以上動かしたら間違いなく彼女を起こしてしまう。

 そうなったら、弁解のしようが無い。

 晴海は何も知らずに満足そうな笑顔で寝ている。まさに天使の寝顔だ。

 こうなったら、開き直って寝るしかない。

 晴海の存在を意識しない様に、気合を入れるクラウド。


 ホント、オレこれからどうなっちゃうんだろう……。


 クラウドは再び眠りにつく……、なんて事ができる訳がなかった。


 こうして、5月2日の夜は更けていった。

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