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美少年の頬笑みは危険な香り  作者: ミケ~タマゴ
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♡01話 婚約破棄されたけど

  


「お誕生日おめでとう、遅れて悪かったが、私からのプレゼントだ」


 そう言いながら、前に座った男性がテーブルに置いた箱を、マリサリーヌはチラリと見ました。高級店のロゴが入った赤いリボンの付いた細長い箱です。


「あら、一昨日のお誕生日には何も連絡がなかったので、お忘れになってるとばかり思ってましたのに……」


 つい、皮肉めいた事を口にしてしまいます。


 焦った様子で訪ねてきた男性と、屋敷の庭先の白い丸テーブルに二人で向かい合わせに座っていました。


 この国では貴族の女性は16歳になると年四回ある王宮舞踏会のうち、誕生日に近いものに出て、社交界デビューするのが普通です。マリサリーヌは目の前の男性と秋の王宮舞踏会に出席する予定になっていました。


 16歳の誕生日というのは、大人の女性として認められる、意味のある大事な日でした。

 でも、男性は婚約者なのに、一昨日16歳の誕生日を迎えたマリサリーヌにカード一枚送ってこなかったのです。皮肉の一つも言いたくなるのも仕方ありません。何で放置されたのか、理由が分かっているので尚更腹立だしく感じてしまいます。


「夫となる者にそんな生意気な口を利くものじゃない。いい妻になれないぞ。忘れていた訳じゃなく、どうしても外せない用事が出来て、来れなかっただけなのだ。事業の拡大に伴い、人付き合いも増えた。突然の来客に対応しなければならない事もある」


「あら、申し訳ありません。あなた様も、大分お顔がお広くなられましたものね」


 威圧的に睨んでくる男性の額にチラリと視線を走らせます。マリサリーヌより一回り年上の男性の生え際は、まだ早いと思うのに、前に会った時より後退していました。ハゲそうです。




「そう、そうなのだ。遅れはしたが、忙しい中、こうしてプレゼントを持って会いに来たのだから、感謝してもう少し嬉しそうな様子を見せないと、可愛げのある妻になれないぞ」


「お茶をお持ちいたしました。どうぞ」


 男性の言葉に返答しようと口を開いたところで、スッと紅茶の入ったカップが二つ、テーブルの上に置かれました。運んで来たのは古参のメイド長でした。置かれたカップを少し見た後、カップを手にして一口飲みます。


「ありがとう。さすがね」


 一口飲んだ後、メイド長にニコリと笑ってお礼を言うと、彼女は黙礼して下がって行きました。ちょっと間が空きましたが、話し始めます。


「お付き合いが増えて大変そうですわね。一昨日は売り出し中の歌姫とお過ごしになられたんですわよね? 一晩明かされた後に、二人で宝飾店にお寄りになったとか……。二つ首飾りをご購入なさったようですけど、これはその方が選んだものかしら? やっぱり、忘れてらしたようですし、あまり喜べませんわよね」


「なっ! な、何でそれを……」


 淡々と言葉を連ねると、目の前の男性の額に汗が吹き出ます。広く艶光りしているので、すぐ目につきました。


「お友達が教えてくださいましたの。悪い事はできませんわよね」


「うっ、おっ、男の行動を一々詮索するような女は貞淑な妻にはなれないぞ! 私のいい妻になりたければ、愛人の一人や二人、笑って許すような度量を持て! そうでなけ……ガア!」


 居直って偉そうに叫んでくる男性の額に、紅茶の入ったカップをぶつけました。ガッと額にぶつかったカップは中身を男性に浴びせた後、地面に落ちて割れました。庭先のテーブルへの案内、ぬるい紅茶に割れても惜しくないカップ……さすがメイド長です。


