セコい!
街の酒場にて。セージはプレイヤーの一人と相対し、交渉していた。
「冒険ファンタジーの酒場」と言えば、荒くれ者の集う、殺伐とした雰囲気の場のイメージが浮かびそうだが、この酒場は元の世界で通用しそうな程、洒落た雰囲気の店だった。
工夫を凝らした照明が店内をより印象的に魅せている。シックな色合いのテーブルと椅子は余裕を持って配置され、くつろげる雰囲気を醸し出していた。
店内は広く、一段段差を上がった奥の方には、カウンターもしつらえてあった。大きな棚には酒瓶と酒杯がずらりと並べてあり圧巻だ。
酒場には飲み客らしきNPCの他、奇抜なデザインのエプロンドレスを着たウェイトレスが数人、緩やかに店内を往復している。
そんな中で、何故かカウンターの奥にいるバーテンダーが、パリッと制服を着こなした特大人型大根で、両の短い手で何とかシェーカーを持ち体ごと振る姿が背景から異様に浮いていた。
「何かあった時にファルコンアローに従わずとも自分達で解決できる体制を整えたいんです。できれば協力して欲しい。」
「堅苦しーなー。タメ口でいいぜ?」
オレンジから赤のグラデーションに流れる長髪、ややきつめの目鼻立ち、そしてカーニバル衣装を彷彿とさせる派手で露出度の高い踊り子衣装のアバターの女性。
彼女のキャラ名は『ふぁるみー』
凝った演出のゲームプレイ動画を複数投稿している知名度の高いプレイヤーだ。
ぞんざいな態度と粗雑な仕草から察するに、アバターの中身は男性らしい。
異様な風体の相手ではあるが、この世界がすでにコスプレ大会の様な有様でセージの感覚も幾分か麻痺していた。さらに、セージは根本的な所でお人良しである。彼(彼女?)の恰好の事も
(目立つ姿をしてるのは動画のアピールの一貫なんだろうな。)
と解釈し、大して気にしなかった。
「……お言葉に甘えて。まあ、気が向いたら足を運んでくれないか?」
「オッケーオッケー。考えとくよ~」
口ではそう答えるものの、彼女(彼)の弛緩した顔には「めんどくさっ!!」と描かれていた。
どうやら彼女(彼?)はこの事態に日和見の傍観者を決め込むつもりらしい。
セージは脈無しと判断し、早めに交渉を切り上げる事にした。
立ち上がり、外に出ようとして顔を顰める。
ファルコンアローのメンバー数人が、わざと出入口付近に陣取っていたからだ。
通り道を塞ぐ嫌がらせである。
街中では不可視の力が働いて暴力が制限されるので無理やり押し通る事は難しい。
セージがどうしたものかと迷っていると、ふぁるみーが皮肉げに笑って彼を呼び止めた。
「あいつらなら心配ねーよ。もうそろそろ頃合いだから。 まあ、見てなって。」
言われた通り黙って様子を窺うと、外の方から物音を立て、鎧を着込んだ団体がやって着た。
「貴様らが公共の道を塞ぐ不届き者か?」
「はっ?! え?!」
「とっとと立ち去るが良い。従わぬのなら相応の罰を下す!!」
驚くことに鎧を着た騎士姿のNPCが複数現れ、ファルコンアローのメンバーに向かって勧告を発した。そして、それでもどこうとしなかったプレイヤーは騎士のNPCが無理やり連行して行ってしまった。
「街中であんまりバカやってると、ああやってNPCが引っ張ってってくれるのさ。」
驚くセージにふぁるみーが解説してくれる。
「連れてかれた奴はどうなるんだ?」
「地下牢に2、3日監禁されるらしいぜ。」
「ああ、成程ね。」
セージは感心して頷いた。
と、その時、NPC達と入れ替わりに酒場へと入って来た二人組が、セージの姿に気づいて話しかけてきた。
「探したぞセージ。」
一人は同じ三丁目ギルドの仮面の巨漢、『鬼弁慶』
もう一人は青い和風テイスト衣装を着込む、黒髪の壮年男性風アバター。『蒼の傭兵隊』ギルドマスターの『青龍』だ。
「ファルコンアローが妙な事をやり始めたぞ。」
青龍が苦虫を噛み潰した様な顔で状況を話した。
「街の門からすこし外に強いギルメンを配置して通り道をふさいじまってるんだ。」
「通り道をふさぐ……?」
丁度傍らで話を聞いていたふぁるみーに視線を向けるが、ふぁるみーは肩をすくめ首を振った。
街の外の道をふさいでもNPCは対応してくれないらしい。バトルで決着を付けろという事だろうか。
「表向きには「緊急事態に備えた街の警備だ」なんて言い張ってるがな、あれは外に出てレベル上げするプレイヤーを妨害するつもりなんじゃないか?」
「まさか…ヒカリにレベル上げさせない気か?勧誘を断り続けたからってこんな仕打ちかよ。 人集めじゃなくレベル上げから手を付けるべきだったか……」
セージは己の迂闊さに歯噛みした。
一連の動きを図らずとも耳にする事となったふぁるみーは、ファルコンアローの策略を一言でこう評した。
「セコい。」
「一旦ギルド倉庫にメンバーを集めて作戦会議だな。ヒカリはどうしてるんですか?」
鬼弁慶が答えた。
「儂と初心者プレイヤーに探りを入れてたところだ。まだ一人で続けてるんじゃないか?」
ヒカリと鬼弁慶は初心者の中に同じ能力の持ち主がいないか探っていた。
ヒカリの謎の能力に関して、三丁目メンバーもヒカリの「こう、キーンってなってバシッときてバチバチな感じです」というありがたい助言を元に試行錯誤したものの、ヒカリ以外に使用可能な者は現れなかった。
なぜ、ヒカリだけその能力が使えるのか?
