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月夜の出来事

それは満月の夜の出来事だった。

深窓から朧気に見える満月は少女の顔を月明かりで煌々と照らしていた。

少女は藺草の薫りがする畳に夜空の様な藍染の長髪を広げこう、呟いた。


「私、目覚めたのね。残念」


彼女の名は瑞鳳ずいほう朱雀すざく。陸の孤島、日本で数少ない四神の名を冠せられる高名な華族の末裔だ。

朱雀の瞳は燃えるような朱色だったが今宵だけは金色に輝いていた。

そして異能の力を示す証、白銀の翼の印が背中に刻まれていた。


朱雀は産まれてから庭園の竹垣の外を一度も見たことが無かった。

障子を開けても竹と日輪と朝露に濡れる金木犀しか広がらない退屈さながらの世界。

そんな世界に幕を引かせるのは誰なのか。


それは月だった。今日は十五夜、魔力が一番高まり、異能を持つ人が爆発的に増える蠱惑的な今宵。そして月を一目見た私は目覚めてしまった。


月のクレーターは肉眼では確認出来ない筈だが刹那、月の渇ききった地面とは双極の優雅な都が瞳に映った。

都の天は地球と同じ様に日輪が浮かんでいたが周りは丑三つ時の様な夜空に包まれていた。夏祭の提灯や琴や鈴の音が奏でる越天楽がより一層、雅で栄光的な幸福を現していた。


しかしそれは刹那の出来事だった。

栄光的な幸福も快楽的な祭も現世とは似て非なる風景で存在し得ないのだ。


非科学的な出来事に魅せられた私の心と脳は改変された。科学的な事を信じきれない私は目覚めた。異能人という形を持ってだが。


異能力は頭の中に浮かぶ幻想や想いを世界の理に捩じ込む方法だ。しかしそれは一時的な仮想現実。焔を出したい、と想い、願えば世界は一時的に指先から極炎の焔を出してくれる。それだけだ。

朱雀は竹藪の擦れ合う音に耳を澄ませ、風が靡く音に心を委ねる。


「何か、聞こえる・・・」


それは幼き日々、聞かされた伝説の一句だった。声も、名前も、顔も知らない産みの親の穏やかな玉音の声が耳を撫でる。


「今宵の晩、朱に訪れよ」


そう、聞こえた気がした。

訪れる場所は直感で分かっていた。朱雀山、という秋になると紅葉が山道に覆い被さり朱色の道と呼ばれる山。

しかし、邪魔するのは自らの体。灯籠でほの明るく照らされた二十畳の畳部屋。

古書や色んな物が散乱し、一種の混沌になっている。


「出なきゃ。この閉ざされた世界から!」


私は着物を無造作に脱ぎ捨て昔ながらの桐箪笥に丁重に閉まってあった上着を着た。ヒヤリとした感触が全身を撫でるがそれに勝る高揚感が体温を急上昇させて行く。しかし上着一枚で庭園に飛び出した私は失望した。  

竹垣は見上げるほど高く、天を貫いており到底自力ではどうしようも出来なかった。でも・・・。


「失せろ。万物の壁」


本能が瞬時に回答を導き出していた。

異能は自らの願いを世界に捩じ込む方法。

唇が言葉を紡いで世界に願いを託す。

指先は異常に冷たくなり視界がぼんやりと霞掛かってゆく。でも、間に合わなくなる気がする。自分の限界を越えたい!


「我が背中に一対の緋の大翼を顕現させよ!!!」


庭園の金木犀が花弁を散らして魔力を放出した。ふわりと香しい薫りが鼻を突く。


辺りに霧散している魔力を体をちぢこめ背中に翼をイメージしながら形創る。

ピキ、ピキと魔力が翼に付着して緋羽を生やして行く。緋羽は周囲に飛び散り幻想的な風景を造り出す。

最後の余力を振り絞って出来た緋の大翼は身長を軽く越える翼だった。体を包み込むようにすれば簡易の仮眠具にもなる。


私は背中に生える一対の大翼を上下に動かし空気の流れを掴む。庭園の金の鯉がいる池が波紋を立てている。自分は、捕らわれたくない。そう願った朱雀は、一言呟いた。


「我の名は朱雀。四神の名を冠する者だ。どうか、もう一度ーーー」


朱雀は呟いて、朧気が掛かる月に直進した。風が頬を撫でる。雲が脇をすり抜ける。朱雀山は日輪の方向。つまり、東に直進した。


なんか・・・厨二臭いです。






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