六話 仲間が増えるよ
サイの村 街道
人数も多く、負傷している者もいる為歩くペースは遅い。
昨日野営した場所まではいけなかったのだ。
聖水の量はかなりあったが、今回の野営では一気に使用する。たった一泊分にしかならない。
問題は他にもあった。
まずは、豚顔の魔物である。ピッグスに対しては九ミリだとすぐに倒せない。もし、今日の様な距離を稼げていない場合の戦闘ならと考えるとゾッとする。
「十和、とわー?」
「はいはい、なんでありしょうか??」
「ノノはどうしている?」
「ゴースト対策を魔術師殿から習っているでありますよ。対ゴースト戦をいきなりでありますから、かなり難易度が高いようであります」
しばらくは訓練に時間が必要なようだ。
十和に、ピッグスと言う新たな魔物が出た事と九ミリだと倒すのに時間が掛かってしまった事を伝える。
どうしようかと考え込む十和は、口を開いた。
現在、十和が用意出来るのが武器に関してはハンドガンに限ると言う。しかも、現時点は、今使用しているグロック17だ。そして、弾薬の九ミリ弾である。
整備についても、どうするかと問うと十和の持つこの不思議な能力は【ガンルーム】と言うらしい。銃の種類につき十丁を用意する事で整備を行う妖精が手に入るのだそうだ。
基本的な手入れは自分でも出来るが、この先機械的な故障だったり部品の交換が必要な修理を担当するのだと言う。
しかも、最初の妖精を手に入れたと同時に武器の解放があるそうだ。そうする事で、問題も解決していくだろうとの事だった。
「そうすると、やっぱり魔石はいくらあっても足りませんね」
「そうなのであります。今、お預かりした魔石ではピッグスの魔石がありますゆえ、グロックならばすぐに三丁は用意出来るでありますよ」
「そうなのか?予備の弾薬や弾倉の確保はどうです?」
「問題ないであります。しばしお待ちいただければ」
「わかりました。今避難してきた村の人の中で扱えそうな者を三人声を掛けてみます」
十和に準備を任せて、自分は早速人員の確保に動こう。
今日の移動で、自分とともに魔物の警戒を手伝ってくれた子達がいたはずだ。もう成人するらしく、何か役に立ちたいと言ってくれたのだ。
それで助けてもらったのだ。住人の移動の感覚が広がってしまっていて猫の手も借りたいと言う事である。今回借りたのは、猫では無く狐だが。
ホクの村には見た目の印象は狐の様な顔をした人々、フォークス族が住んでいた。
名前はヒャドと言う白い毛並みの少女とルルドとメルドという姉妹である。面白いのは、ルルドとメルドは双子で二人は離れていても意思の疎通が出来ると言う。
超能力のような力を持っているのだなと思ったのだが、僅かながらの魔力を持っている事で為せる技らしい。
双子は、ヒューマ族ではあまり良くないと言われているのだそうだがフォークス族は吉兆の知らせだと言われていて大事にされていたのだと言っていた。
見付けた。彼女達は村でも仲が良かったそうで、同じ天幕にいるところを声をかける。
「やぁ、今いいかな?」
「あっ、ナオトさんっ」
入ってすぐに気が付いてくれたのは、ヒャドだった。ルルドとメルドは口数は少ないようでヒャドに後について自分を囲む。
他の村人もそうだったが、救出に来た事で自分に好感を持っている様子だ。
今、彼女達には特に身を守る為の武器を持たせているわけでは無い事を説明する。もし、三人が了承してくれるのならば武器の用意をする事を伝える。
この武器に関しては、誰彼構わずに渡してはいけ無い事や武器の取り扱いには十二分に気を付ける事。
この約束を破ったら武器を取り上げる場合があり、状況によっては怪我をさせる事も厭わない事を説明する。ノノで一人であればまだいくらでも考えようがあったが三人にも渡すとなると慎重に考えるべきなのかもしれないと今更だが考えている。
三人とも問題無い様子だ。しっかりと頷いている。
着いてくるように言うと、笑顔で後に付いて来た。なんだ、嬉しそうにして。犬、いや狐か。可愛い仕草である。
まぁ、それはいい。十和のところへ戻ると、早速用意が出来ていたようだ。
グロック17が三丁。予備の弾倉が各三本づつ。ホルスターも用意していた。
