暴走トロッコの戦い
「わあーっ♪」
晴海の瞳が光る。だが、それは尋常では無いほど危ない輝き。
視線の先にはトロッコ。そう、例のアレである。
「いくら何でも、これはねーだろ……」
鉱山の名残なのだろうか、その割にはレールは錆びていない。
奥まで連なる、薄暗いランプに照らされて、古ぼけた木製のトロッコは重厚な存在感を示していた。
すでに乗り込んでいる晴海。
「さあ、みんな行くよ!」
「早っ!」
とても嬉しそうで、もうこれは何を言っても止められそうにない。
「しょうがねえ、行くか」
男たちはトロッコの背中を押して、勢いをつける。
ギイーッと、車輪の軋む音がして、ゆっくりと動き始めた。
「さあさあ、みんな乗った乗った!」
晴海に促され、クラウドたちはトロッコの縁に手をかけて、一気に飛び乗る。
5人を乗せたトロッコは、順調に発進した。
ランプの明かりが、どんどん後ろに流れて行く。次第にトロッコのスピードが上がってきた。
「あはははっ! 楽しいなー! ねえ、クラウドくん、ドキドキしてこない? あたし、今すっごいドキドキしてるー!」
上機嫌の晴海。それはもう、気分はインディ・ジョーンズなのだろう。
だが。
「オレ、思うんだけどよ。隣にもレールがあるよな」
今乗ってるレールとは他に、もう1本の線がある。
「それが、どうしたー?」
「という事はだ、他にまだトロッコがあるって事だよな……」
クラウドが、嫌な予感を口にしていたその時、何の前触れも無く、そいつはやって来た。
並走するもう1台のトロッコ。袴を着た乗組員達は、手に手に弓を持っている。
「敵だっ! 弓道部だーっ!」
クラウドが叫ぶと同時に、敵は一斉に矢を放って来る。
慌てて伏せる冒険隊。トロッコの壁にガツンガツンと矢がぶつかる音がする。
「カリスマ教の雇われ者でござろうか?」
「たぶん、そうね」
「どうする? ヤツら飛び道具だぜ?」
こちらの飛び道具は、メガ正宗しか無い。
だが、ここで使うと回収ができないので、使う訳にはいかない。
晴海のパチンコは、数の内に入らないし……。
「あたしに、良ーい考えがあるよ」
思考していたクラウドだが、この言葉に不穏な物を感じる。
晴海は雷也にこっそり耳打ちをした。
「まずは、あたしが囮になるから、よろしくね」
晴海はそう言うと、急に立ち上がる。
弓道部の一斉掃射! 晴海は急いで床に伏せる。
「今よ、雷也くん投げて!」
投げるって、何を?
クラウドの疑問は、雷也の次の行動で回答を得る。
雷也はクラウドの体を担ぎ上げると、弓道部が乗るトロッコに投げつけた。
「うわあああああっ!」
宙を舞い、クラウドは敵のトロッコの中に転がり込む。
クラウドはもちろん、敵もびっくり。怯んだ敵は弓をつがえるのも忘れる。
その瞬間、クラウドは中華ナベを一閃!
接近戦に弱い弓道部は、全員トロッコの外に放り出される。
クラウドは、トロッコ同士が再接近するタイミングで、晴海たちが乗っている方に飛び移った。
「こらーっ!」
「クラウドくん、大丈夫?」
「な、わけねーだろ!」
憤慨するクラウド。当然の帰結ではあるが。
「前もって言っとけよ、死ぬかと思ったじゃねーか!」
「でも、しっかり対応してたじゃない。敵を欺くには味方からって言うし、実際に敵も面食らってたし……ねえ」
「ねえ。じゃねーよ、無茶苦茶すぎんぞ!」
「あははははっ」
そりゃ、結果的にうまく行ったけれども。
悪びれずに笑う晴海に、こいつに付いていって本当に大丈夫かなと思うクラウド。
2本のレールが離れて、トロッコは明かりの無いトンネルに入る。
再びトンネルから出る。誰も乗ってないはずのトロッコに、新たに弓を持った男たちが!
