道草(上)
ヒカリは調査を終えて一段落した所、ブリックガーデン城へ来るよう、プレイヤーから伝言を受け、同行していたペトラと共にブリックガーデン城へと訪れた。
ブリックガーデン城前の庭は開けていてとても広い。街との境近辺には一対の像と掲示板(ゲームに設置されていたものの隣に対策会も独自の掲示板を立てている)。城入り口へと続く道には白い煉瓦が敷かれているが他は一面、芝生である。遠くに見える区切りの壁近辺にささやかな花壇がある位のシンプルな造りだ。ここではよく運営のがイベントを開催するため、大勢のプレイヤーの集まりやすい形とした様である。
広い庭を通り抜けて城内へ入ると、青龍がヒカリ達を迎え入れた。
「お待ちしてましたよ。少々、話が長くなると思いますから、場所を移しましょう。ついてきて下さい。」
青龍の案内で入った部屋は、おそらくは兵士の休憩所か何か、というコンセプトの設計と思われる造りだった。中央に使い古した大きな木のテーブル、そしてそれを囲う様に椅子が置いてある以外は、これといって何もない所だ。
そこでは、buliteli と鬼弁慶、グリンクレヨン、亡霊城で世話になった蒼の傭兵隊のギルメンの葵、スカイブルーが集ってくつろいでいた。
彼らも青龍から呼び出しを受けたのだという。
「このメンバーが揃うのは久しぶりですね。」
お互いに挨拶を済ませると、ペトラが顔をほころばせて言った。
和やかな雰囲気になった所を、青龍が申し訳なさそうにさえぎり、本題へと話を進める。
「今回、皆さんには『飛空艇追走劇~天上歓楽街解放』を受けて来て欲しいんです。そこに向かったプレイヤーが二名程、予定時刻を数時間過ぎても帰って来ていません。ヒカリさんのクエスト消化も兼ねて様子を見に行って欲しいのです。」
――一定のクエスト、ダンジョンは『前提』となる特定の条件をこなさないと進めないものがある。ヒカリは他の作業に追われ、まだ幾つかその条件をクリアしていなかった。今回の救出メンバーにヒカリが入っているのは前提クエスト消化も兼ねての事である様だ。
「飛空艇クエストっすか。あれ、すごいらしいですよね!」
話を聞いたスカイブルーとbuliteli が浮かれて口を挟んだ。
「空賊の基地に潜り込んで、飛空艇を強奪!空を追ってくる空賊の船とワイバーンを、凄腕の元操舵手の操縦で振り切って逃げるっていうストーリーですよね !!」
「ああ、俺もこっち来てから一回体験したけどさ、あれはヤバイ !! ゲームでも目玉イベントだったが、実際乗れるのはもう、迫力が段違いだ !!」
二人が興奮しているのを見て、ヒカリとペトラもひどく興味を惹かれ、お互いに顔を見合わせた。だが、グリンクレヨンはがっかりした様子で言った。
「ええー?それじゃあ、セージさんも来ればいいのに。折角皆集まってるんだし。」
青龍は困った様に言った。
「セージさんは今、別件で手が離せないんですよ。普通のゲームだった時に消化済みだと聞いていますし。」
「妙だな?そういえば、こっちに来る途中で何人か行き来してるのを見ましたけど……何かあったんですか?」
鬼弁慶が眉をひそめて尋ねた。彼は城内でプレイヤー集団とすれ違ったのだが、彼らの様子が心なしか緊迫して見えたので気になっていたのだ。
「それがですね……」
青龍は苦虫を噛み潰した様な顔で語った。
「外で粘っているファルコンアローの残党がいたでしょう?彼らを見張りが油断して 2人程、取り逃がしてしまったんです。」
ヒカリ達は顔色を変えた。
「何やってんだよ、普通逃がすか?」
buliteli が吐き捨てる。
それならば自分の力が必要なのではないのか、ヒカリは困惑して青龍に尋ねた。
「私達も手伝わなくて良いんですか?」
「いやあ、騒ぎにはなっていますが、程なく落ち着くでしょう。」
回復やアイテムの補充を考えれば、街中へ入り込みたいと考えるものだが、ブリックガーデンの街の門にはプレイヤーの出入りをチェックする見張りが立っている。なので逃げた二人はダンジョン内にある転移魔法陣経由で街へ逃げ込もうと画策し、『薬草高原』へと向かったらしい。
「ですが、その場には丁度、採集に来ていたプレイヤーが多かったようで。彼らが応戦している間に連絡が届いて、こちらの手回しが間に合いました。」
「ええ……?薬草高原ってあんまり強い人が行く所じゃないのに?その人達、大丈夫だったんですか?」
グリンクレヨンに問われ、青龍は首をかしげながら答えた。
「無事でしたよ。おっしゃる通り、中堅レベルの商人プレイヤーばかりだそうでしたが。――何でも、ありえない位の『強運』の持ち主達だったそうで。状態異常やスロットが猛威を振るったと……」
『スロット』は商人のスキルで、ダメージ量がランダムに増減する。ダメージの期待値は小さいが、運が良ければ格上が相手だろうと大ダメージを与えられるスキルである。