三人を横一列に並べ、銃を渡す。まずは、弾倉が入っていないままの状態でだ。
銃の操作を説明する。熱心に聞いてくれるからつい熱がこもる。使い方くらい知っているなんて態度をしないからだろうか。
教えがいがある。武器である事を十分に注意していたからか、ふざけあってお互いに銃を向ける、なんてこともしなかった。
銃の構え方、撃ち方はノノに教えた様に指導していく。今日はもう夜も遅い。実射については明日の朝、出発前に練習する事にした。
ヒャド、ルルドとメルド三人には朝天幕の撤収が終わったら自分のところへ来るようにと伝えホルスターと銃は渡しておく。
三人が帰ったのを見送って、離れて立っていた十和を呼ぶ。すぐに駆けつけてくれた。
「十和も、調達ありがとうございました。どう思います?」
「彼女達でありますか?素直で良い子達だと思うのであります」
「それなら良かった。これで、自分と十和、ノノとヒャド、ルルドとメルドの六丁ですね」
「お蔭で、せっかく手に入れた魔石はスッカラカンでありますよ」
「弾薬の方は?」
「それはもう、しばらくは戦えるであります」
これから先は、どの程度の魔物と遭遇するかも不明である。弾薬がない、と言う事にならないで良かったと思う。
どこか、魔石を稼げる場所はないだろうか。あと四丁で次の武器が解放される。しかも、整備する為の妖精も手に入るというのだから、尚の事である。
「多分でありますが、まだ魔物は出るであります。それをしっかりと倒していく事が重要でありますな」
「もう、いっそのこと全部こちらで倒していくくらいじゃないと厳しいかい?」
「魔石はいくらあっても足りないのでありますから、それも良い考えでありますよ」
状況によっては、魔物が来るのを待つのではなくうってでるくらいでよいかもしれない。
それは、今避難する村人を連れてサイの村へ着いてからになるだろう。
十和と二人で寝静まった村人を起こさないよう、警戒を続けるのだった。
陽が昇り、森の中も明るくなってきた頃には村人も起き始めていた。
子供と年寄りだからか、朝が早いようだ。ヒャドとルルド、メルドも起きてきた。銃も忘れずに持ってきている。
「さっそく、三人には銃の撃ち方を練習してもらいます。一人十発ずつ用意しました」
弾倉の取り外し方、弾の込め方を教えていく。三人は呑み込みが早いようだ。ノノもそうだった。向上心があるんだろう。
各々に用意をさせた後は、撃つ時以外には引き金には絶対指をかけない事をもう一度きつく言っておく。
これで、まず暴発を避ける事が出来る。
次に、三人の為に用意した木に丸印を付けた目標に狙いを付けさせる。これもノノに教えた様に構えさせて狙いを付けさせる。
これを何度も繰り返し覚えさせる。ホルスターから抜く、構えて狙いを付ける。身体に覚え込ませるのだ。
何度も動きを反復練習させ、いよいよ本番だ。実際に撃たせる。
「射撃用意、撃てっ」
自分の号令に合わせて、三人が動く。
ヒャドは構えるのが早い。早打ちの才能があるかもしれないな。ルルドとメルドは同じ動きとタイミングで引き金を引いていた。
三人とも的にはしっかりと当たっている。自分の時はどうだっただろうか。初めてではこんなに当たらなかった。皆、才能があるようだ。
筋がいいと三人を褒めると、照れたのか顔を赤くしている。まだ、子供なんだなぁ。そんな子達にも銃を持たせるなんて、前の世の中じゃあ考えもしていなかった。
そう言うやつらと戦ったりしていたんだが……。考えるのは、よそう。今、出来る事だったんだと言い聞かせる。
ふと気が付くと射撃音に驚いたのか、他の村人達が集まり出していた。子供も目をキラキラとさせているが、危ないので近付かないように注意を促す。
弾を撃ち切る頃には、野営地の撤収も完了していた。おかげで、すぐに出発する事が出来る。
ノノを探すと、まだ魔術師についているようだ。まだしばらくかかるらしい。話てみると、なぜか謝られた。
魔力はあるが、魔法の発動に成功していないのだそうだ。サイの村に着くまでには物にして見せるので、見ていてほしいと言われた。
期待している事を告げると、とても嬉しそうな顔をして魔術師のところへと戻っていく。
