表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/50

ギャグ短編8

 珍客襲来2



 セージは図書館で客人を待ちながら留守番をしていた。


 ――緊急の事態に備えるため、図書館では基本、対策メンバーの誰かが留守番をしている。

 最初の頃は書きものの多いナビが留守番をしている事が多かったが、この時ナビはバトルのコツをレクチャーするため出払っていた。


 他のメンバーも、挨拶回りやら何やらで不在で、この場にいたのはセージ一人だ。


 セージが留守番がてらスケジュール調整等の雑務をこなしていると、


「おじゃましまーす!あれ、今日はセージさん一人?」

 と、グリンクレヨンが食べ物を差し入れにやって来た。


 グリンクレヨンは、しょっちゅう街中をあちらこちら回っては美味しい食べ物を探して三丁目のメンバーや対策メンバーに差し入れをしていた。


「よう!また何か持ってきたのか?好きだよなあ。幾らでも食べれるからって調子に乗るなよー?帰ってからどうなっても知らないぞ?」

 セージはそんなグリンをからかいながらも、そそくさとテーブルの上の書き物道具を脇にどかした。


「う、うるさいなーっ!折角セージさんの好きそうなやつ持ってきてあげたのに!」


 ファルコンアローに目を付けられ、レベル上げに明け暮れていた頃はいつも皆と一緒だった。しかし、最近では全員揃う機会はなかなか無い。

 それを寂しく思うグリンクレヨンにとっては、「食べ物の差し入れ」は皆の顔を見に行くための口実であったのだが……


(ひょっとしてワタシ、皆に「食いしん坊」って思われてるの?)

 と、セージにからかわれてひそかにショックを受けた。これは女子の沽券に関わる由々しき問題である。


 そんなグリンクレヨンの葛藤に気づかないセージは、手渡された大きな紙袋を開けて中身を覗いた。


「え、何だコレ?……きゅうり?俺は河童じゃないぞ?」

 袋の中に入っていたのは、きゅうりをカラカラに乾燥させて茶色くしたようなヘンテコなものだった。


「あはは。ホントに河童が売ってたけど、スナック菓子みたいだよ?チーズに醤油バター、チョコにメープルシロップも。色んなフレーバーが揃ってるの。」

「ふーん?……あ、旨い。」


 試しに一本齧ってみたセージは納得して頷いた。

 乾かしたきゅうりのようなその食べ物は、香ばしくサクサクと小気味よい食感をしていた。乾いている様に見えて、噛み締めると「じゅわり」と旨味エキスが滲み出てくる。セージが食べたものはコーンポタージュ味の様だ。少し濃いめで飲み物が欲しくなるが、食べる手が止まらなくなりそうな中毒性があった。


「一応言っとくけど、青龍さんたちの分も残しておいてね。」

「判ってるって。……もうすぐお客さんが来るんだけど、少しお茶請けに出してもいいか?」

「いいよー。あ、コーヒーもらっていい?セージさんもお代わりする?」

「たまにはお茶にしとこうかな。そっちにパウンドケーキも置いてあるから。食べてくか?」

「うん。ありがと。」


 飲み物はいつでも飲める様に、図書館の別のテーブルに多めに用意してあった。(カップは使い捨てである。勿体無い気もする。)

 セージの言っていたパウンドケーキも置いてある。切り分けられたその断面からたっぷり木の実がのぞいていた。傍らにクリームも添えられてある。



 グリンクレヨンがそれらを取り分けていると、廊下で騒々しい音を立ててプレイヤーが一人やって来た。


 セージの見知らぬプレイヤーだ。しかも、そのプレイヤーはただごとではない雰囲気を発している。

 セージはやや緊張し、グリンクレヨンは不安そうにセージとプレイヤーを交互に見た。


 突然やって来た乱入者は、険しい表情でセージに向かってびしり、と指を突き付けるとこう言い放った。


「白々しくリーダー気取ってふんぞり返っているが、実はお前が俺達を閉じ込めた黒幕だな!! 証拠は上がってるんだ! 正体を現せ!! 」


 セージとグリンクレヨンはぽかん、と呆気に取られた。


 グリンクレヨンが困惑してセージに小声で尋ねる。

「セージさん、『お客さん』ってこの人のこと……?」

「違うっつの。」


 セージは脱力して深く、深くため息をついた。


「あのですね……俺が黒幕だと、それを言い出したのはあなたで通算、28人目になるんですよ。」

「うえええっ?! 28人?? 多くない?」

 グリンクレヨンが人数に仰天した。


「徒党を組んで来た分がいるからな。「トッププレイヤーでもカリスマでもない馬の骨が何でリーダーに成り上がったんだ、おかしい」ってさ。同じ様に 『 ヒカリ黒幕説 』 もあるぞ?ただ、あいつにそれを確かめに行った人数は11人だった。……この人数差は何なんだろうな……?ヒカリには悪いが、怪しさならあっちの方が断然上だろうに……」