「最低ですわね。いい妻とか、可愛げのある妻とか、貞淑な妻とか、会うたびに説教じみた事を言うのはやめてくださる? うんざりですわ」


「なっ、な、生意気な! こんな女は妻にできん!」


 椅子から立ち上がって肩をすくめて見せると、男性は赤くなった額を手で押さえて、顔から紅茶を滴らせながら怒鳴ってきました。もっと力を込めて投げつけてもよかったようです。


「結婚はなしだ! 婚約を破棄する! いいか、婚約をなしにするぞ。謝っても……」


「分かった。婚約破棄を承諾した」


 男性の怒鳴り声に被せるように落ち着いた男の声が響きました。


「こ、公爵」

「あら、お父様。お出かけではありませんでしたの?」


 振り返ると、いつの間にか父が背後に立っていました。


「ちょっと用事ができて、戻ってきたんだが、彼が来ていると聞いてね。一言挨拶をしようと思ったんだが……」


「こ、こ、公爵、これは、その……」


「言い訳はいらない。確かに婚約破棄は承諾した。歌姫との艶聞(えんぶん)は私の耳にも届いてるよ」


 父はあたふたと何かを言おうとした男性に首を振ると、サッと手を上にあげて振りました。どこにいたのか従僕が二人現れて、椅子に座った男性を両脇から抱えるように立ち上がらせます。


「支度を整えて、送り出してやってくれ。婚約破棄の手続きもな」


 父の言葉に従僕達は、口をパクパクさせている男性を連れて、手際よく立ち去っていきました。


「あんなにあっさり、婚約を破棄してもよかったのかしら?」


 去っていく男性を見送った後、脇に立つ父に首を傾げて尋ねます。


「かまわないよ、あの男は期待外れだった。浮気するなら、なぜもっとうまくやらないのだ。

 『バレなければ、やってないのと同じ』という基本を分かっていない。大事な誕生日を忘れて、尻尾をつかませるとは間抜けもいいところだ。噂になるほどバカな立ち回りしか出来ないとは、ダメな男だな。

 できる男は大事なところは押さえて、うまく立ち回るものだ」


「うまく立ち回ってる、できる男さん。どんなふうにおでき(・・・)になられてるのか、詳しく聞かせていただいてもよろしいかしら?」


 腕を組んで深く頷く父の後ろに、満面の笑顔を浮かべた母が現れました。父の肩がビクリと跳ね上がります。


「わたくしもこの婚約はなくなってよかったと思いますよ。結婚する前から堂々と愛人を持つような殿方はねえ。結婚したら、コソコソ浮気されても許せないものですからね」


 ニコニコと話しかけてくる母の手は、父の首根っこをしっかり掴んでいます。


「あっ、そうそう、セオくんが来てますよ。レイの部屋にいるから、後で会いにいったらどうかしら。あなたに一言知らせに来てよかったわ」


 そう言った後、母は父を引きずるようにして歩き始めました。


「さ、あなた。詳しい事を聞かせていただきますわ」


「ち、ちがう! あれは例え話というやつで……ご、誤解だあ……」


 母に引きずられた父の、悲鳴のような言い訳の声が、だんだんと遠ざかっていきます。一瞬にして、できる男からダメな男に転落した父に、手を組んで祈りを捧げました。頭の中で哀悼の鐘が鳴り響きます。


「マリサちゃん、大丈夫?」


 手を組んで祈りを捧げていると、心配そうな少年の声がかかりました。ハッとして、声のした方を見ると学院の制服を着た少年が二人、こちらを気遣うような様子で立っていました。


「まあ、あんなのに婚約破棄されたぐらい、気にする事はないよ。姉上」


 幼なじみのセオフィラスくんと弟のレイモンドでした。


「ごめんね。マリサちゃんに早く会いたくて、ここに来ちゃったんだ。立ち聞きするつもりはなかったんだよ」


 最初に心配そうな声をかけてきた、白金に近い輝きを持つ金の髪の少年が近寄ってきます。


 形の良い線を描く眉。長いまつ毛に縁取れた、光を宿す赤みがかった濃い金色の、パッチリとした目。まっすぐできれいな鼻筋。透き通るような白いきめの細かい肌。うっすら、桃色の頬。プルプルした艶のある桃色の唇。肩までの長さがある、光を弾くふんわりと柔らかそうな白に近い金の巻き毛。

