俺の屍を越えて行け
いよいよ、城の上層階に到達したクラウドたち。いかにも物々しい鉄の扉の前に立った。
クラウドたちは、扉の横に張り付いて、扉の正面に立たない様にする。
扉を開けた瞬間に、銃撃されるのを防ぐためである。
ムラサメは扉をわずかにこじ開け、数個の爆弾を投げ入れる。
爆音が扉の奥で炸裂し、鍵穴と隙間から煙が漏れる。
扉を豪快に開け払い、中に踏み込むムラサメ。
突然、目の前を覆う木目。ムラサメは飛んで来た机を爆薬を叩きつけて破壊する。
「ここまでたどり着くとは、大した物だ……」
舞い散る木片の中、軍服の上から黄色フードをかぶったアイパッチの男の姿が見えた。
「誰だ、あいつ?」
「奴はサバイバル同好会会長、梅田右竜。暗号名『バイウ元帥』だ」
「本当に貴様が裏切るとはな……、予想はしていたが、信じたくはなかったぞ……」
「別に裏切っちゃいねぇさ、おめぇの目を覚ましに来ただけだ」
「貴様の主義は分かっている。どうあっても私に楯突く気だな」
バイウ元帥は軍帽を脱ぎ捨て、スキンヘッドが露になる。
2人の間に緊迫した空気が流れる。
燭台で取った橙色の明かりが、部屋と壁を飾る、鍵十字の軍旗を照らしていた。
「おめぇらに力貸せんのはここまでだ。俺様は奴と決着を付けなきゃなんねぇ。おめぇらは先に行け」
そう言うと、ムラサメは煙幕弾を投げ、煙がバイウ元帥を包む。
「おっと、1つ言い忘れてた。クラウド、おめぇにムラサメ小隊に入れって言った条件。ありゃ、もういいや」
「えっ? 何でだ?」
「おめぇは想像を絶するバカだった。俺様以上のバカはウチの隊にはいらねぇ」
「何だと!?」
いきり立つクラウドに、ムラサメは男臭い笑みを見せ。
「おめぇの居場所は、あの嬢ちゃんの隣がお似合いだ。今度はしっかり守ってやれよ」
「ムラサメ……」
「ここは俺様が引き受けた! とっとと惚れた女を救ってきやがれぇ!」
「ムラサメ、いろいろサンキューな!」
「おめぇらは俺様が認めた、面白れぇバカ共だ! 生きて戻ったら、また遊ぼうぜぇ!」
クラウドたちは、バイウ元帥の脇をすり抜け、入口とは反対側の出口から部屋を飛び出す。
これまでの戦いを遊びと言い切る、根っからのサバイバルゲーマー、ムラサメ少尉と別れを告げた。
*
さらに続く階段を登り、先程と同じ形の扉がクラウドたちの目の前に現れる。
「次にいるのは、どんな奴なんだ?」
「何か、今まで感じた事のない、強い気を感じるでござる……」
雷也は引き寄せられる様に鉄扉に手をかけ、部屋に入る。
板張りの床、壁には掛け軸が飾ってあり、奥には鎧カブトが飾ってある。
「来たか……」
そして、部屋の中央に陣取る、着流しに黄フードを羽織った男の姿を、松明の灯りが照らしている。
やにわ、男は腰だめに構えた刀を、居合抜きで一閃!
「しゃがめ!」
『!』
クラウドが叫び、全員一斉に伏せると、剣圧で背後の石壁に横一筋のヒビが走る。
「ほう? あれをかわすのか……」
「強いぞ、こいつ……。お前は何者だ!?」
「俺の名は、砂治嵐。この部屋の守りを務めている」
「砂治……? もしかして、お前は!」
砂治嵐。薙刀部主将のナギナギさんこと、草薙凪沙に探して欲しいと頼まれていた男。
まさか、カリスマ教の一員になっていたとは。
「ここから立ち去るなら見逃してやってもいいが、通るというなら……」
砂治は右腕に持つ日本刀を突きつける。
「俺と勝負してもらう」
「真剣じゃねーか!」
波紋が走る刀は紫色の光を放ち、その切れ味がいかほどであるという事を輝きを持って示していた。
「あんなのに斬られたら、血がいっぱい出て死んじゃうじゃないかー」
「アホか、お前ー!」
「どうした、怖じけづいたのか?」
それまで沈黙を守っていた雷也が、口を開く。
「……拙者が、相手するでござる」
雷也の精悍な顔つきを一瞥しただけで、砂治は彼の実力を感じ取った。
「お前の流派は?」
「服部流、忍術でござる」
「雷也、あいつの得物は刀だぞ、素手のお前じゃ勝ち目はねえ!」
「大丈夫でござる。預けていた荷物を出して欲しいでござる」
クラウドはリュックから布袋を取り出すと、雷也に向けて放る。
雷也が袋から取り出した物は、鉄板を重ねて作られた、手製の鉄甲。
「これで、条件は五分五分でござる、拙者が引き付けている間に行くでござるよ」
「でもよ……」
「拙者には、あいつと話をつける使命がござる」
雷也は預かっている草薙の手紙を、ちらりとみせる。
「そして、くらうど達には、いんでぃこ殿と白鳥雪姫殿を助ける使命があるでござる。こんな所で手間取ってる場合ではないでござろう」
「……悪いな、恩に着る」
「礼には及ばないでござるよ。行くでござる!」
クラウドたちは一塊になって、対面側の口に向かう。
それを阻止しようと振り下ろされる刀を、雷也が鉄甲で受け止める。
「お前の相手は拙者でござる」
「雷也! 死ぬなよ!」
雷也は出口から出て行くクラウドたちを見送り、間合いを離す。
「砂治殿、少し待って欲しいでござる」
「命乞いなら、聞かんぞ」
雷也は懐から手紙を取り出す。
「草薙殿から頼まれた密書でござる。砂治殿に会ったら渡して欲しいと言われたでござる」
「凪沙から……? そんな物はいらん!」
「草薙殿は心配していたでござるよ、帰ってあげたらどうでござるか?」
「くどい! 俺は剣の道に魂を売った。誰も俺を止める事はできん!」
「なら、力づくでも受け取ってもらうでござる。いざ尋常に……」
雷也は全身に闘志をみなぎらせ、戦いの構えを取る。
「勝負でござる!」




