いつか、きっと
ピーポー、ピーポーと遠くで救急車のサイレンが聞こえる。
「はあ、はあ、はるみちゃん。わたし、もう、走れない……」
「うん。ここまで来れば、だいじょうぶだよ」
あたしたちは、犬に襲われた場所から離れて、ようやく一息つけるところまで来たの。
あのあと、雪姫が呼んで来た大人の人が通報したおかげで、救急車が来たり、お巡りさんが来たりして、現場は大騒ぎになっちゃった。
だから、どさくさに紛れて、あたしたちはその場を脱出してきたの。
「わたしたち、助けに来てくれた大人の人たちからも、逃げて来ちゃいましたけど、いいのかしら?」
「しょうがないよ。もし、あたしたちが危ない目に遭ったって、ゆきのお父さんにバレたら、雪姫はまた、家から出してもらえなくなるもん」
あたしのことを信頼して、雪姫を送り出してくれたおじさんにこんなことが知れたら、もう雪姫に会わせてもらえなくなるかも知れない。
そしたら、あたしはまた1人ぼっちに戻ってしまう。
そんなのは嫌だから、あたしはこのことは黙っていようと思った。
「だから、ゆきも今日の事はないしょだよ」
「でも、いいんですの? はるみちゃんは、あの男の子にお礼を言いたかったんじゃ……」
「うん……」
あたしのピンチにさっそうと現れた、男の子。
あたしのために、ボロボロになるまで戦ってくれた、あの男の子。
なんとかドーベルマンを追い返すことは出来たけど、そのかわりに何回も咬まれたあの子は、救急車で運ばれてどこかへ行ってしまった。
だけど……。
「だいじょうぶよ。あたし、あの子にまた会えるように、おまじないをしたもん」
「おまじない?」
「うん。とっても大事なおまじない。きっと、いつかまた会えるよ」
いつか、きっとまた会える。
あたしは、自分にそう言い聞かせる。
たとえ、何年かかっても、きっと、あたしはあの子を見つけ出してみせる。
だって……。
あたしは、冒険家なんだから……。
 




