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「さあ、次はどなたですか?」
綱の上で仁王立ちをしながら、次戦の相手を要求する草薙。
堂々とした立ち姿が、実に絵になる女性である。
「次は南斗くんの番だけど……」
「グオオオオオーーーーーッ! ◎△$♪×¥●&%#ーーーッ!!」
「やべえ、本当になんか召喚されそうだ」
対する冒険隊の2番手は、ブラザーズの南斗の予定だが、魔獣化しつつあるクラウドを、羽交い締めしているので手が放せない。
「北斗くん、コレどうにかならない?」
「わかった、ここはオレにまかせときなー」
コレを指すのが、事態の収拾かクラウド自身なのかはともかく、ブラザーズの北斗が前に進み出る。
「策はあるのか、兄者?」
「オレらもこのままじゃ勝負にならないし、全滅の恐れもあるからな。まあ見とけ」
北斗は仲間達に、南の島の大王のようなビッグスマイルを見せる。
そして、草薙に向かい、玄関先で土下座をすると。
「ナギナギさん!」
え? わたくしですか? と、自分を指さす草薙凪沙さん。
「僕たちは童貞です!」
「………………はい?」
「しかるに、今のあなたのあられもない格好ですと、僕たちは勃ってしまって、立って戦う事ができません!」
「え、え、え?」
「ですので、勝手なお願いとは存じますが、その上着を着ていただけないでしょうか。なにとぞ、あ、なにとぞお願いいたしまするー……」
そして、北斗は地面に頭を擦り付ける。
「すごい……。身もフタも恥も外聞もない、こんなに潔い土下座、初めて見たよ」
「でも、セクハラで訴えられないかしら」
「兄者……、男だぜ……」
「武士の生き様を見せてもらったでござる」
なぜか涙を浮かべる、南斗と雷也。
北斗の魂の訴えが届き、草薙は上着を着直す。
興奮状態のクラウドも、それをきっかけに落ち着きを取り戻した。
「おい、クラウド大丈夫かー?」
「はあ、はあ、はあ……。オレは巨乳好きじゃねーぞ……」
「何を説得力の無いことを」
ようやく、闘える態勢を取り戻した冒険隊。
「じゃあ、2番手は南斗で、3番手は北斗だな」
「あとはオレらにまかせて、お前らは昼寝でもしてな」
5分後。
雷也の隣には、墨汁に叩き込まれた2人の姿が。
「ブラザーズくん達! もうちょっと粘ってよ!」
「だってー、綱の上に立つだけでも相当難しいんだぜ」
「その上で戦うなんて、これはもう変態の所業としか」
ムリムリと手と首を振る、真っ黒けのブラザーズにクラウドは。
「ははは、生まれて初めて、お前らの見分けがつかないぜ」
『大きなお世話だー!』
「やれやれ、オレの番まで回っちまったか……」
クラウドは軽量化のため、リュックを下ろし始める。
すると、晴海がクラウドの腕をつかみ。
「もう、我慢できない! お願い、順番あたしと代わって」
「えー、だめだめ。お前は秘密兵器だからな」
「え……、そうなの?」
「最後まで秘密にしておきたい感じの」
「それって、役立たずって意味だよね!」
「じゃんけんに負けたのが悪いんだろ? 大人しく見てろよ」
足を踏まれた事を根に持っているのか、毒を吐くクラウド。
まあ、女の子に危ない事はさせられないという、彼の優しさから来るものなのだが。
ふくれる晴海を尻目に、クラウドはロープに足を乗せる。
多少ふらついたものの、すぐにバランスの取り方に慣れた。
「草薙さん、オレはこれを使うつもりだけど、途中で武器交換も可能かな?」
クラウドが見せたのは、いつもの中華ナベではなく、2m弱の白い棍。
「クラウドくん、いつもの中華ナベじゃないの?」
「あれじゃ、リーチで負けるからな。今回はこれがベストだ」
「そんな棒、よくバッグの中に入ってたね」
四次元ポケット? と、疑問に思う晴海。
「最初にも言いましたが、何を使ってもらっても構いませぬよ」
「ありがとう。じゃあ、オレはいつでも始められるぜ」
「それでは……」
一礼をする草薙。真似をしてクラウドも礼を返す。
「参ります、せえええい!」
いきなり突進してくる草薙。クラウドはまずは様子を伺うつもりだったが。激しい突きを寸ででかわす。
続けて、2段3段の突きが襲ってくるが、白い棍をうまく使っていなしていく。
「やあああああああっ!」
面打ち、側面、すね、胴、小手、素早い切り払い、怒涛の連続攻撃。
だが、クラウドはそれも見切りだけですべてかわした。
「貴方も、かなりやりますね……」
「どうだい? オレの棒術もちょっとしたもんだろ?」
言いつつ、西遊記の孫悟空のように、棍を振り回すクラウド。
最初の立ち合いで、侮れないと見た草薙は、スッと半身になり、竹刀を立てた構えに変わる。
いわゆる、八相の構えと呼ばれる、超攻撃型の体勢。
「草薙流一乃太刀『風裂断』!」
強烈なエネルギーを持った力の一撃、まともに受けるのは無理だと判断、クラウドは真後ろに跳ぶ。
だが、かわされる事を先に想定していた草薙は、目標をロープに変えて竹刀を叩きつける。
足場が揺れ、一瞬バランスを崩すクラウド。
「二乃太刀『風破斬』!」
今度は横からの薙ぎ払う様な攻撃。しかし、この間合いでは恐らく届かない。
だが、目の錯覚か、気合と共に竹刀の先が伸びる。
クラウドはかろうじて跳躍、切っ先を避ける。
さらに、息も付かせぬ対空技!
