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美少年の頬笑みは危険な香り  作者: ミケ~タマゴ
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♡02話 運がいい……勘違い

   

 

「あら、お父様。いらしたの?」


 お茶の時間に茶話室に行くと、いつもは仕事でいない父がいました。母も弟も、もう椅子に腰かけています。


「ああ、しばらく屋敷で仕事をしようと思ってな」


 そう言った父の顔は額に何かぶつかったような赤い跡があって、両頬に引っ掻き傷のような筋が五本ずつ付いていました。

 どこか未開の地で作られたお面のような顔です。珍妙な生物に成り果てた父に、つい、哀れみの視線を送ってしまいました。


「ホホッ、お父様はしばらくお屋敷で、純粋にお仕事をなさるそうよ。邪なお仕事をなさる暇はありませんわね」


「その顔じゃ、外に出れないよね……」


 嬉しそうに笑いながら言った母の後に、ボツリと弟が呟きます。


「「失礼いたします」」


 全員が着席したのを見計らって、ワゴンを押しながらメイドが部屋に入ってきました。

 若いメイドが二人で、テキパキと白いテーブルクロスの敷いてある低めの四角いテーブルの上に、お茶の用意をしていきます。父の顔を見ないように必死で努力しているようです。


「「失礼いたしました」」


 用意が終わると退出の挨拶をして、ワゴンを押しながら素早く去っていきました。


「アハハッ、もうダメ~! 人間トーテムポール!」

「可笑しすぎるぅ! アハハハ謎生物!」


 部屋の外から、若いメイド達の笑い声が聞こえてきます。教育が足りないようです。哀れみの視線を再び父に送ると、ごまかすように父は一つ咳払いしました。


「コホンッ、あー、テンシスーマイル家から、正式な申し込みが来たのだが、マリサも承諾していると言う事でいいのかな?」


「そうそう、マリサも同じ気持ちで、セオくんに舞踏会のエスコートをお願いしたとか」


 父と母に見つめられて、深く頷きました。彼は言っていた通り、さっそく両親に話をしたようです。


「ええ、ぜひ、舞踏会のエスコートはセオくんにお願いしたいと思ったの」


「そうなのか。それは今まで、気づかずにいて悪い事をしたな。遠慮せずに言っても良かったんだぞ」


「そうですよ。正直に言ってくれれば、悩ませずに済んだのに……」


 悪い事をしたような、申し訳なさそうな表情で見られて、首を傾げます。


「あー、父上、母上。姉上は分かってないです。ただのエスコートだと思ってます。気持ちはセオのやつの一方的なものだと思います」


「何、そうなのか?!」

「えっ、そうなの?!」


 弟の言葉に父と母が、一斉に弟の方を向きます。


「このまま分からないままで、いいと思います。セオはうまくやると思いますし、姉上に変な警戒心を持たせたと思われたら、僕、怖いんです。姉上が卒業したとたん、学院で本性丸出しなんです」


「そうか。まあ、聖四公家の一つ、ウエストラッキーフィールド家の娘の相手としては、性格はともかく、家格としては問題ないな。幸せになれるだろうしな」


「そうね。少し若いですけど、きれいな可愛い孫ができそうですし、セオくんならいいですわよね」


 首を傾げている間に、さらに何だかよく分からない事をゴチャゴチャと三人で話しています。


「あのー、セオくんがどうかしたの? ただのエスコートよね?」


「うん、そうだよ。セオがどうかって、どうにかされちゃいそうなのは僕の方さ! 姉上、僕のために頑張ってエスコートされてね。アッハハ」


「何の問題もない。彼と舞踏会に出席するといい。ハハハ」


「あんなきれいな子にエスコートされたら、幸せよね。ホホッ」


 何だかおかしく思って尋ねると、三人の不自然な笑い声が響きました。


「さあさあ、お茶をいただきましょう。冷めてしまいますわ」


 何か誤魔化されているような気がしましたが、母の言葉にお茶のカップを手に取りました。


 緑の葉の縁取りのある綺麗なカップです。薄めの明るい琥珀色のお茶の底に小さな葉が描かれているのが目に入りました。

 口元に近づけると、ふんわりと林檎の香りがします。今日はアップルティーのようです。一口飲むと甘い林檎の香りが、口に広がります。渋みのない、スッキリした味わいのお茶でした。


 一口飲んでカップをソーサーに置くと、三段になっているスタンドの一番下から、小さなトングで、サンドイッチを手元の小皿に取りました。キュウリとハムとチーズのサンドイッチです。キュウリだけのサンドイッチを出されて、料理長にもっと具を増やせと苦情を言ったかいがあります。


 二段目にはプレーンとリンゴらしい果物の粒が入った二種の焼きたてのスコーンが美味しそうな焼き目を付けてのっています。バター、クロテッドクリーム、ジャムの三種の小鉢が添えられていました。


 一番上の段には色々な果物で飾られた、小さめのケーキがいくつも載っていました。生クリームにリンゴ、イチゴ、オレンジ、キウィ、バナナ─目にも鮮やかで、とても美味しそうです。


「あなたはセオくんが、好きなのよね? 気に入っているのよね? 嫌なところとかある?」


 次の目標を目にしながら、サンドイッチを味わっていると、母から矢継ぎ早に質問されました。


「セオくんに嫌な気持ちなんてないわ。キレイで可愛くて、大好きですわ。熊のドドン・ベアくんとウサギのミッチリちゃんの間に、座っていて欲しいぐらい」


 口の中のサンドイッチを飲み込むと、母の質問に答えました。


「あー、ええ、あなたのお気に入りのあの狂暴そうな熊とでっぷりしたおかしな顔のウサギの縫いぐるみね。何か違うのは分かりました。でもまあ、好きならいいでしょう。あの子は、あなたが見つけて救った子ですものね。もう長い付き合いですし」


