虐められっ子と虐めっ子
僕は、所謂虐められっ子だ。
だけど虐待や暴力の様な酷い有様にまでは達して居ない。
つるむ連中にパシられる程度だから。
でも、いずれ僕は彼らの良い様な玩具になるかも知れない。
その恐怖を何時までも抱え彼らと共に居る。
何かを言い返せば、強く自分見せれば"それは""もしかしたら"断ち切れる連鎖なのかも知れないけれど。
僕はまだ"出来ないまま"だ。
日常から少し離れた夏休みにさえ今の僕には"いつもの日常"に変わりなかった。
静かな図書館に呼び出され彼らはワザと軽快な笑い声と響くほどの使わない教科書を図書館の机に
乱雑に積んだ。
『あー!!かったりぃ、かったりぃなオイ!!!クソつまんねェお勉強しに図書館に来たけどさぁ
此処は涼しいだけでよォ???集中力何て生まれやしねェな!!!なぁ??良い子ちゃんよ?』
『え、あぁ……そ、そうだね木原君』
隣に座らされた僕は彼らには"良い子"と呼ばれ名前さえ憶えられていない。
彼らにとってパシリは名前すら覚える理由が無いらしい。
腕っぷしが立つ彼の太く逞しい腕に肩を組まれ、身体が委縮する事さえも
楽しんでいる様に、視界の傍で彼のにやにやとした厭らしい笑みが垣間見える。
かったるい、勉強、勉強とただの気持ちとやりもしない言葉を盛大に口にし、周りは
彼らを視線で射抜くも、その視線は彼の視線の恫喝で怯んでしまい、おずおずと視線を反らしていく。
やはり皆そうなのだ。
"もしかしたら""それは"何て誰にも出来ない。
ましてや強さを誇示する連中に向き合える程の強さを見せつけるなんてしようとも思わない
皆"出来ないまま"だ。
僕はただ怯えて俯く事しか出来なかった。
眼鏡を掛けた男の司書さんらしき人が仕事の一部として仕方なく注意するも
彼らには、脅しにすらならなかった。
彼らは立ち上がり、彼を囲む様に脅し掛けてしまえば男性一人では、どうしようもなかった。
彼らの一人の不注意で背後に座って居たであろう図書館利用者男性の背中に肘が
ぶつかり、不意に男性が立ち上がるなら一斉に視線は男性に釘付けになる。
『君達、そんなに世の中がつまらないかい?』
『あ??オッサン何言ってんの??』
『そうだね!!私も世の中なんてつまらないもんだと思って居た所だ!!気が合うじゃないか』
『お、おぉ……』
『さぁさ見てごらん見てごらん!!!君達の机に散らばったこの教科書達を!!
ふむふむ、なーる程!!彼らは君達本を必要とはしていないって??そりゃそうだろう、ふむふむ』
まぁ、変人は例外だろう。話が通じないだろうから。
彼らは男の行動にただただ訝し気に眉を寄せ黙って見過ごしている。
男は教科書と如何にも会話する様に耳を寄せ、コクコクと頷いていたと思ったら
何故か着ていた白衣を脱ぎその教科書達に掛けた。
ソコからが圧巻だった。
掛けられた教科書たちは白衣の下で暴れる様に机を右往左往。
挙句の果てには白衣事宙へ浮くと言うイリュージョン。
『お、い……どうなってんだこりゃ!!手品か何かか??』
『ほら、教科書達が君達に怒っているそうだ、使え、私達を使えって!!ほーーーら!!!』
人の身長を有に越し宙に浮いたそれは男性の誘導で彼らの頭の上。
逃げ回るも虚しくその大量の教科書は使用されなかった恨みでも晴らすが如く
彼らの上にドシャドシャと降り注いだ。
『うわああああああ――ッ』
『あー、教科書達の恨みは恐ろしいね。
本は置くだけじゃ意味がないんだよ?本当、溜り溜まった本の恨みは怖い怖い』
『こ、のクソ野郎て、めェ……』
木原君が教科書の下からのそりと置き上がり、眉間に皺を寄せ男性の襟に掴み掛った瞬間
僕は不意に男性の赤い瞳に目がいってしまった。
そう、掴み掛られた男性の瞳が赤く光ったように見えたんだ……。
ただその光は停滞する事無く瞬時光を失った。
多分男性の眼が赤に近い茶褐色だったからだろう何て僕は思い直すことにした。
『おやおや、君はどうやら静かにした方が良い。周りの目がとっても痛い、私はこの視線耐えられないよ』
『は?知るか……ッぅ!ぷぁっ、何す』
これ程の報復をした相手が言うセリフじゃないだろう。
しかし、喰って掛かる彼の腕をスルリ、空気が通る位自然に抜け出て彼の両肩に男性が手を置き
あの力を誇示していた木原君を無理やり椅子に座らせる。
彼とて力一杯男性を振り解こうとしたのだろう抵抗すら無かったように、
椅子に座らされた彼の上から、白衣が被せられた一瞬。
『1,2,3……はぁい!!彼は静かに椅子になりました!!』
『……ッ!?』
そう、ほんの一瞬の出来事だった。
椅子に座らされ、白衣を掛けられ数秒後、木原君の姿形はその場から無くなって居た。
僕を含め周りは暫く時を止めた。
その時を諸共せず男性は颯爽と何事も無かったように軽い足取りで玄関へと向かう。
僕は必死に止まる時を動かす様に男性の後を追った。
『待って、待ってお兄さん!!木原君はどこに!!』
『おや、君は観覧者では無かったのかな??彼のトモダチかい?』
『……僕は』
友達何て呼べる状況何て無かった為言葉を濁す僕の背後に立つ男性
『あれ??さっき僕の前に……え??』
『何を言ってるのかな?可笑しな子……ただね、椅子は人の上には立てない。彼は懺悔するなら
今頃元に戻ってる。後悔も懺悔もしないまま怨恨だなんてものに囚われ続けて居たらきっと未来は
廃棄物処理行き……あーぁ、私はお腹が減ったよ』
言って居る事がまるで思い付きだ。
益々可笑しな男性だと思って居た矢先、僕の首筋に痛みが走った
『イタッ!』
思わず振り返る僕の眼にはもう、男性の姿は映らなかった。
ただ、蝙蝠の小さなキィッと言う声と共に残響が耳に届く。
君は"もしかしたら""それは"何て思わなくて良い。
君は"出来ないまま"の君じゃない。
得たんだよ"出来る力"
さぁ、逃げるのはおしまい……君はどうして行くだろうね?これから。
今度は私が観覧者だ。
意味の解らない言葉を耳に残し蝙蝠の姿は幾度か旋回し薄曇りの空へと消えて行った。
残ったのは首筋の痛みと、目の熱さ。
僕は踵を返し図書館へ戻ろう……もしかしたらこれからの未来。
少しは明るく見通せるようになったのかも知れない。
僕はもう観覧者では居られなくなったのだから……。
僕は舞台の上に立つ主役の様な気分でに図書館の縁へと足を掛け未だ失った者への
悲痛の叫びと暴言に口元の笑みを深くしたその時、ピリリと唇を切る八重歯の痛みに滴る血を舐め取った。
【虐められっ子と虐めっ子】を最後まで読んで頂いた方有難うございます。
小説家になろう初投稿の神前馨と申します。
この話実は、私が夢に見たモノをふわっと形にした短編です。
多少文学チックな表現をしていますが、感想は読み手の感情に任せます。
どの様に皆様が読んでくださったか不安半分期待半分です。
色々ジャンルの違う様なものを沢山掲載できればと思います。
またお目に届く事を願って……有難うございました。