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インディ娘ちゃんのノーテンキ学園冒険隊  作者: マックロウXK
第六章 最終決戦

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カリスマ教

「あと、1日か……」


 異世界と呼ばれる孤島の中心にそびえる、石造りの巨城。

 満月に間近い月の光に照らされ、その威容をくっきりと浮かび上がらせている。


 その最上階、闇に支配される王の間に、1人の人物が玉座にもたれながら、ただ時間が過ぎていくのを待ち続ける。


 シンボルカラーの黄色フードを身に纏った、『幻光(オーロラ)』という通り名を持つ、カリスマ教の幹部である。



 カリスマ教はある地方を活動拠点とする、中・高校生による宗教団体である。


 教団の名前の由来である『カリスマ』とは、『他者を心服させる力』のことであり、教祖である真のカリスマを中心に、そのカリスマを崇拝するカリスマ達が、支部長として各地区に飛び、自らのカリスマ性を持って、その影響力を爆発的に広げている。


 カリスマ教の基本理念は、大人たちが構築した腐敗した世界を一新し、若者の手による新時代を造り上げること。


 それが、信者が中・高校生である第一の理由であり、同じ世代の人材を集め、いずれ来る自分たちの時代の大きなうねりと成すためである。


 カリスマ教の資金源は、信者からの布施が主であるが、能力のある支部長においては、企業からの寄付、金融・株式等で資金を調達している例もある。


 だが、中には真のカリスマを妄信的に(あが)め、手段を選ばず、非合法な薬物の密輸や取引、兵器の売買などに手を染める輩もおり、それがカリスマ教が邪教集団などと揶揄されるゆえんである。


 組織が肥大化するにつれ、本来の目的から解離しつつある状況に危機感を覚えたオーロラは、カリスマ教を正しい方向に維持・発展をしていくために、一から信者の育成を図ろうと、私立上沢高校をまるごと支配する計画を実行していたのである。



 闇と静寂(しじま)にたたずむ支部長オーロラは、ここに至るまでの道程に思いを馳せ、独りつぶやく。


「あと24時間で、私の計画が全て成就する……」



 上沢高校の征服計画の過程で、オーロラには思わぬ収穫と大きな誤算が生じていた。


 まず、思わぬ収穫とは、異世界と呼ばれる孤島の事である。


 偶然にもその入口を見つけたオーロラは、単身で孤島に到着する。

 守るに易く、攻めるに難い、天然の要塞ともいうべき場所を発見し、秘密を保持したままに自らの拠点とすることができた。


 そして、大きな誤算とは2人の少女の存在。


 1人は、教祖である真のカリスマに匹敵するカリスマ性の持ち主であり、場合によってはカリスマ教を大きく脅かす存在になりうる者。

 全ての人から愛される素養を持った、『絶世の』という冠詞が付くほどの美少女である。


 だが、上沢高校校長の愛娘でもあったため、それを逆手に取り、少女が参加している生徒会ごと誘拐することで、上沢高校の支配のみならず、経営権をも手に入れる計画に発展することができた。


 そして、もう1人はその少女を奪還するべく、誰よりもいち早く行動を起こした人物。

 数々の罠や刺客を退け、異世界への手掛かりである古文書を奪ったのにも関わらず、カリスマ教の拠城に肉薄した、冒険家を名乗る少女である。


 しかし、今はその2人共がカリスマ教の、オーロラの手中にある。


 あとは、時が過ぎるのを待つのみ。

 計画を遮るものは、もう何もない。


 揺蕩(たゆた)う時と心、漆黒の空間に身を委ね、オーロラは自らに言い聞かせるように、言葉を紡ぐ。


「全てはあの方のために……、必ず計画を完遂してみせる」



 *



 5月7日、深夜0時。


 夜の森に包まれている、サバイバル同好会、ムラサメ小隊のベースキャンプ。

 カンテラで照らされる、本部テントの中に4人の軍服姿がある。


「こいつを、俺様がやれって言うんですかい?」


 黄色のバンダナを海賊のように頭に巻いた、ムラサメ小隊の隊長、ムラサメ少尉は、テーブルの上に広げられた図面を見ながら、対面の男に怒気を交えた言葉を放つ。


「この作戦に不備があるとでも?」


 対面に座る、ドイツ軍服と左目に海賊のようなアイパッチの男は、その怒りを何事もなく受け流す。


「いや、作戦自体は完璧だ。爆弾の設置箇所も理にかなってる。間違いなく標的になった建物は、跡形もなく倒壊するだろうなぁ」

「ならば、なんの不服がある?」

「ふざけんじゃねぇ!!」


 バンッ!