「「それは勿論、目つきが……」」

 ギロリ。

「「……何でもありません。」」


 セージは乱入者に改めて向き直って問うた。

「それで、『証拠』とはどういったものデスカ?」


 睨まれた乱入者はたじたじになった。


「え……と、ハッタリ……です……」


 セージの眼差しが怒気に染まっていく。

「目つきがキツい」とさんざん揶揄されるだけあって、セージのガンつけにはそれなりの迫力がある。今は当人が腹を立てているのもあって、凶悪さに磨きがかかっていた。


「俺は黒幕じゃあありません!詮索は無駄です!が、それでもって言うんならせめてちゃんとした根拠を揃えて出直して下さい! 目つき以外で!目つき以外でっ !!」

「それ、私情入ってるんじゃ……」

「い・い・で・す・ね?」

「は、はいっ! すみませんでしたーっ!!」


 突然の乱入者はそそくさと去っていった。

 まるで嵐の様な登場と退場であった。



 セージはぐったりと身を椅子に預け、ボヤいた。

「全く。次に来る人も厄介だっていうのに……」

「えっと……うん、ドンマイだよ。うん。」

 グリンクレヨンが苦笑いを浮かべてとりなしつつ、二人分の飲み物とケーキを持ってきた。



 その時、またしても図書館の入り口の方から声がかけられた。


「遅れてごめんなさーい!レポート完成しましたよ、セージさん!!」


 そう言って、お嬢様風の衣装を着た金茶の髪の女性アバターがやって来た。

 その手には分厚い紙束を抱えている。かなり大きく、分厚い束だる。まるで大きめの辞書を手にしているかの様だ。


「お待ちしていましたよ。どうぞ。」

 セージは席を立ってお嬢様風の客人を出迎えた。そのまま、お茶を持ってこようとするのを見て、グリンクレヨンがセージを止める。


「ワタシが淹れてこようか?」

「お、じゃあ、頼むよ。……紅茶でよろしいでしょうか?」

「ええ。お構いなく。」


(いつもより丁寧な応対してるけど、大事なお客さんなのかな?)

 セージの様子を見たグリンクレヨンはそう思った。


 客人のお茶を淹れたグリンクレヨンは、二人の邪魔をしない様、まだ手を付けていなかった自分の分の茶菓子を持って下がろうとしたが、

「あら、お邪魔しちゃったかしら?私の事なら気にしないでいいですよ?ゆっくりしていったら?」


 と言われたので、少し迷った後おずおずと椅子に座りなおした。



 セージは客人と軽く談笑し、一服するのを待って本題に入った。


「それで、早速ですが。調査していただいた分のレポートは?」

「ええ。これです。」

 客人はニッコニコと満面の笑みで、分厚い紙束を全部セージに差し出した。


「……え?」

 ニッコニコ。


「……あの、まさか、これ、全部ですか?」

「ええ。そうですよ。大変でしたよ。もう!」

 ニコニコニコニコ。


 セージは顔がひきつりそうになるのを何とかこらえて分厚い紙束の中身を確かめた。


 その書類の中身は誰がどう見ても「料理レシピ本」だった。

 材料と調理法、それが図解つきで丁寧に、たっぷり余白を取って見易く、かつ可愛らしいデザインで書き記されている。


 客人はセージ達の困惑に全く気付かず、まくし立てた。

「この世界の全ての料理を試食して、元の世界で料理を再現してみせる!私達 『特別調査班』の、渾身の傑作がこちらです!ホント大変だったんですよー !! 特に苦労したのは……」


