そして物語が始まる
洞窟からの逃走に成功した3人だが、まだ危機は去っていない。
すぐ後ろからギーガ、グゼル、ゲジゲジが追いかけてきている。
(再度バトルフィールドに持ち込まれたら、逃げ切る見込みは無い!!)
しかも、レベルの低いペトラとヒカリはフィールドの魔物とエンカウントする確率が高い。そんな足止めを喰らえば容易く追いつかれてしまうだろう。
直ぐ近くにあるはずの街が絶望的に遠く感じる。
それでも3人は僅かな可能性に賭け、走る。
――が、意外なところから救いの手が舞い降りた。
「セージ!!」
聞き覚えのある声がする。声のした方向を見ると、何と「三丁目」のメンバーがなぜか街の外にいて駆け寄って来るところだった。
「buliteli、鬼弁慶さん――何でこんなところに!!」
慌てたのは追いかけていたギーガ達だ。
謎の能力を持つ初心者は喉から手が出る程惜しい。しかし、乱入者はLV50の重戦士と魔術師。バトルに持ち込むのは断じて避けたい。命がかかっているかもしれないので尚更である。
「くそっ……グゼル、ゲジゲジ、ここは引くぞ!!」
悔しさに歯噛みしながらも、3人は襲撃を諦め、セージ達の様子を窺いながら慌てて逃げ去って行った。
セージ達は安堵のあまりその場にへたり込んだ。
そんなセージ達や去って行った三人組みを見たbuliteliと鬼弁慶は戸惑った。
「何かあったのか?」
「……それより、buliteli達こそどうしたんだよ。」
「buliteliさんはまだ消えちまった二人が諦めきれないらしくてな……。パーティが壊滅した現場まで行って確かめたいって言うんで儂がついて行くところだったんだが……。」
「この先から峠を抜けた亡霊城だ。強敵が出るんで、できれば二人応援が欲しいところなんだが……セージ、装備はどうしたんだ?うぉーりーの奴はどこで道草食ってるんだ?」
セージ、ヒカリ、ペトラは『うぉーりー』の名前を聞いて押し黙った。
――沈み行く夕日に照らされ、茜色に染まる街並み――
『ユーフォビアガーデン』の街を跨ぐように架けられた王城に繋がる歩道橋。
ヒカリは1人、街の営みを見下ろせる歩道橋に頬杖をつき、ぼんやりと想いを巡らせていた。
先行きの見い出せない謎の世界。
数奇な境遇を共有する、付き合い始めたばかりの仲間達。
現実のくびきから解き放たれ、牙を剥き出しにする悪意。
自身の特殊能力の謎。
そしてうぉーりーの消滅。
「何やってんだ こんな所に一人で。」
声のした方を振り返ると、顔を顰めたセージがヒカリを見つけて歩み寄ってきた。
「ファルコンアローの奴らが探してる。一人でいると面倒に巻き込まれるぞ。」
ギーガ、グゼル、ゲジゲジの3人の報告が耳に入れば、ファルコンアローのメンバーはヒカリの能力に目をつけ付き纏うだろう。
街中では不可視の力が働き、強硬な手段が取れなくなるとはいえ油断は出来ない。
「それとも連中に手を貸すか?悪い様にはされないだろ?」
淡々と口にするセージの様子にヒカリは驚く。
「そんな……。セージさんはそれでいいんですか……?」
セージは黙ったまま、ヒカリから目をそらし歩道橋から街並みを見下ろした。
茜の空が濃紺に移り変わる。
日が沈むと、建物から白く光る蛍の様な妖精達が舞い上がり、緩やかに漂い始めた。
しばしの沈黙の後、セージは口を開いた。
「俺は、少なくとも俺はファルコンアローの連中を信用出来ない。手を貸すなんて断じてごめんだ。」
「だから、新しくギルドを創ろうと思う。」
「……『三丁目』の皆さんは……」
「あそこのギルドを出る訳じゃない。ただ、あそこはうぉーりーのギルドで、他の連中にだって都合があるだろう。」
セージはうぉーりーが死んだとは考えていない。「結構いい加減な奴だから、すべてが終われば何食わぬ顔で戻ってくるだろう」と信じていた。
だからあの場所を承諾を得ずに変えられない、と考えた。
「あんな連中の手を借りなくても自力で降りかかる火の粉を払える、実力をつける。」
「その為にはまず人を集めるだけの求心力が必要だ。 ヒカリには悪いが、俺はあんたの能力を当てにしている。」
セージはヒカリをまっすぐに見て言った。
「ヒカリ、出来れば俺に力を貸してほしい。」
ヒカリは、心に渦巻く不安を押し殺し、決意を込めてセージの目を見返した。
「わたしは……セージさんと、一緒に闘います。」