見た目アラブの用心棒
クラウドたちは昼メシを調達に購買部に来ている。
教室棟と通路を挟んだ、上沢高生の台所、食堂購買棟。
学食堂は棟の2階にあり、1階には購買部がある。
食堂に入り込んで、勝手に料理を作って食べるのは、さすがに抵抗があるし、後片付けがめんどくさい。
よって、購買部の売れ残りパンをターゲットにした。
とはいえ、購買部もお金を扱う性質からか、鍵も厳重に掛けられ、侵入するのは難しい。
だが、晴海が言うには近くのトイレのダクトから潜入が可能であるとの事。
どこから情報を仕入れているのか不思議でたまらないが、ミッションインポッシブルみたいな感じで、ダクトを伝って購買部へ到達。
売れ残りパンにありつく事に成功した。
「おっ、ジャムパンみーっけ」
「アンパンもあったぞー」
「夏山さん、これ食べる?」
クラウドは、人気のチョコロールパンを晴海に差し出す。
「ぷーん、だ」
晴海はそっぽを向いてコッペパンを食べる。
「ねえ、夏山さん。さっきの事、まだ怒ってるの」
「べっつに」
言葉とは裏腹に、晴海はそっけない。
「だって、ああいう状況になったら、誰だってああなると思うよ、それに……」
「言い訳なんて聞きたくないよ。クラウドくんが、そんな人だなんて思わなかった」
晴海は冷たく切り捨てると、別の戸棚を探し始めた。
「まったく、何なんだよ」
「嫌われてるでござるな」
「インディ娘ちゃん、きっとヤキモチ妬いてるんだぜー」
ヤキモチとは、それまで抱いていた恋愛感情が、他にしのがれた時に抱く気持ちである。
「え、そうなのか? って事はやっぱり……」
「単に、冒険隊の中にエッチい男が混じってるのにムカついてるだけだったりしてー」
「……」
悪い事をした訳じゃないのに、そんな人呼ばわりされるのは納得が行かない。
別にオレは好きで生徒会捜索に付き合ってる訳じゃない。
晴海があれだけ懇願するから、せっかく力を貸してやっているのに、この言われ様。
そんなに気に食わないなら、オレは降りるぞ。
……いや、そうじゃない。
晴海に気に入られる為に手伝おうという気持ちも、ちょっとはある。
オカルト研の一件も、デレデレしすぎたかもしれない。
どっちにしろ、女の子にああまで嫌われるのは、ムカつくというより寂しい気がする。
クラウドは、なんとか謝るタイミングを見出だそうと、晴海の方をじっと見つめる。
それに気づいた晴海は。
「むっつりスケベ」
ベーっと舌を出して、あさっての方向を向く。
「……オレ、どうすりゃいいんだろ」
クラウドは、腹は満たしても心は満たされないまま、購買部を後にする。
もちろん食った分のパンの代金は置いていった。
*
「ちょっとトイレに行って来るー」
「うん、すぐ戻って来てね」
ブラザーズが戻って来るまで、晴海はこれからの計画を立てようとする。
「さて、次はどこへ行きましょうか」
「六角堂なんかどうかな」
クラウドの意見を、晴海は聞かないフリをする。
「雷也くんはどう思う?」
「六角堂がいいと思うでござる」
「OK、早速行きましょう」
あまりにも低気圧な態度。
「あのな……」
文句を言いかけるクラウドの口を、晴海は右手で押さえ、校舎の陰に隠れる。
晴海の指し示す方角を見ると、数人の集団。
右手にスコップ、左手に埴輪。
そして、弥生時代のコスチューム。
記憶と一つも違わない。あれはまさしく考古研だ。
その中でも一際目立つ、土偶の仮面を被った男。
あれが、この集団のリーダーなのだろうか。
「ちょうど良かったわ、アイツらから情報を聞き出しましょ」
ムシャクシャしていた所だ、憂さ晴らしにはもってこいだ。
だが。
「ブラザーズが来るまで待った方がいいんじゃないかな?」
「大丈夫よ。こっちには」
「奴らを、仕留めればいいのでござるか?」
指をポキポキ鳴らして、やる気十分の。
「雷也くんがいるからね」
「さあ、観念してもらうよ」
考古研の兵隊達を数分で葬り去り、土偶の男を追い詰めるクラウドたち。
「ワシに手を出すと、どうなるか分かってるだろうな!」
「分かるかよ、んなもん」
この圧倒的不利な状況下で、よくそんな事が言えたものだ。
腹を決めた様な素振りを見せる考古研の男。
いよいよ降参するのかと思いきや。
「先生、お願いします!」
「先生? 先生がいるのか?」
この2日間、先生の姿は一度も見かけない。
もし、生徒会捜索に先生が出勤れば、PTAから疑われてしまうので、自宅待機しているらしいと晴海から聞いていたが。
だが、そこに現れたのは、身の丈ゆうに2mを超える大男。
浅黒い肌、ボンバーヘッドのアフロヘアーに髭を生やして、例えるとアラブ人の様な顔立ち。
黄色いインドの僧服をまとい、背は高いが体が細く、手足が異様に長い。
「ふっふっふ。この方が、我が考古研が雇い入れた、用心棒の先生だ!」
「そっちの先生かい!」
先生と呼ばれるその男は、やおらにしゃがみ込むと、両足を首の裏に曲げ入れる、ヨガでよく見るあのポーズを取った。
「そう、先生はヨガの達人なのだ!」
「すごい。なんかブルース・リーの映画に出てきそう」
「お前、一体何者なんだ?」
「……お主らに名乗る名前など無い」
男は低い声で言い放つ。
「はっはっは。驚いたか、驚いただろ。もっと凄い事を教えてやろう、先生はこの顔で日本人。さらには現役の高校生なのだ!」
『うっそーーーーーっ!』
「この顔では、余計だ」
ヨガ男の左腕が唸る。
本人は軽くツッコんだ程度のつもりなのだが、はたかれた土偶の男は蛙の様な声を上げて、転がっていった。
「お主ら、一度ならず二度までも、我らが部員を痛めつけてくれたそうだな」
ヨガ男は、戦いの構えを取る。
ヨガ使いがどういう戦い方をするのか分からないが、気迫からは只者ではない印象を受ける。
「よーし、あたしが相手よ!」
「待って欲しいでござる、あいつとは拙者が戦うでござるJ
「やれそうか、雷也」
「自分より大きい奴とやるのは、初めてではないでござる。まあ、いんでぃこ殿も見ていて欲しいでござる」
パーティ最強の男、雷也に言われては晴海も引き下がるを得ない。
「ほう、お主できるな」
ヨガ男は雷也を一瞥すると、率直な言葉を口にする。
強者同士、感じる所があるのだろうか。
戦いに始めの合図は無い。一気に距離を詰める雷也。
体格で劣る分、スピードを武器に勝負を挑む。
ヨガ男の右ストレート。
雷也は十分に引き付けてからかわし、思い切りよく懐に飛び込んだ。
「はあああああっ、でござる!」
空いたボディに繰り出す、拳の弾幕。
「!?」
違和感を感じて、雷也は間合いを空けるべく後ろに下がる。
「どうした、雷也」
「あの男……、殴った感触がこんにゃくみたいでござる」
「コンニャクだあ!?」