「弓道部、無限増殖っ!?」
ヒゲの赤いおじさんが、階段で甲羅を踏みまくる姿を想像したが、弓道部とはユニフォームが違う。
「アーチェリー部!」
またしても、矢を射られるクラウドたち。
「また、さっきの方法でやっちゃおうか」
「もう、オレはやんねーぞ」
クラウドは立ち上がると、矢の嵐が迫る。
持ち前の反射神経をフルに使い、メガ正宗で打ち落とす。
レールが近寄って来る。それに伴いトロッコ同士の距離も狭まって来る。
「ブラザーズ、雷也、蹴っ飛ばせ!」
クラウドの合図を受け、3人は敵のトロッコの上っ面を蹴る。相手は斜めに傾いで、バランスを崩す。
すかさず、クラウドもとどめのキックを入れ、ガランガランと敵のトロッコは蹴り倒された。
「クラウドくんたち、ワイルドー。カッコいい!」
晴海に褒められ、得意げのクラウド。さっきまでふてくされていた事は忘却の彼方である。単純な男である。
だが、調子に乗る間もなく。
「クラウドくん、後ろーっ!!」
晴海の叫びに目を向けると、背後から別のトロッコが近付いてくる。
「向こうの方が足が速いよ!」
グングン迫って来る敵のトロッコ。乗っている奴らは、白いランニングシャツ。
「今度は、体操部みたいだなー」
「次から次へと、めんどくせーな……」
「よし、拙者が相手になるでござる」
拳を打ち合わせて、気合を入れていた雷也の耳に、晴海の「伏せて!」と言う声は聞こえなかった。
ドゴッ!
天井のでっばりに、後頭部をぶつけてぶっ倒れる雷也。
「ああっ!? 雷也くん、しっかりして!」
「くそっ、こんな時に!」
ガツンガツンと、とうとう敵がトロッコのお尻にぶつかって来た。
震動で倒れる晴海。体操部がこっちに乗り移ろうとしている。
「ブラザーズ、応戦だ! こっちに来させるな!」
敵に殴りかかるクラウド。
だが、さすがは体操部。ひらりひらりと軽い動きでかわされる。
とは言え、敵も飛び移る事ができず、膠着状態が続く。
そんな中、雷也の意識が回復する。
「いてて、でござる」
「あ、雷也くんが気が付いた」
「まだ戦っているでござるな。今、行くでござる」
「ちょっと、待って。あれを見て」
前方やや左、晴海が指さす所にレールを切り替えるレバーがある。
「雷也、気が付いたんだろ! 早く、こっちに手を貸せ……?」
クラウドが後ろ目で見ると、雷也はトロッコの前面の縁に立っている。
「タイミングが難しいけど、お願いね」
切り替えレバーが、眼前まで迫って来た。
「今よ!」
雷也はトロッコを飛び降り、慣性の法則で加速をつけて、切り替えレバーに向かってダッシュ。
レバーを急いで倒し、レールの切り換えが行われる。
クラウドたちのトロッコはすでに直進路線に入っており、少し遅れた敵方は別の路線に流れて行った。
作戦成功!
雷也は、弾丸のように横を走り過ぎて行く自分たちのトロッコに飛びつき、かろうじてヘリに手をかける。
腕力で無理矢理、体をトロッコの中に押し込んだ。
「ふう、間に合ったでござる」
「雷也くん、お疲れさま」
「やったな、雷也」
「こういう仕事は、拙者にしかできないでござるからなあ」
ちょっと鼻高々の雷也、自称忍者の面目躍如だ。
うわーと、遠くで悲鳴が聞こえる。
「あら、向こうは行き止まりに突っ込んじゃったみたいね」
トロッコは、さらにスピードを上げて突き進んで行く。
「さあ、敵もいなくなったし、そろそろブレーキをかけましょうか」
「ブレーキ、ブレーキ……。付いてないぞ、これ」