ヒカリに思い当たる原因は「ヒカリがプレイヤー選択画面でこちらの世界に迷い込んだ」事位である。
その仮説が正しいのならば、ヒカリと同じ能力者は初心者プレイヤーの中にいるかもしれない、と彼らは考えた。
「ヒカリ以外の連中はパーティーを組んで出かけたぞ。アイテム生産用素材を集めるんだって言ってたな。」
「何だって!!」
セージは今度こそ顔色を変えて焦り始めた。
「何とか別の街に待機するよう連絡を取らないと……メールはまだ復活しないのか?!」
そんなセージの様子に鬼弁慶は訝しげな顔をした。
「ヒカリじゃないんだし、他の連中が狙われる事は無いんじゃないか?」
セージは首を振る。
「ヒカリは今ただ一人の能力持ちだ。迂闊な真似をして失う事は向こうもできない。だが、だからこそ三丁目のメンバーは危ない」
「ヒカリを従わせる為に人質として利用されるかもしれない!!」
慌てるセージを青龍がたしなめた。
「セージさん、落ち着きな。各地に転移魔法陣が設置されてあるだろ?行先にも寄るが三丁目さんがノコノコ徒歩で帰って来ることはまずないはずだ。」
セージははっとして腰を落ち着かせる。
「そうか…そういや、そうだった……」
拠点となる街やいくつかのダンジョンには『転移魔法陣』が設置してあり、各クエストをクリアして使用条件を解放する事で魔法陣のある場所を往復する事が出来る様になるのだ。
三丁目メンバーの目的が生産用素材だとするなら、まず近辺に魔法陣の設置された場所で活動している事だろう。魔法陣経由で安全に街中に戻って来れる。
「待てよ、それじゃあファルコンアローの街の封鎖って意味ないんじゃないか?」
「いや、ヒカリは初心者だろ?日も浅いし、使える魔法陣はせいぜい薬草高原位だと踏んで、あっちにも人を割いてるんじゃないか?」
『タクティス・アドヴァンテージ』初心者の立ち寄る場所はセオリーに沿うなら街の地下下水道、近辺のフィールド、薬草高原、水晶の洞窟といった所である。
青龍はふぁるみーの方をちらりと見ると
「とにかく……ここからの話は新設したギルド倉庫でにしましょうや。」
と、セージを促した。
「えっ……なんだよそれ、ちょっと待てよ!!」
テーブルに片肘を付いてセージ達を伺っていたふぁるみーがなぜか慌てだす。
「中途半端に話聞かされてハイ、サヨナラってのはねーだろ?!気になっちまってしょうがねーよ!!俺も話に混ぜろ!!」
「はあ?」
地団駄を踏み出したふぁるみーに三人はあきれ返る。
「悪いが仲間の身の安全がかかっているんだ。ここからの話は聞かせられない。」
「ああ?! 俺がファルコンアローに告げ口でもするって言うのか?!」
「いや、そこまでは言わないが……」
ふぁるみーはテーブルに拳を打ち付けて立ち上がるとドスの効いた声で喚きだした。
「そうまで言うなら証拠を見せてやろーじゃねえかっ!!今から連中のボスんとこまで行って「テメエの○○○に××××で△△△△」って啖呵切ってやっからキリキリついて来いや!!」
セージ達はふぁるみーの突拍子の無い発言にぶったまげた。
(何だコイツ?! ノリと勢いで生きてくタイプか?! やっかいなモンに声をかけてしまった……)
「と、とにかく話はまた今度! 早まるなよ!! それじゃあなっ!!」
厄介事になる前にと未だ何やら喚くふぁるみーを尻目にセージ達は速攻でその場を後にした。