 一瞬、眉を寄せた母が、気を取り直したように言ってきました。


「ええ、わたくしが見つけた子ですわ。宝物の綺麗な男の子を見つけられて、運がよかったわ」


 母の言葉に頷きながら、綺麗な男の子を見つけた時の事を思い出します。




 あれは6歳のお誕生日の時でした。両親と弟と四人で外出した時です。

 子どもでも楽しめるコミカルな劇を観て、夕食を予約してあるお店に行く前に、石像が置いてあるお店が目に止まりました。


 「あそこに宝物がある気がするの」


 そう言うと両親は、待たせてあった馬車に乗らず、気に入った物を買ってくれると言って、お店に連れていってくれました。

 薄暗い店内に、ゴチャゴチャと色んな物が置いてありました。よく分からない物が置いてある、妙なお店だと思いました。

 揉み手しながら出てきた店主も、落ち着きがなく、嫌な笑いの胡散臭そうな男でした。


 父と店主が話している間に、弟の手を引いてお店の奥に入りました。

 奥の壁に厚い黒いカーテンが掛かっていて、めくると鉄の扉がありました。手で押すと簡単に開いたので、勝手に中に入り込みました。

 まっすぐな廊下を少し歩くとまた鉄の扉があって、なぜか『ああ、ここにある』と感じて扉を押すと、やっぱり簡単に開いたので中に入りました。

 中に入ると細長い台の上で、猿轡をされて裸で縛り付けられている、ぐったりした様子の、弟と同じ位の年齢の男の子と目が合いました。


「! んーんんーん!」


 目が合ったとたん、ぐったりしていた男の子が体をよじって、呻き声をあげ始めました。


「わあ、大変! ぼく、おとうしゃまに知らせてくるね」


 弟が繋いでいた手を離して、部屋を飛び出して行きました。

 呻き声を上げている男の子の側に寄ると、大きいナイフや小さいナイフ、ハサミやら何やら、何か危なそうな物や得体の知れない物が入ってるトレイが、男の子の脇の四角い台にあるのが目に入りました。

 呻き声を上げている男の子の目は、涙でグシャグシャでした。

 トレイからハサミを手に取って近寄ると、男の子の呻き声が大きくなって、体を跳ねさせるので、手のひらでおでこをペシリと叩きました。


「縄を切ろうとしてるの。暴れると大事なところをチョッキンしちゃうかも……」


 そう脅しつけると、男の子の目に怯えが走り、大人しくなりました。

 苦労して縄を切り、猿轡を外してあげたところで両親と従僕や、ボディーガード達がバタバタと部屋に入ってきました。

 大人達の姿が見えると、男の子は震えながら大きな泣き声をあげました。


「もう、大丈夫だよ。怖かったり、変な顔がいても、あれは慣れれば平気。安心できる人達なの」


そう言いながら、男の子を抱きしめて、背中を撫でてあげました。



 後日、あの薄暗くてよく分からない物がゴチャゴチャ置かれたお店の、胡散臭そうな店主が、貴族とも取り引きのあるそこそこ有名な美術商だと知って驚きました。


 あまり子どもには、詳しい事は知らせないように配慮していたようですが、メイド達の噂話から、あの男はあの男の子の美しさに心を奪われて、付け焼き刃の知識を仕入れて、なんと剥製にして飾ろうと思いついたらしいと知った時は、背筋がゾッとしました。

 閉めていたはずのお店にお客が入ってきて焦りまくっていたとか、何とか……。


 事件が落ち着いた頃、男の子とその両親がお礼に訪れました。

 男の子は格式のある貴族の家の嫡男で、取り引きのあったあの男に、屋敷から拐われてしまったとの事でした。ものすごく感謝されました。

 涙でグシャグシャだった男の子の顔は、綺麗になっていました。

 白いドレスシャツに赤いボウタイ、青い上着とサスペンダーで吊った桜色の膝が見える短いズボン、白い長靴下、茶の革靴。

 とっても美しい男の子になっていました。


「ありがとう、おねえしゃま」


 舌たらずな可愛い声で、恥ずかしそうに上目遣いで見つめられてお礼を言われた時は、胸がキュンキュンしました。


 偉い、わたくし! よくやった、わたくし! とこんなキレイで可愛い男の子を見つけて、助ける事ができた自分を、心の中で自分で褒め称えました。

 確かに飾って見ていたい気になるけど、こんなにキレイで可愛いのは、生きてイキイキしてるからなのに、あのお店の男はバカ過ぎるなあと子ども心に思った事を覚えています。



 あれから十年以上が経ちました。

 弟と同い年だった男の子とは、ずっと交流があります。

 男の子と弟と三人でよく遊びました。

 一緒にいると綺麗な男の子を見て、皆が褒めました。

 キレイで可愛い少年を見るたび、幸せな気持ちになれました。

 宝物を見つけた自分は運がいいなあと思ってしまいます。


「あー、お腹いっぱい。美味しかった」


 弟の満足そうな声がして、ハッとします。気がつけば三段のスタンドの皿は空になっていました。ボウッと回想にふけっている間に、遅れをとっていたようです。


 張ったお腹を撫でるカエルのような弟、おちょぼ口で上品に食べてると見せかけながら、実はこまめにケーキのかけらを舐めとっているアリクイのような母、口に入れすぎたお菓子で頬が膨らみ、謎生物化の進んだ父に視線を走らせます。自分の手元には食べかけのサンドイッチが一つ……。


 情け容赦ない、食い意地の張った家族─運がいいと思ったのは勘違いだったようです。





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