男達の覚悟
クラウドは傷の痛みもお構い無しに、ベッドの上に立ち上がる。
「オレは、夏山晴海が好きだあああああーーーーーっ!!」
自分の気持ちを確かめるかのように、想いよと届けと言わんばかりに、クラウドは島中に響くような声で轟き叫ぶ。
クラウドの背中に、不死鳥の様な炎のオーラが吹き上がっていた。
「おめぇ……、めちゃくちゃ分かりやすい奴だなぁ……」
ちょっと背中を押しただけで、この変わりよう。
楽しそうに呆れるムラサメの前で、クラウドはベッドから降りると、土下座をする。
「おい……、何のつもりだ?」
「オレは、今から晴海を助けに行く! だけど、お前の言うとおり、手負いのオレ1人じゃ救い出すのは無理だ! 敵であるお前に言うのは筋違いだと思うが、頼む! お前の力を貸してくれ! いや、ムラサメ先輩、お願いします!」
地面に額をガツンッと叩きつけ、凄絶な男の覚悟を見せるクラウド。
「おう。いいぜぇ」
「やっぱ、ダメか……。って、えっ? いいのか?」
思わぬ回答に、目を丸くするクラウド。
ムラサメは1本の指を立てながら。
「条件は1つ。あの嬢ちゃんを無事助ける事ができたら、おめぇ、ムラサメ小隊に入れ。それが飲めねぇなら、手は貸せねぇぞ」
「いいぜ! それで、晴海を助けられるなら、むしろ条件が安すぎる。なんなら、命もくれてやるぜ!」
「いや、命はいらねぇ。そんなもん貰っても持て余すだろ」
「じゃあ、尻子玉をやる」
「俺様ぁ、カッパかよ? だが、俺様と組んだところで、勝てる見込みは10%もねぇぞ。それでもやんのか?」
「城の中にはブラザーズと雷也もいる。それに、オッズ10倍なら命を賭けるには充分だ!」
「賭博師だな、おめぇ……。いいだろう! 覚悟の程は伝わったぜぇ!」
立ち上がったクラウドは、ムラサメとがっしりと腕を組み、友情タッグが成立する。
そして、ムラサメは大音響で部下たちを呼ばわった。
「聞けぇ、おめぇらぁーっ! 俺様ぁこれからコイツと行動を共にし、サバイバル同好会に反旗を翻す! だが、おめぇらまで巻き添えにするつもりはねぇ! おめぇらは荷物をまとめて、とっとと島から脱出しろい!」
「その命令だけは、聞けないっすね」
「……んだとぉ?」
周りの茂みから、十数人の兵士達がワラワラと出て来て、テントの中に入ってくる。
「水臭いっすね。俺たちも付いていくって言ってんすよ」
「隊長、我々も行きます!」
「自分達も戦わせて下さい!」
「お願いします!」
「隊長!」
「おめぇら……、本当にバカの集まりだぜ!」
隊員たちの覚悟を聞き、ムラサメはカルシウムの効いた、白い歯を見せる。
だが、部下たちはいきなり憤慨する。
「バカとはなんだ、バカとはーっ!」
「せっかく、ついて行くって言ってんのによ!」
「この、クソ隊長がっ!」
『ブーブーブー!!』
「ほめてんだよ! 雰囲気で分かんだろが! ホントに馬鹿の集まりだなっ!」
「まあ、隊長が隊長っすからね」
副隊長のニワカの皮肉に、ムラサメは頭のバンダナを外しながら苦笑いをする。
「ははっ、ちげえねえや」
そして、グリーンベレーのニワカ軍曹はクラウドに向かって、チャラい敬礼ポーズをしながら。
「つー訳で、俺たちも一緒に行く事になったから。よろしくな」
「ああ、望むところだ! ……って、お前、誰だっけ?」
ガクッとずっこけるニワカ。
「俺だよ、谷若! 谷若鷲羽! これ、雨森たちにもやったぞ!」
「冗談、冗談。商売人が、クラスメートの顔を忘れる訳ないだろ?」
まったく、何の再放送だよ、と愚痴るニワカ。
するとクラウドから、ぐるるる、ぎゅーと盛大な腹の虫が鳴る。
「おっ、腹減ったか? おっしゃあ! そんじゃ、まずは腹ごしらえだ、ありったけの食料使って豪勢なメシにしやがれぇ!」
「あ、それなら、もう準備できてますよ。本部テントの外に並べてます」
「マジか!? あとは作戦も練らねぇといけねぇなぁ」
「あ、それなら、草案はできてますよ。後は隊長たちの意見を聞きながら調整をするだけっす」
すでにこうなる事を見越していたかのように、ムラサメ小隊の副隊長兼、料理長兼、軍医兼、作戦参謀のニワカがさらりと言う。
「マジでか!? さすが、我がムラサメ小隊が誇る副隊長! そんじゃ、早速メシ食ってから、作戦会議でぇ!」
『うおおおおおーっ!』
「って、あんた、食ったら寝るじゃないすか。作戦会議が先、メシは後っす」
「ちぇっ、おめぇはオカンかよ」
母親に咎められた子供のように、ふくれるムラサメ。
「軍曹っす。とりあえず、作戦名だけ決めといてください」
「しゃあねぇ! 全員、時計を合わせやがれ! 1900から、作戦を開始する。作戦名は、天変地異を表す『テンペスト』だ! 暴れまわんぜぇ!」
『ヒャッハー!』
ムラサメの号令に、隊員達は準備に散る。
こいつら、いつもこんなノリなのか? と、クラウドは入隊した後の事を不安に思うが、新たな仲間ができたのは頼もしい。
「すまねー、ムラサメ。オレらのためにここまでしてもらって」
「まあ、上層部の奴らとは、決着をつける必要があったからな。ちょうど渡りに舟ってところだ」
上層部、決着。
この男にも背負う物があると、クラウドは感じる。
「それに、おめぇらのためじゃねぇ。俺様たち自身のため、真の自由を勝ち取る為に戦うんだよ」
ムラサメは、不器用なウインクをして見せると、クラウドの胸を小突く。
「いてっ」
「あ。ケガしてんだった、すまねぇすまねぇ。後はまあ、俺様もあの嬢ちゃんの事は気に入ってるんでな。あとは乳さえデカけりゃ、すげぇいい女なんだがなぁ」
「同感だ」
クラウドとムラサメは、再びがっちり腕を組み、ここに真の友情タッグが完成した。
 