その話を聞いた鬼弁慶は冗談めかして青龍に尋ねた。
「青龍さん、その人達って黒ローブに仮面を付けた人達だったりしませんよね?」
青龍は目を丸くした。
「彼らをご存知とは。お知り合いでしたか?報告に来た際には、「我々の信仰は間違ってなかったぜ!ヒャッフゥー♪」と舞い上がってましてね。調子に乗って無茶しそうで少々不安なのですが……どうかしました?」
「いえ、何でもないです……」
「気にせんで下さい……」
ヒカリと鬼弁慶はだらだらと冷や汗を流し、ひきつった笑みを浮かべた。
二人を不思議そうに見やりながらも青龍は話を戻した。
「事なきを得たものの、そこでも彼らを取り逃がしてしまい、厳戒態勢中です。ですが、プレイヤーの救出の方も急務でしょう。帰ってこれなくなる様な粗忽者達ですからね、待ちくたびれて軽率な行動に出ないとも限りません。」
ひととおり語ると、青龍は廊下につながる扉の方へ視線を移した。
「はて?もう一人、あの辺りに詳しいという方に手伝いをお願いしたはずなのですが……」
と、その時。
「ジャッジャーン♪」
バン、と大きな音を立てて扉が大きく開き、自分で登場風SEを奏でながら、颯爽とプレイヤーが登場した。
頭上の表記は、『ミント LV60:軽戦士』となっている。
緑がかった金髪の髪をサイドテールに結い、トレジャーハンター風の衣装を着た『キュートで溌剌』といった雰囲気の美少女アバターだ。
「飛空艇クエストなら、あたしにまっかせて♪ マニア並みに通い詰めちゃってるから!!」
そう言って一同に向けてニッコリ笑いかける。そうして、ヒカリの方へ小走りに駆け寄った。
「わ♪ 間近で会うの初めてだ!! よろしくね、ヒカリちゃん!!」
「は、はい。よろしくお願いします。」
突然、フレンドリーに話しかけられてヒカリは戸惑ったが、悪い気分ではなかった。
(何気ない仕草がカワイイ人だなあ。甘え上手な子犬みたい。)
そんな風に、ヒカリはミントに対してある種のあこがれと好印象を持った。
飛空艇クエストは各拠点の街の酒場で受注できる。
ブリックガーデン街には、セージとふぁるみーが会った場所の他に、もう一ヶ所存在する。
そちらの方は、年季の入った建物に荒くれ者の集う、RPGの定番といった雰囲気の場所だ。
一行が足早にそちらへ向かう中、鬼弁慶が一つ提案をしてきた。
「なあ、クエストを受ける前に段取りを決めて置かないか?」
「賛成です。まずはクエストの流れについて、ヒカリさん達に教えておきましょう。」
葵が賛同してそう切り出した。
しかし、ミントは二人の意見に「信じらんなーい!!」と大仰に驚いて食いかかった。
「初見のコにネタバレしちゃうなんて酷いじゃない!! 楽しみが半減しちゃう!!」
お気楽な意見が気に喰わないのか、葵が半眼でミントを見やる。
「けどさ、あのクエストは変則的だろう?初っ端っから一人で箱の中に閉じ込められるんだ。言っておかないとヒカリ達が混乱しちまうだろ?」
ペトラは、ヒカリが困った様な顔をしているのを横目で見てミントに頼み込んだ。
「ごめんなさい。私も不安なので聞いておきたいです。」
ミントはしゅーん、として呟いた。
「っていうか、一部ネタバレしちゃってるし……しょうがないなあ。」
気を取り直すと、「これだけは譲れない」と勢い込んで大まかなストーリーを語り出した。
「これまでのストーリーで、『ミヌエット姫』が空賊にさらわれていたでしょ?クエストが始まると、まずは酒場の席にワープして、『女騎士』とプレイヤーの相談シーンに入るの。そうしたら、「話は聞かせてもらった!!」とか言って、NPCが乱入して来るの。ぶっちゃけると、このおめでた男……じゃない、『眼帯の男』が凄腕の元操舵手なのね。」
――元操舵手のNPC『謎の眼帯男』は、イベント時のツリーのようなごっちゃごちゃに飾りのついたヘアスタイルをしている。そして、公式が『眼帯の男』を『元旦の男』と誤植をした事から、プレイヤー達の間で『おめでた男』と呼称される様になっていた。
「で、眼帯男の手回しで、プレイヤーは倉庫の積荷に成りすまして、飛空艇に乗せられ高山にある空賊の基地に連れて行ってもらうの。」
「このシーン、プレイヤーは一人一人木箱に詰め込まれるんだ。いきなり真っ暗な箱にワープするからビビるんじゃねえぞ?」
buliteli がそうヒカリ達に忠告した。
「基地に到着したら木箱が勝手に開いて、みんなと合流できるよ。ここからは基地ダンジョンの探索になるね。」
帰って来ない子達は、たぶんここにいるんじゃないかな?とミントは呟く。
ミントの説明が終わらない内に、一同は酒場へと到着した。
一度に説明するよりは、基地に到着してからあらためて聞いた方がいいだろう、という事で、早速パーティを編成し、各自クエストを受け始めた。