相変わらず、十和は自分の事を見ながらニヤニヤと笑っている。正直、十和ほどの美女がニヤニヤ笑うのはどうかと思うが、そんな笑顔でも可愛いように見えてくる。
不思議なものだ。
出発になって、まず自分とルルドの二人が先頭へ。十和とヒャド、メルドの三人には後方の警戒、殿をお願いする。
万が一、ホクの村の方角から魔物が出てきた場合は三人で対処してもらう為だ。
また、双子を今回分けた理由は、魔物が出た場合は二人の持つ能力を活用して連絡を取る為である。遠い距離ではないが、すぐに状況が確認出来ればと考えての事だった。
嫌がるかと思ったが、それよりも自分と誰が一緒になるかで喧嘩になりそうだった事に驚いた。
じゃんけんのような勝負をして、結果はルルドの勝ち。次は自分が一緒になると言いながらメルドは十和とヒャドとともに集団の方向へと向かっていった。
この時も、十和の顔は終始ニヤニヤとしていたのは言うまでもない。
しばらく進んでいくと、ゴブリンが現れた。三体、少数である。迂回する余裕は無い為、すぐに排除する。右の一体をルルドに任せ、左から二体は自分が処理した。
ルルドに頼んで、十和に後方も警戒する様に伝えてもらう。すると、後方の方向からも銃声が続く。すぐに止んだのだが、ゴブリンが出たらしい。後方には二体だったそうだ。
ルルドとメルドのお蔭で状況がすぐに確認出来て助かった。この配置で間違いなかったらしい。
ありがとうと伝えると嬉しそうにしてくれた。
魔石は、一個はルルドに渡す。最初は受け取ろうとしなかったのだが、自分が倒した分は自分で管理すると言うと素直に受け取った。
「ルルドさんは、もうすぐ成人になるんだよね?」
「ルルドで良いです。もう生まれて数えてもう成人なんですよ。でも、ゴブリン騒動やゴーストの騒動があって……」
「そうか」
言葉にならない。ルルドとメルドの両親は生まれてすぐに亡くなったそうだ。ヒャドの親が不憫に思って引き取ってくれたらしい。
姉妹の様に可愛がられ、成人になったらきっと恩を返そうと思っていた矢先に義理の母が病に倒れ、父はゴブリンの調査に出て帰らぬ人に。
すぐにホクの村が魔物の群れに襲われてしまい、なんとか逃げるしか出来なかったと言う。
仇を取りたい、しかしこのままでは自分もすぐに殺されるかそれよりも酷い目に……、それならばいっその事、自分で死ぬべきではとも考えたそうだ。
「結局はナオトさんとトワさんに助けてもらって。仇も討ってくれました」
それならば、助けられたこの命を恩返しに使いたいと言う。
それは、ルルドもメルドも同じ考えなのだそうだ。
「もし、ご迷惑でなければこれからもご一緒したいのです」
「しかしなぁ、自分や十和は記憶が無いんですよ。何をすればいいのかも分かっていません」
「それでもです」
「記憶が戻ったら、もしかすると貴方達に害するかもしれません」
「それなら、その時はその時です。私達は一度助けられた命ですから。ナオトさんの気が済むようにして下さい」
なんだ、この子は。まったく引く気が無いのか?とりあえず、この件は保留と言う事にしてもらう。
まずは、サイの村に着いてから全てが終わってから考えようと言うと、ルルドは笑って頷いた。正直、可愛らしい子にこんな風に言われて嫌な気はしない。
後で、どうするか十和に相談してみよう。
サイの村が近付いてきたところで、遠くから声がする。見ると、ドッドが大きく手を振っていた。
村の櫓から身を乗り出している。待っていてくれたのだろうか?後ろに続くホクの村の人達も心なしか表情が柔らかくなっていた。
サイの村の自警団も合流し、村人を守りながらサイの村へ。
自分と十和、ヒャド達三人は最後の一人が村の中へ入るまでは警戒を続け、一番最後に村の中へと入った。
ドッド、ナナも来ていた。サイの村の人も総出でホクの村人の治療や毛布を掛けたり、水を飲ませたりしている。
ドッドの顔色が悪い。これから、状況を伝えなければならない。
一度、ドッドの家へ行く事になった。ヒャド達も付いてくると言うので、ドッドに聞くと構わないという。
先頭を歩くドッドに続くのだった。
いつもありがとうございます!
更新が遅くなってしまい、すみません。
読んでいただいている方も初めての方も、是非ご意見ご感想お待ち致しております。
またよろしくお願いします!