「ご、ゴメンナサイ、ちょっとセージさんお借りしてもいいですか ?! 」

 客人の演説を呆然と聞いたグリンクレヨンは、そう断るとセージを本棚の後ろにまで引っ張って行った。


「ちょっとちょっと! 何で食べ物なんて調べてるのーっ?! あれでホントに元の世界に帰れるの ?! 」

 言いながらパウンドケーキを口いっぱいに頬張っている客人を遠巻きに見やる。


「言ってくれるなよ……」

 セージは情けない顔になった。


「あんな事頼んでないのに、勝手に「やる」って言って聞かないんだ……あの人、横のつながりが広いから、機嫌を損ねると面倒なんだよ……。」


 あの客人の事になると、青龍やふぁるみーまで途方に暮れて「無理だと思うけどなるべく機嫌をとっておけ」とのたまうのだ。


 セージ達対策メンバーの活動はプレイヤーの許容と協力によって成り立っている。あまり力を振りかざすつもりがないので、強制力はほとんどない。

 なので極力、敵を作りたくないのである。


「まあ、一応報告は受けとくさ。ついでに頼んでいた調べ物の分もあったはずだし。」

 グリンクレヨンとしては言いたい事が山程あったものの、セージが可哀想になってきたので口をつぐんだ。


 セージ達はそそくさと客人の元へ戻った

「突然席を立ったりしてすみません。」

「いえいえ。リーダーだけあってお忙しいんですよね?私は味方しますよ!……ところでこのパウンドケーキ、素朴な味わいがいいですよねえ!紅茶との相性抜群だし、午後のおやつにぴったり!」


 ひたすらに客人のお料理談義が続く。セージ達は相槌を打ってしばらく話に付き合った。


 頃合いを見計らい、セージはもらった書類から数枚を抜き取ると、残りを客人の元に返した。


「こちらですが、俺達が預かってしまうと、一部の人にしか閲覧できなくなってしまうんです。なので、もったいないですよ。この分だけいただきますから、残りは大勢の人に見てもらえる様に別に公開した方がいいと思います。」

「ええ?そうなんですかあ?」


 客人は目に見えて落胆したものの、セージ達に対する反発は見えない。

 今回は何とかとりなすのに成功しそうだ、とセージは内心、安堵した。


 ここでグリンクレヨンは客人に提案した。

「天上歓楽街に持ち込んでみたらどうでしょう?あそこ、ミニゲームで結構人が集まるし、コミケみたいな事やって集まってる人も多いんです。」

「そうなの?うーん、どうしようかしら……」

 客人はあまり乗り気ではなさそうだった。


「たくさん見てもらいたいけど、知らない人ばかりだとねえ。無くされたら嫌ですし。……はあ、この世界にもブログがあったらな……」


 ぽつりと呟く。

 すると、客人は急に顔を曇らせ、うつむいて押し黙った。


 どうしたというのか、疑問に思いつつもセージは黙って客人を見守った。

「セージさん……」


 客人が身を乗り出し、必死な様子でセージに問うた。


「私達っ、本当にっ! 元の世界へ帰れますよねっ?」


 グリンクレヨンは息を飲み、とっさにセージの表情へ視線を走らせた。


 セージは明らかに動揺している様に見えた。


 が、瞬く間にセージは落ち着いた態度を取り繕うと、穏やかな調子で客人に語りかけた。


「大丈夫ですよ。」

「…………」


「力を貸してくれる人は増えています。調査も進んでいますが、難易度の高いダンジョンなど、未だ手をつけていない場所もあります。」


 力強く、続ける。

「いずれ必ず、手掛かりをつかんでみせますから。」


「そう……そうですよねっ!」

 客人はその言葉にある程度納得したのか、元の明るい雰囲気に戻った。


「じゃあ、帰る時の事も考えて、今のうちにやれる事をやっておかなきゃっ! ……セージさん、おじゃましましたっ!!」


 客人は挨拶も早々に、陽気な足取りで図書館を去って行った。


「ふう……。」

 セージは肩の荷が下りた、といった態で椅子に深く腰掛けた。


「やっと帰ってくれたな。」

「う、うん……」


(……無理、してるんじゃないの……?)

 セージの普段どおりの呑気そうな様子が、グリンクレヨンには何かを誤魔化している様に見えてならなかった。


 が、結局、グリンクレヨンも彼に調子を合わせ、陽気に笑って言った。


「すごい長話になっちゃったね。でも、わりとためになったよ! それじゃあ、邪魔しちゃ悪いから、もう下がるね。」

「おう。 あ、次持って来るなら肉系で頼むわ。ガッツリって感じの。」

「もう、調子良すぎーっ!」


 軽く冗談を交し合うと、グリンクレヨンは食器を片づけて図書館を後にした。



 ――静寂が訪れる。


 セージは、図書館に誰もいなくなったのを見届けると、先程とは一転して厳しい表情になった。


 そうして、席を立ち、中空に浮かぶイリュージョンを見上げる。


 ホログラフは、オープニングムービーが終わり、世界マップを映し出しているところだ。

 その世界マップと、脳裏にある調査済み地点の地図を重ね合わせる。



 ――そうして、セージはしばらく、挑むようにイリュージョンを睨みつけていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