戦闘狂の爆弾魔
クラウドはメガ正宗で、ムラサメに殴りかかる。
ムラサメはその腕を取ると、そのまま背負い投げを放つ!
受け身を取るクラウド。ムラサメはその顔を踏み潰そうとするが、クラウドはとっさに体を反転させてかわし、態勢を立て直して、すぐまた攻撃に転ずる。
クラウドは、晴海に取り付けられた爆弾の解除番号を聞き出すため、ムラサメに挑んでいるが、動きに焦りが目立ち精彩を欠く。
歴戦の勇、サバイバル同好会のムラサメ少尉に、そのような甘い攻撃が通用するはずもなく、軽く流されて、背後に回りこまれる。
「1人で盛り上がんなよ。もっと楽しく戦ろうぜ」
「うるせーっ! インディコの爆弾を外せーっ!」
「ガムシャラに突っ込んで来るだけじゃ、俺様には勝てねぇなぁ……」
ムラサメはクラウドの体をかつぎ上げると、地面に叩き落とす。
「ぐうっ!」
さらに、ひじ打ちを畳み掛けるムラサメ。
ゴロゴロゴロっと体を転がしてかわし、またしても接近戦で殴り合いを挑むクラウド。
「それじゃ、勝てねぇって。まだ凝りやがらねぇのか?」
「うおおおおおーっ!」
(すぐ熱くなる、威勢がいいだけのバカが。反吐が出るほどムカつくぜ……)
雹河の言葉が、脳裏に響く。
「つまんねえ戦いしかしねぇんなら、もう終わらすぜぇ!」
突撃してくるクラウドに、カウンターを合わせようとするムラサメ。だが、クラウドは急にバックステップを入れる。
「誘い込みだと!?」
「どおりゃーっ!」
体勢を崩すムラサメにフルスイングのメガ正宗を放つクラウド。
ドガッ!
ムラサメは両腕をクロスしてガードするが、弾かれて仰向けに倒れる。
ムラサメは笑いながら、ヘッドスプリングで起き上がった。
「ははっ、急に動きが良くなったじゃねぇか、ようやく頭が冷えたみてぇだな?」
「まあな。もう同じ手は食わねーぜ」
「いいだろう、じゃあ俺様も本気で戦らせてもらうぜぇ!」
走り込みからのボディブローを放つムラサメ、後方回避するクラウド。
だが、ムラサメもバックステップしながら、握っていた物を手から離す。その物体は。
「ダイナマイトっ!?」
瞬発的に、爆風から顔を庇うクラウド。
「こいつが俺様の本領だ。続けて行くぜぇ! おらおらおらぁーっ!」
次々と爆弾を投げ付けるムラサメ。クラウドは必死に爆発から逃れるが。
「うわっ!」
爆風で地面にできた窪みに足を取られ、隙を見たムラサメは、一回り大きな爆弾を投げ付ける!
「炸裂弾だ! 当たると体力10割行くぜぇ、食らいやがれえぁーっ!」
後ろに避けても、爆風で大ダメージを受ける事は必然。
ならばと、クラウドは無謀にも前に出る!
メガ正宗で炸裂弾をすくい上げ、頭上に掲げて、大爆発の衝撃を全身で持ちこたえる。
爆風をすべて、上方に逸らした!
「……オレも、火遊びはちょっとしたもんだろ?」
一連の動きを見たムラサメは、実に楽しそうに。
「おめぇ……、面白ぇ! さすがは俺様が見込んだとおりだぜぇ!」
*
「ふう、長いこと吊られて肩が凝ったでござる」
「うお! インディ娘ちゃんに爆弾がくっついとるー!」
辛くも罠を脱出し、晴海と合流するブラザーズと雷也。
だが、拘束された晴海の姿を見てびっくりする。
「何やってんだー? 新手の放置プレイ?」
雷也は、タイマーのデジタル表示に気付き。
「これは……時限爆弾でござるな。くらうどはどこでござる?」
「クラウドくんは、サバイバル同好会のムラサメって隊長さんと、戦いながらどっか行っちゃったよ」
「05:00って、あと5分かー。おしっこかけたら止まるかな?」
「やめてよ! あたしにもかかるじゃない!」
「よく、そんな発想が出るでごさるな」
「爆弾は4ケタの解除番号を打ち込むようになってるみたいよ、試してみて」
「じゃあ、1126っと」
すると、ピピピピと電子音が鳴り、04:45と表記されていた時間が1分マイナスされて、03:45に変わる。
「えっ!?」
「間違えたら、時間が短くなるみたいでござるな」
「そんじゃ、1010っと」
「ちょっと、ちょっと、なんで銭湯!? なんで、お風呂関係ばっかり?」
「いや、サバイバル同好会だから、たぶんこれで間違いないぜー」