 白いシャツに赤いタイ。学院の紋章が刻印された金の丸ボタンと左胸ポケットに筆と梟のエンブレムがついた、腰を覆う長さの紺色の上衣。上衣と同色の、脇に一筋細い金の線がある綺麗な折り目が入った下衣。つま先部分に小穴飾りの付いた紐結びの黒の革の短靴。


 名門貴族の子女が多く通う、王都にある王立セレサラブレット学院の制服を着た、天の御使(みつか)いのような美少年でした。


 少年のこちらを案じるように見てくる綺麗な目と目が合って、胸がキュンと疼きます。


「気にしないでいいのよ。こっちこそ心配させてごめんね。あんなハゲに婚約破棄されても、全然、まったく、微塵も、ショックなんて受けてないから」


 そう言って少年に微笑みかけると、少年はホッとしたように胸をなで下ろしました。


「よかったあ。マリサちゃんがもし泣いちゃったら、僕、どうしようかと思っちゃった。鼻毛一本ほどもショックを受けてなくてよかったあ」


「ん? 鼻毛?」


 側に立っている弟が何かを呟きました。


「フフッ、セオくんは昔から心配性なんだから」


「やだなあ、僕が心配するのはマリサちゃんの事だけだよ。だって、マリサちゃんの体には僕の名前が書いてあるような気がするんだもの。とっても親しみを感じてるの」


「それって、所有物……」


 弟がまた、何かを呟きました。


「わたくしもセオくんには、同じようにとても親しみを感じてるわ。小さな頃から一緒に遊んだ仲ですものね」


「うん、大きくなってもマリサちゃんと二人で仲良く遊びたいな。小さい頃は出来なかった事とか色々したいし、ずっと一緒にいたいなんて、子どもっぽいかなあ」


「「そんな事ない」」


 否定した声が弟の声と重なりました。


「わたくしも大きくなっても、セオくんとは遊びたいし、色々したいし、一緒にいたいと思ってるわ」


「本当?! 同じ気持ちなんて嬉しいな。じゃあ、王宮舞踏会のエスコート、僕にさせてくれる?王宮舞踏会は、男子は18歳からの参加が普通なのは分かってるけど、特例があってね。18歳じゃなくても出席できるんだよ。秋の舞踏会の前には15歳になるし。マリサちゃんがいいって言ってくれたら、僕がエスコート出来るの。一緒にいられるんだよ」


「それって、こん……」


 何かを呟こうとした弟の方に少年は顔を向けました。一瞬で青ざめた弟が口を閉ざします。弟が黙ると少年は再びこちらの方を向きました。


「ねえ、ダメ? 僕じゃイヤ?」


 体を近づけてきた少年に、上目遣いで見つめられます。


「マリサちゃん……」


 震える声で、うるうると潤んだ目をした少年に名前を呼ばれました。胸がキュンキュンします。


「ダメじゃないわ! イヤなわけないでしょ。セオくんにお願いするわ」


 思わず拳を握って叫んでいました。


「わあ、ありがとう! マリサちゃんにいいお返事貰ったって、おじ様とおば様に話すね。書類を整えて正式に申し込んでおくから、舞踏会はエスコートさせてねー」


 満面の輝くような笑顔で、少年が抱きついてきました。こんなに喜んでくれるなんて、胸がキュンキュンキュンとします。


「ええ、ええ、よろしくね」


 抱きついてきた少年の体を抱きしめ返して、笑顔で返事をしました。


「あ、姉上、分かってない……」


 弟が呆然とした様子で、よく分からない事を呟きました。



 

 一話、4500文字前後で少し長めです。5話で完結の話です。

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