「草薙流三乃太刀『翔風剣』!」
草薙は、ジャンプしながら斬り上げる。
クラウドは空中にも関わらず体を捻り、攻撃を避ける。
「逆三乃太刀『落風剣』!」
振り上げられていた竹刀を叩きつけるが、クラウドは棍でがっしりと受け止めた。
同時に着地する2人。
「うわっととと……、怖っえーっ!」
凄まじい猛攻に、たじたじになるクラウド。
草薙は肩の力を抜き、両腕を下げる。
「凄いですね。正直ここまでやるとは思いませんでした。やはり、奥義を使わせていただきます」
草薙は竹刀を片手で握り、弓を引き絞るように構える。
「次の技は当たり所が悪ければ死にます。出来る事なら今の内に降参してもらいたいのですが……」
恐ろしく物騒な事を言い出す草薙。
だが、クラウドは後ろ目で、チラッと晴海の姿を見ると。
「できたらそう願いたいけど、うちの隊長は逃げる事が嫌いなんでな」
「そうですか……。なら、遠慮はしません。いざ参ります!」
空気の流れが止まる様な感覚がクラウドを襲う。
「奥義、草薙流四乃太刀『風槍突襲撃』!!」
草薙は突進しながら、風の槍を繰り出す。
片腕を捻りながら突き出された竹刀は、肉をえぐるような回転エネルギーを持ち、クラウドの心臓を狙う。
クラウドはかわすどころか、防御行動すら取らない。真っ向から受けるつもりか?
「クラウド、避けるでござる!」
バキッと骨が砕けた音を発して、まともに食らったクラウドは、後方に吹き飛……ばない。
「ぐあああああああっ……、なんちゃって!」
骨が折れた音のように聞こえたが、折れていたのは草薙の竹刀。
そして、クラウドの懐から見えたのは、伝説の中華ナベ『メガ正宗』。
クラウドはメガ正宗を服から抜き取り、発射ボタンを押して、黒光りするナベを草薙に撃ち放つ!
辛うじて折れた竹刀でガードする草薙。
改めてクラウドに向かうが、クラウドはその場で棍をスイングしている。
「その長さでは、当たりませぬよ!」
だが、2mくらいとタカをくくっていた棒が、グワッと伸長し、間合いを無視した一撃が、草薙の足を払い飛ばす!
「くっ!?」
草薙はバランスを崩し、墨の池に落ちると思われたが、綱を掴んで落下するのを防ぐ。
だが、竹刀を手放した、草薙の敗北は時間の問題。
クラウドは、草薙を見下ろす位置まで近付く。
「その棒は、一体……」
「これ? 三雲雑貨店特製『如意物干し竿』。ボタンを押せば長さが変わるんだ」
クラウドは手元のボタンを押して、竿の長さを変えて見せる。
「参りました、止めを刺して下さい。わたくしを池に叩き込めば、貴方の勝ちです」
「うーん……、それはオレにはできねーなあ」
クラウドは、草薙を綱の上に引っ張り上げる。
「なぜ、私を助けるのですか……?」
「いやー、女の子を墨汁塗れにするのは気が引けるし」
「もし、また私が貴方に襲いかかって来たら、どうするおつもりですか?」
「ん? そんなことは、まったく考えてなかったな」
はっはっはと笑うクラウド。
しばらく神妙な面持ちで、考え込んでいた草薙だったが。
「……わたくしの負けです。約束通り、皆さんに古文書をお渡しします」
「やったね、クラウドくん!」
喜ぶ晴海に、指を立てて見せ、足場に戻ろうとするクラウド。
草薙も後に続こうとするが、連戦の疲れで足がもつれて、バランスを崩す。
「危ねえっ!」
足を踏み外しかける草薙を、クラウドは抱き止め、図らずも草薙の体を抱き締める格好になる。
「申し訳ありませぬ……。また、助けて頂きましたね」
「いや、別にいいよ。それより早く上がらないと」
「すいません、足がすくんで……動けないのです」
草薙にしがみつかれて、離れる事ができないクラウド。
そして、その拍子に草薙の衣服が乱れ、胸元が目に入ってしまう。
そこはさらしに巻かれて、谷間がくっきり浮かんでいた。
「ヤバい……。魔獣が……目覚メル……ッ!」
ぐおおおおおーっと唸るクラウドの身体から、黒いオーラが溢れ出し、とにかく色々大変な事になりそうになる。
そこへ、晴海のパチンコから放たれたクルミが、クラウドの背中を直撃する。
「あ?」「え?」
ドッパーン、とクラウドと草薙は、墨汁の中に突っ込んだ。
「ぶはっ、何すんだよ! ひでーじゃねーか!」
「ごっめーん! でも、魔獣を止める方法が他に思い付かなくって~」
あっけらかんと言ってのける晴海。
「はははー。結局、クラウドも真っ黒だなー」
こうなっては、もう誰が誰で、誰がしゃべってるのかも分からない。
晴海は、生徒会副会長の山瀬に尋ねる。
「玲華さん、どっかで体を洗う所ないかな?」
「そうね……、一番近いところなら、プール場があるわ」




