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インディ娘ちゃんのノーテンキ学園冒険隊  作者: マックロウXK
第六章 最終決戦

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父の教え

「おーい、蔵人(くらうど)ー! お前も昇って来いよー」


 頭上から自分を呼ぶ声に、クラウド少年が外に出てみると、父親の三雲(みくも)入道(にゅうどう)が、雑貨店兼自宅の屋根の上で月見をしながら、1人で宴会をしている。

 クラウドはハシゴをよじ登って、父親の脇に座る。


 空には、真円を描く満月が、夜空と屋根の2人を照らしていた。


「今日は綺麗な月だなあ」

「ほんとだね」


 入道は缶ビールを飲みながら、月を眺める。

 幼稚園児のクラウド少年は、オレンジジュースで乾杯しながら。


「ぼく、お月さんを見るの大好き!」

「へえ、なんでだ?」

「だって、お母さんがお空で見ててくれてるみたいだもん」

「そうかあ……」


 父親1人、子1人の生活。

 クラウドも、普段はそんな素振りを見せないが、やはり母がいない寂しさは感じているのだろう。

 入道は、傍らの息子の頭を撫でる。


「ねえ、お父さん。お母さんってどんな人だったの?」

「あー、そうだな。お母さん……(かすみ)さんは、長い黒髪が良く似合う美人で、可愛くて、優しくて、おっぱいが大きくて、あと……ちょっとだけ、面倒くさい人だったな」

「ふーん、そうなんだね」

「でも、若い頃に苦労をさせすぎちまったからなあ……」


 と、入道はしみじみと語りながら、ちびちびとビールを飲む。

 しんみりとした雰囲気を紛らわせるかのように。


「そういや、お前、幼稚園とかに好きな女の子っていないのか?」

「んー? よく分からない」

「分からないかー、そんならいいけど……。女の子には優しくしろよ?」

「よく分からないけど、分かった!」

「ほんとか?」

「お父さんは、お母さんに優しくしてたの?」

「もちろんだ。男ってのはな、女の人を守るために存在してるんだよ」


 入道は息子に対し、渋く決めたつもりだったが。


「ふーん?」

「ふーんて、お前なあ……」


 なんとなく会話が無くなる、男2人。


「三雲家、3つの家訓の内の(ひと)ぉーつ!!」

「うわ、びっくりした!」


 夜の屋外、屋根の上なのに、いきなり大声を出して立ち上がる父に、クラウドはびくっとする。


「『困ってる女性は助けるべし』!」

「?」

「女の子が困ってたら、必ず力になってやれ。もちろん、おばあちゃんとかにもだぞ」


 クラウドはあまりピンと来なかったが、たぶん良い事を言ってるんだろうというのは分かる。


「わかったー。じゃあ、3つのなんとかの2つ目は?」

「えーっと、出された料理(メシ)は全部食え。じゃなくて……」

「ないの?」

「あるよ、失礼な。あー、あれだ、『女性を泣かすような事は絶対にするべからず』だな。女の子をからかったり、いじめたりしたら、ダメだぞ」

「ぼく、そんなことしないよ。女の子を泣かす奴はやっつけてやるし、泣いてる子がいたら、ぜったいに助けてあげる」

「そうそう。その意気、その意気。女の子に優しくしてたら、そのうち良いことがあるぞ」

「うん! じゃあ、最後の3つ目は?」

「3つ目は、そうだなあ……」


 クラウドの問いに、入道はしばらく考える。

 普段はお調子者で、バカで、スケベで、いいかげんで、変な発明ばっかりしている彼だが、この時は息子に男らしい笑顔を見せて、こう言った。


『惚れた女は、命を賭けて守れ』



 *



「おーっす! 蔵人、元気ですかー!」

「元気な訳ないよ! 見たら分かんないの!」


 父親の入道が、元気よく病室の扉を開けると、ミイラのように全身を包帯に巻かれた、クラウド少年がベッドに寝ている。


「おーおー、十分元気じゃねーか」


 北町におつかいに来ていたクラウドは、そこで事件に巻き込まれ、犬に全身を咬まれるという重傷を負い、地元でも有名な『谷若病院』に入院していた。

 クラウドは、左腕と右足にギプスをつけられて、まったく身動きが取れないでいる。


「なんで、お前は北町で入院するかなあ。東町から見舞いに来るのもめんどくせーぞ」

「おつかいを頼んだのは、父ちゃんだろ!」

「まあまあ、これでも飲んでおちつけ、おちつけ」

「誰が怒らせたと思ってんの」


 入道はジュースのペットボトルを渡すが、クラウドは片手がギプスなので、フタが開けられない。


「父ちゃん、ギプス(これ)なんとかしてよ。トイレも1人じゃできないし、めんどくさくてしょうがないよ」

「医者に言えよ、オレに言われてもなあ。いいじゃねーか、看護婦さんにしびんしてもらえるんだろ? うらやましい」

「恥ずかしいから、いやだ!」


 入道は、ペットボトルをプシュッと開けて、ふくれっ面のシャイボーイに渡す。


「そういや、雨森ブラザーズとケンカしたんだって? せっかく、見舞いに来てくれたのに」

「だってあいつら、ぼくが寝てるスキに、ギプスに恥ずかしい落書きするんだもん」


 クラウドが、腕のギプスを見せると、そこには女性の裸の絵がカラーで描いてあった。


「へー、巨乳のお姉さんだ。あいつら上手いもんだなあ。あー、そうか、あいつらん家は銭湯だから、女の裸見たい放題だもんな。いいなあ」

「感心してる場合じゃないよ、看護婦さんにいつも笑われるし、恥ずかしくてしょうがないよ」

「いいじゃねーか。米軍の戦闘機のペイントみたいでカッコいいぞ」

「どこが!」


 今回の事件をきっかけに、女性が苦手になりつつあるクラウドは、半ばやけくそ気味に。


「もう、うんざりだよ! 女の子に優しくしたって、良いことなんて1つもなかったし!」


 すっかりおかんむりの息子に、入道は困ったような笑顔を見せて。


「あー、助けた女の子は可愛くなかったか?」

「……分からないよ。気がついたら病院だったから。結局、誰からもありがとうって言われなかったし」

「まあ、しょうがねえ。お前は女の子を助けてケガしたんだろ? 男の勲章じゃねーか、もっと胸を張っていいんだぞ。誰もほめてくんねーなら、オレが誉めてやる。お前はオレの誇りだ、よくやったぞ」


 少し逞しくなった、息子の横顔をながめ、入道は満足げに諭す。

 クラウドは、父ちゃんに言われてもなーと呟きながら、少しだけ溜飲が下がる。


「でも、こんなめんどくさいのはこりごりだよ。もう、ぜったいめんどうな事には関わらないからね。危ない目にあいそうなら逃げるし」

「はっはっは。そりゃ無理だろ」

「なんで?」

「お前は、父ちゃんの子供だから」

「なにそれ。意味がわかんない」


 それを聞いて、入道はまた、はっはっはと高らかに笑う。


「だけど、しょっちゅう、こんな大ケガされたら困るなあ。よし、退院したらオレが鍛えてやるよ。なーに、心配するな。父ちゃんも昔は格闘技をかじってたからな。元格闘家にして、天才発明家のこのオレが、お前を『神回避の鬼』にしてやるぞ」

「えー。なにそれ、かっこわるいー」

「かっこわるくない! 帰ったら、たーっぷり鍛えてやるからな、楽しみにしてろよ」

「やだっ!」

「やだじゃない!」

「あー、もう! めんどくさいな!!」

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