砂を噛む男
わずかな月の光が射す、薄闇が包む王室の間。
3人の男達が黄フードの人物、カリスマ教の支部長の前で脆いた。
1人は白衣の男。上沢高校・科学部部長、霧崎丞機。
1人はドイツ軍帽、軍服を着たアイパッチの男、サバイバル同好会会長、バイウ元帥。
最後の1人は長髪の、着流しの侍風のいで立ちの男、剣道部主将、砂治嵐である。
3人の男は共通して、それぞれの衣装の上に黄色のフードを被っている。
ロイヤルガード。
卓越したカリスマ性を誇る、カリスマ教の支部長の武の部分を担う、戦闘に特化した近衛兵。
どの男も、それぞれに卓越した特殊な技能の持ち主である。
男達は黙って、支部長の言葉を待つ。
「どうやら、ネズミが侵入した様です。彼らは地下牢の生徒会役員たちを解放し、最上階に向かっているそうですよ」
くぐもった黄フードの男の言葉が響き、大きく動揺する霧崎。
だが、他の2人は心を動かした様子もなく。
「私の部下達が、城内の守りを固めてます。そいつらがここまで来る事はないでしょう」
バイウ元帥が、堂々たる態度で言上する。
「そうだといいですけどね……。ですが、バイウ元帥。貴方の部下のムラサメ少尉が侵入者達に手を貸している事については、どう責任を取るおつもりですか」
「……」
支部長は鞭を放ち、バイウ元帥の頬に一条の血が滲む。
「そんな事では、貴方の管理能力が疑われますね」
「支部長、こんな頼りない奴は放っときましょう。この僕が奴らの首級を挙げて見せます!」
霧崎は自分の存在を誇示するかのように、虚勢を張る。
「全員出動を命じます。それぞれの持ち場に付きなさい」
「はっ!」
3人は揃って部屋から退出した。
「僕は今から研究室に行く。キミ達はそれぞれの部屋に付きたまえ。我らロイヤルガードの力を思い知らせてやるのだ!」
いきり立つ霧崎を、白い眼で見る2人。
「私達を戦わせておいて、自分は高みの見物か、良い御身分だな」
バイウ中将は、怒りを滲ませた皮肉を霧崎にぶつける。
「キミ! ロイヤルガード筆頭戦士の僕に対して失礼じゃないか!」
「筆頭戦士だと? 私は貴様より劣っているとは思わないがな。それに……」
バイウ元帥は、霧崎の鼻面にストレートパンチを放ち、1cm手前で止める。
「自分の手を汚さない貴様が、戦士と言う言葉を軽々しく口にするな!」
霧崎は声を上げる事も出来ずに、金魚の様に口をパクパクさせる。
「なぜ、オーロラ様がこんな男を側近にしているのか分からん……」
バイウ元帥は、すでに興味を失ったかのように、もう一瞥もくれずに立ち去った。
しばらく呆然としていた霧崎だったが、ハッと意識を取り戻す。
「何だあいつは、礼儀知らずな! 暴力に訴えるなど野蛮人のする事だ! 支部長に言い付けてクビにしてやる!」
「本人がいなくなったら、陰口か……。どこまでも見下げ果てた奴だな」
「キミまでなんて事を言い出すんだ!」
「俺も奴と同感だ。お前みたいな、他人に依存している様な男は嫌いだ」
着流しの侍、砂治も背を向けて歩きだす。
「待て!」
霧崎が男の肩を掴もうとすると、目の前に紫色の煌めきを放つ、日本刀を突き付けられる。
「太鼓持ちが俺に触るな。弱さが伝染る!」
男はそのまま自分の部屋に向かい、霧崎は風の吹き抜ける冷たい廊下に1人残された。
霧崎は研究室に戻ると、机の上の花瓶をつかみ、地面に叩きつける。
箱の中の物をぶちまけ、床に転がる工具を蹴飛ばす。
「どいつもこいつも……、僕を馬鹿にするなーっ!」
座布団にプラスドライバーを突き刺し、布を引き裂いて中の綿を撒き散らす。
抵抗をしない物体に、歪んだ怒りを当たり散らした。
「はあっ、はあっ、殺してやる、殺してやる……、僕を見下す奴はみんな殺してやる……」
狂気に満ちた眼を、壁の写真に向ける。
そこには、美しい女性の写真が飾られていた。
「僕とあの方以外の人間はみんな死んでしまえばいいんだ……」
部屋の奥のシーツが被さった巨大な物体。
その陰から、機体の一部が黄色の輝きを見せている。
「そうだな。僕にはキミがいる。敵など粉砕して、あの方の寵愛を1人占めしてやるのだ……」
照明が不気味な陰影を見せ、霧崎は含み笑いの後、声を上げて笑った。
*
廊下の壁からボウガンが飛び出し、矢が放たれる!
「おおっと!」
廊下の床から、トラバサミが現れるが、これはムラサメの爆弾でドカンと処理する。
「おらおらぁ!」
天井からどべっとイカの塩辛が降ってきたが、これはかわした後に、ブラザーズがちょっとだけ味見をする。
「し……、し、死ぬ……」
「どうした! 毒でも盛ってあったか!?」
「……ほど白飯が欲しい……」
『でしょうねっ!』
「しかし、さすがに罠のネタも尽きたって感じだな」
「だが、そうやって油断してる時がブービートラップに引っ掛かり易い。しっかり気を引き締めろい!」
サバゲの先達者のアドバイスを聞き、さらに集中を高めるクラウド。
走る彼らの前方に、また新たな罠が現れる。
それは、ザルにつっかえ棒をしただけの、世界で最も原始的なものであった。
「なんだありゃ? あんなもんに引っ掛かる訳ねーだろ……」
それを避けながら、クラウドが目を凝らすと、ザルの下に仕掛けてある物は1冊の本。
そのタイトルは『巨乳のお姉さんは好きですか?』。
「おぱーい!」
掛け声と共に飛びつくクラウド。
当然、つっかえ棒が外れ、ザルがばふっとかぶさった。
「わっ、急に夜になったぞ!? 星が見える!?」
「落ち着けぇ! 今は夜だし、ザルが被っただけだ」
全員でザルを持ち上げると、クラウドはエロ本を大事そうに胸に抱えながら。
「みんな、気を付けろ! 孔明の罠だ! 孔明がいるぞ!」
「ちがうちがう、お前が兀突骨(知力1)並みにバカなだけだな」
「こんな、圧倒的なバカは初めて見たぜぇ」
あまりのバカっぷりに呆れるムラサメ。
「バカバカうるせーな! じゃあ、なんでオレにピンポイントの罠を仕掛けられるんだよ? あ、分かった! ブラザーズ、お前らの仕業か!」
「違うよー、オレらじゃないよー」
「たぶん谷若だよ、十中八九」
「ニワカのせいにすんなよ。どうやら、敵方におめぇの性癖に詳しい奴がいるみてぇだな」
「えー、誰だよ? めんどくせーな……」
しかし、ブラザーズと雷也はクラウドの肩をバンバン叩きながら。
「でも、安心したぜー。お前、最近シリアス路線を突っ走ってたからなー」
「らしさが戻ってホッとしたぜー」
「恙無くて良かったでござる」
「んじゃ、とっとと行くぞぉ、おっぱいバカ!」
「オレのどこが、おっぱいバカだよ……」
まったく、と頬を膨らませつつ、抹茶色のリュックにエロ本をしまうクラウド。
『そういうトコ!!』
全員から総ツッコミを受ける。
そんなこんなで同盟軍は、さらに待ち受ける罠をもろともせずに、更なる高み、城の上層階を目指し突き進んでいった。