 激昂し、ムラサメはテーブルの図面を平手で叩く。


「なんで、上沢高校の校舎を爆破しなきゃならねぇ? おめぇら頭イカれてんのか!?」

「貴様! 元帥の御前で、何だその態度は!」


 アイパッチの男の後ろに(はべ)る肥満体の巨漢、砂漠対応のデザート迷彩服を纏った男、サミダレ大佐がムラサメを睨み付ける。

 ムラサメの背後に立つニワカ軍曹は、いつでも臨戦できるように構えをとる。


「おめぇにゃ、聞いてねぇ……。俺様が聞いているのは、バイウ元帥だ」


 ムラサメはサミダレ大佐を無視し、バイウ元帥と名指したドイツ軍服の男に詰め寄る。


「私の命令を聞けないというのか……、ムラサメ」

「あぁん? 内容にもよるだろが。そんな非人道的な命令が、まかり通るとでも思ってんのか!?」

「これは、上層部の満場一致で決まった事項だ。大人しく従ってもらおう」

「ハイ、そうですか。ってなるわきゃねぇだろが! 俺様も士官クラスの端くれだ、なぜ会議に呼ばねぇ!」

「招集に応じなかった奴が何をほざくか!」

「待て、大佐」


 口論に割って入り、ムラサメに掴みかかろうとするサミダレ大佐を押しとどめ、バイウ元帥は諭すように語る。


「ムラサメ……、貴様も分かっているだろう。我々サバイバル同好会が、今までどれだけの迫害を受け、肩身の狭い思いをしてきたか。それを晴らすには絶好の機会だとは思わないのか?」

「だからと言って、こりゃあナシナシの無しだろ。カリスマ教に何を吹き込まれたか知らねぇが、おめぇらどうかしてるぜ」

「これ以上は議論の余地はない。これは軍の決定事項だ、5月8日の0000までに実行してもらう」


 そう、言い捨てるとバイウ元帥は席を離れ、立ち去ろうとする。


「待ちゃあがれ!」


 テーブルを蹴り飛ばすムラサメ。

 だが、サミダレ大佐が巨体に似合わない俊敏さで、それを受け止める。

 その間隙をぬって、バイウ元帥に殴りかかるムラサメ。

 だが。


 ブォン!


 ムラサメが元帥に触れようとした瞬間、力を吸い取られるような感覚が走り、気がつけば彼の身体は地面に叩きつけられていた。


「ぐはっ!」


 (はい)()の空気を全て吐き出し、悶え転がる。

 バイウ元帥は、仰向けになったムラサメを見下ろし。


「上官への反逆は重大な軍規違反だ。だが、今回は重要任務が控えているから不問としよう。そのかわり、作戦の失敗は許さんぞ」

「なんだと……」


 ムラサメの視線が、バイウ元帥の目に注がれる。

 その瞳はまるで人外の物のように、怪しげな赤い輝きを見せている。


「隊長!」


 ムラサメに駆け寄ろうとする、ニワカ軍曹。

 だが、それに立ち塞がる、巨大な体躯の男。

 ニワカとサミダレ大佐がにらみ合う、まさに一触即発の気配。

 だが、貴様じゃ相手にならんと言わんばかりに、サミダレはふんと鼻を鳴らして、ニワカに背を向ける。

 局地的戦闘の発生は、ひとまず避けられた。



 バイウ元帥とサミダレ大佐がベースキャンプから去り、辺りは夜の静寂を取り戻す。


「くそがぁ……。やっぱ強えぇな、あの野郎」

「隊長、あいつらは一体……」


 ムラサメは打ち付けた後頭部をさすりながら、2人の上官が消えた闇に向かってつぶやく。


「この俺様に、マジもんのテロリストになれってぇのかよ……!」

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