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インディ娘ちゃんのノーテンキ学園冒険隊  作者: マックロウXK
第三章 古文書争奪戦

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荒ぶる黒豹

 先程まで出ていた月は雲に隠れ、完全な暗黒が世界を取り巻く。

 草木も眠る丑三つ時。

 闇より黒いコートの男がテニスグラウンドに姿を見せる。

 氷室雹河は、テニスコートの中央まで歩くとそこで足を止めた。


「誰かいるんだろ……、出て来いよ」


 雹河の言葉に呼応するかのように、コートフェンスから、1人の男が現れた。

 全身の筋肉がぱんぱんに張り詰め、テニスウェアが裂けてしまいそうな体つき。

 頭に黄色のヘッドバンドを巻いた大男が、雹河を上から見下している。


「ここはテニス部の敷地内だ。大人しく出て行ってもらおうか」


 雹河は男を一瞥すると、尋常ならざる何かを感じ取った。


「てめえ、ただのテニス部ではないな。血の匂いがするぜ」

「わかるか。いかにも、俺はカリスマ教の刺客だ」

「なるほど、各支部長は自分の側近を学園内に紛れ込ませているそうだが、てめえもその口か。ロイヤルガードと言ったか?」


 雹河の物言いに、男は眉間に皺を寄せる。


「内情に詳しすぎる……、銀色の髪……。もしや、天虹学園の?」

「ふん、既にボクの事を認識()っていたか」

「貴様があの氷室か。なら貴様を倒せば、教団内の俺の地位も上がるって訳だ」


 男は普通のよりも2倍ぐらいある、巨大なテニスラケットを構えかける。

 刹那、雹河の姿が視界から消えた。


「後ろだ」


 雹河は、男の背面から飛び前蹴りを放つ。確実に背骨を捉えたかに見えた。

 だが、吹き飛びながらも、男にはダメージを受けた様子がない。


「その程度の蹴りでは倒……」


 男がセリフを言い終わる前に、黒豹の様なしなやかな動きで間合いを詰めると、立ち上がりかけた男の無防備な腹に強烈なボディブローを食らわす。

 呻きながらつんのめる男の頭を左手で無造作に掴み、顔面を潰さんばかりの勢いで地面に叩きつけた。

 頭蓋骨の軋む音を、腕で感じる。

 倒れ伏す男の頭を、無慈悲なまでの乱暴さで蹴り飛ばす。

 だが、雹河は右足に残った感触を確かめ、眉をひそめる。

 男はゆらりと立ち上がると、鼻が潰れ、歯が折れているのにも構わず、不気味な笑みを浮かべて見せた。


「その程度では無理だな。俺は並の人間ではない……」


 男はポケットから小瓶を取り出し、中の液体をあおる。


「こおおおぉぉぉ……」


 酸素を取り入れると同時に筋肉が脈打ち、みるみる内に男の体が倍以上に膨れ上がる。


「ふうぅぅぅ……どうだ。これが俺の真の姿だ……」

「チッ、強化人間(ドーピングマン)か。カリスマ教は人間兵器の研究でもしてるのか?」

「俺は完全なる肉体を手に入れた。いかに貴様と言えど、打ち破る事はできまい」


 雹河は地面にツバを吐くと、鋭利な刃物を思わせる眼光で男を射貫く。


「薬に頼らなければ戦えない男がほざくな。見てくれだけで中身は無いように見えるがな」

「口の減らない男だ。だが、これを受けてからもそういう態度が取れるか?」


 男はテニスボールを放り上げると、全身のバネを使って豪快に打ち抜いた。


「レールガンショット!!」


 重量感を伴った弾丸が、空を裂き、雹河に襲い来る。


「『超電磁砲(レールガン)』と名付ければ、聞こえがいいとでも思っているのか?」


 雹河は、蒼い左手のみをボールに向ける。


「馬鹿が! 片手で受けるつもりか、腕の骨がグシャグシャになるぞ!」


 雹河の手と球が接触。

 その一瞬、左腕から衝撃波が放たれた様に見えた。

 推進エネルギーを片手だけで受け止められ、雹河の手のひらでボールは回転を続ける。


「馬鹿な……。だが、その回転を受け続けると、摩擦熱で貴様の手はボロボロになるはずだ!」


 だが、雹河はそのまま弾丸を握り締める。下に降りる奇妙な白い湯気があふれ出て、ボールはその回転エネルギーさえも、雹河の左腕のみによって握り潰されてしまった。


「左手一本で、十分だ」

「俺の最強技だぞ……? そんな馬鹿な事があるものかぁぁぁぁぁ!」

「危ないオモチャだ、てめえに返すぜ」


 男の足元に投げつけると、ボールの外膜を構成するゴムが、ガラス細工の様に砕け散り、中に仕込まれていた鋼鉄の球が転がり出た。


「き、貴様、何者だ……?」

「改めて教えてやろうか。氷室雹河、探偵だよ」


 恐怖におののく男に、雹河は冷笑を湛えて言い放つ。


「うおおおおおおっ!」


 恐慌をきたした男は雄叫びを上げながら、特攻をかける。

 男の持つラケットは鋼鉄製。しかもガットは金属繊維で出来ており、殴られた者はサイコロステーキの様に切り刻まれるはず。

 雹河の脳天に力任せに振り下ろす。

 だが、その時にはすでに雹河の姿は無かった。


「ヌルいんだよ、てめえは……」


 雹河は、背後から蒼い左手を添える。

 その瞬間、冷気が男を包み、筋肉の活動を停止させる。


「か、体がっ!?」


 雹河はゼロ距離射程から掌底を放つ。

 その一撃は、男の肉体を生易しい結果では終わらせなかった。

 硬直した体は衝撃に耐えられず、増強剤で無理な負荷を与えられていたツケを一気に放出し、筋肉繊維はズタズタに引き裂かれた。


 男の断末魔が闇間(やみま)に響き渡る。


「ドラッグに頼った結末がこれだ。不様な物だな」


 吐き捨てる様に言うと、男に近寄り、脇腹を蹴飛ばす。


「出入り口があるんだろ……、何処だ?」


 もだえたまま、言葉を発さない男。雹河は男の首を鷲掴みにし、脅しをかける。


「答えろ。強化人間といえど、喉笛を裂かれたら生きられないだろ」


 男はわずかに北の方角を指さす。


「オーロラ様……、申し訳ありません……」


 テニス部の男はそうつぶやくと、ガクッと頭を垂れる。

 雹河は男の体を打ち捨てると、コートのポケットに手を突っ込み、背を向けて歩きだす。


 勝利を得ても達成感は無い。鉛の様なけだるさを感じ、1人呟く。


「くだらねえ。少しは手応えのある奴はいないのかよ……」


 この獣は餓えている。冷めた心に熱を求めているのかも知れない。


 雹河は、行く先に待つ更なる昏い闇へ向け、吸い込まれる様に漆黒の中に消えて行った。

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