「あ、なるほど。戦闘の方ね」
ピピピピっとエラー音が響き、03:30の数字が02:30に変わった。
「何が、間違いないよ! 全然違うじゃない!」
「やべっ! あと2分だ、やれ逃げろー」
「それ逃げろー!」
ダッシュで晴海から離れるブラザーズ。
「ちょ、ちょっと待ってよー、この薄情もーん!!」
そして、ダッシュで戻って来たブラザーズは、ビシッと親指をを立てて。
「ジョーク、ジョーク。オレらはインディ娘ちゃんと運命を共にするぜー」
「もう! よくまあ、この土壇場でそんな冗談が言えるね」
「ぶれることないその姿勢、感心するでござる」
爆弾のタイマーは、ピッピッと非情にも時を切り刻んでいく。
「あとは、クラウドに期待するしかないなー」
「うん……」
*
取っ組み合いながら、森の中を突き進む2人。
サバイバル同好会のベースキャンプまでもつれ込み、近くにある木造の小屋の中に飛び込んだ。
「ここは……?」
「ここは俺様の火薬庫だ、特製の爆弾どもが並んでんだろい」
見れば、棚には紙巻き爆弾が大量に並び、中には尺玉クラスの花火まである。
若干、自慢げに説明するムラサメ。
「へえ、これ全部爆弾か」
クラウドは不敵にニヤッと笑うと、背中のリュックからカムチャッカマンと殺虫剤を取り出す。
「おい、おめぇ。それをどうする気でぇ?」
「こうするんだよっ!」
カムチャッカマンの火を付け、それに向け殺虫剤を吹き付ける。
火炎放射器のような炎を四方八方に撒き散らし、小屋中の爆弾に点火した。
「うわっ! おめぇ、何て事しやがる!」
「お先!」
ムラサメを押しのけ、素早く小屋から抜け出るクラウド。ムラサメも出ようとするが、扉が開かない。
「おい、開けろ! 死ぬ、死ぬ! マジで死ぬ! 俺様を出しやがれーっ!」
扉を足で押さえるクラウド。
「3、2、1、それっ!」
ダッシュで逃げるクラウド。慌てて小屋から飛び出すムラサメ。
ドッカーーーーーン!!
大爆発を起こし、扉を、壁を、屋根を吹き飛ばし、小屋が粉微塵にぶっ飛ぶ。ムラサメは爆風にあおられて、命からがらもんどり転がる。
「なんて事しやがんだ、あの野郎……」
後ろから、メガ正宗をムラサメの首筋に突き付けるクラウド。
「そこまでだ、降参しろ!」
ムラサメは燃え盛る小屋を見ながら、両手を上げた。
「がはははは、確かにな。俺様の負けだ」
「インディコに付けた爆弾の番号を言え、早く!」
「8982だ、打ち込めばタイマーが止まるぜぇ」
「よし。インディコ、今すぐ助けてやるから……」
ドーンと、晴海が捕まっている場所から爆音が聞こえた。
「おっ? 思ったより早かったな」
「嘘だろ……。インディコーっ!」
頭の中が真っ白になりながら、夢中で駆け出すクラウド。
晴海が死ぬ……? そんな事、あってたまるかよ!
爆心地に到着してみると、ブラザーズと雷也が腰を抜かし、なぜか紙吹雪が舞っていた。
晴海は紙テープに巻かれた状態で。
「あ、クラウドくん、おかえり……」
「こ、これは………?」
「心配して来てくれたんだ、ありがと」
「ああ……」
「いやー、負けた負けた。おめぇらやるなあ!」
「ちょっと、隊長さん! これはどういうこと?」
後からやって来たムラサメに、晴海は説明を求めると。
「あん? この爆弾の事かぁ? そりゃ、あいつを本気にさせるための偽物だよ。俺様がおめぇみてえな別嬪さんを爆殺する訳ねぇだろ」
ムラサメは親指でクラウドを指差しながら言うと、別嬪さんと言われた晴海は頬を染めるが。
「だが、乳の方はまだまだ『お嬢ちゃん』って感じだがなぁ」
がっはっはっと、晴海の胸を指さして笑うムラサメに。
「~! このっ、セクハラ隊長っ!」
晴海は顔を真っ赤にしながらパチンコを放ったが、逸れるばかりで1つもムラサメには当たらなかった。
「クラウド、陰気な顔してどうしたー?」
「間に合わなかった……」
ブラザーズが突っ立ってるクラウドに話しかけるが、聞こえてないかのように、小さな声でボソボソと呟く。
爆弾がフェイクでなければ、晴海を救えなかったという事実に、改めて自分の無力さを思い知らされたクラウドは、1人虚ろな目で立ちすくんでいた。




