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言っても私、姫ですから

作者: 川本千根

「そんなこと言わないで一緒に皿を洗って下さいよ」


「この皿を時間までに洗い終わらなきゃ私達、無銭飲食で番所に突き出されてしまうんですよ?」


「身分を剥奪されて国を追い出された今となってはあなたは姫ではなくただの無銭飲食者」


「なんでお財布まで落としちゃうんですかっ、これからどうやって生きてくんです?」



「あ〜あと十枚!間に合うかっ」


「ふぅ〜間に合った」




「ご苦労さん、よく間に合ったねぇ」


「まあ、あんたの頑張りに免じて無銭飲食を許してやろう」

と飯屋の親父はにやにやしながら俺に言った


「しかし、あんたも大変だねえ」


「連れてるの、ジュス国のりんご姫だろう?わがままで有名な」


「ところでなんでジュス国追い出されちゃったの?」



「…話すと長くなりますよ」


「今晩泊めてくれるならお話します」


飯屋の主人は一瞬考えたけど


「じゃ、いいや」

とこぎっさり言った


「ふぅ〜ですよね~」


「タダで話しますよ、私も愚痴りたいから…」


そう言ってりんご姫のお世話係は語りだした  





挑戦七年目にやっと私は公務員採用試験に受かったんですよ


嬉しかったな…あの時は


お城で働けるってことはその先のお給料が保証されるってことですからね


その安定した生活を売りにお見合いもできるわけですから


しかし私が配属された先はりんご姫のお世話局


前任の人が公務員の身分捨てて辞めちゃったんで私が一人でりんご姫の面倒を見るはめになったんですよ


超ブラックと言われているりんご姫のお世話係

ホントがっかりしました


こりゃ上級試験を受けてスキルアップするしかないと私の心は燃えました


わがままなお姫様でもせめて美しかったりすると男子としては仕えていて楽しかったりするんですけど、姫超十人並みでしょ?


「ちょっとっ、姫、ギャーギャーいわないでくださいよっ、ブスッて言わないだけでもありがたく思って下さい」


そんでもって、せめて若い女の子だったりするとまだ気持ちが華やぐんですけど、姫アラサーでしょ?ほうれい線が目立ち始めた


「あー、だから黙ってて下さい」

「29才がアラサーじゃなかったら何才がアラサーなんですかっ」

「姫はねっ、アラサーなのっ、ザ.アラサー」

「あっ、ヒロインが29才って聞いて、何人かの中高生がログアウトしていきましたよ」


話しこれからなのに…


ジュス国には王子が生まれず姫が二人だけっていうのは知ってますよね


三年前りんご姫の姉のみんと姫がパン国からお婿さんを迎え入れたことも


んでもって、去年そのお婿さんのショウロン様が王のあとをお継ぎになったじゃないですか


この方はびっくりするとしゃっくりが止まらなくなるという持病をお持ちなんですよ


そう、普通逆ですよね


でも、それは命に関わるお病気なんです


だから私達城のものはショウロン様が驚かないようにあまり大きな音をたてずに過ごしてきたんですよ


ところがりんご姫が先日爆発事件を起こしたんです…


りんご姫はお部屋のお片付けができない体質なんです

もちろん姫ですから召使に掃除させればいいんです

でも姫は部屋に人を入れたがらないんですよ


なんか見られちゃ困るものでも溜め込んでたんでしょうね


チラッと私も部屋を覗いたことがあるんですけどゴミと同人誌がうず高く積まれていて足の踏み場もありませんでしたよ


…私、不思議なんですけどそんな部屋に暮らしていながらなぜか、りんご姫はゴキブリを怖がるんですよ

見かけるとパニックになっちゃって


なんかゴキブリ1000匹引き連れて夜中に徘徊してそうなんですけどねぇ


あ、話がそれました


その姫の部屋のペットボトルが爆発したんです


飲み残したウーロン茶が長期間放置されて発酵し、中にガスが溜まってたんでしょうね、それがパンッと


一本だけじゃないですよ

連鎖反応で何本か続けて爆発してすごい音だったらしいです


私、その時は仕事を終えて家に帰ってました


悪いことに姫の部屋の上がショウロン様のお部屋だったんですよ


もうショウロンさまがその音に驚いて、しゃっくりが止まらなくなってしまって…

寝付いてしまったんです

きっと今もしゃっくりをしていることでしょう


もともとりんご姫と仲の悪いみんと姫が怒って怒って


ショウロン様暗殺未遂と、国家転覆予備罪という罪名をつけられて姫、身分を剥奪されて国外追放になってしまったんです


私も監督不行届の罪で一緒に


うっうっ、ひどいですよね、事故なのに


え?りんご姫のご両親ですか

ショウロン様に王位を譲って今隠居旅行の最中なんですよ

クリーンエリザベス号での世界一周


三ヶ月と十一日一緒にいた私が保証します

姫はね悪巧みができるような人間ではないんですよ


ただ、だらしなくて気が利かなくて思いやりがないだけ


だから就業時間終わり間際にコンビニに肉まん買ってこいって私に命令するのも意地悪なんかじゃないんです多分


あー今頼んだら就業時間過ぎちゃうなー、かと言って一時間の残業がつくほどのオーバーじゃないからタダ働きさせちゃうなーっ、なんか悪いよねっていう気遣いがないだけで


ん、まあしょうがないですよね

人は夕暮れ時に無性に肉まん食べたくなることがありますから


「あっ、ちょっと姫、人差し指はダメだっていつも言ってるでしょ!小指、小指で」

「いや、その前に人前で鼻はほじっちゃダメ!」

「きゃあ、それを私の服で拭くのもやめて」

「そういう妹キャラみたいな行動が許されるのは15才までですよ、個人的見解ですけど」


「なに暢気に笑ってるんですか」

「いや、泣かれるのも困りますよ」

「泣きたいのはこっち」

「月末には風車小屋のおばさんの紹介で隣村の女の子と会うことになっていたのに〜」

「うおお〜ん」




飯屋の主人はうひゃひゃと笑ったあとこう話を持ちかけた


「あんた、弁が立つねえ」


「うち、夜は酒場になるんだよ、どうだい、今の漫談を客の前で披露してくんないかな」


「報酬として寝床と食事くらいは用意してやってもいいぜ」


やった!!トン国で就職先ゲット

ああ、これで姫にご飯を食べさせられる〜




酒場での興行は大当たりだった

漫談を聞きたいという客で飯屋は連日大盛況

ディアギレルという一流の興行主からもスカウトされた


けれど13日目にジュス国から迎えが来た

これ以上ジュス国の恥を晒すなと


私はこの国で芸人としてやっていくか、ジュス国に戻って公務員続けるか迷ったんだけど…

やはり安定が大事、姫と共に戻ることにした








「なあ、親父さん、あの兄ちゃんどうしてるかねぇ」

「前にここで漫談やってた面白い兄ちゃん」



「ああ、今日手紙が来たよ」

「読むかい?」



「どれどれ」




飯屋のご主人様


拝啓


寒さがひとしお身にしみる季節となりましたがご主人様は変わりなくお過ごしでしょうか


その節は大変お世話になりました


困っている私に職を与えてくださったご厚情、心から感謝いたしております


おかげ様で私と姫はジュス国に戻り、今まで通りの暮らしをいたしております


姫のご両親もお戻りになり、私はトン国で姫の面倒を見た功績が認められてお給金がちょっぴり上がりました


元が安いんで大したことはないんですけど…


お見合いにも無事間に合いました

かわいい娘さんでした

皆はそうでもないと言いましたが


ほら、私姫と一緒にいるもんだからハードル下がっちゃって大抵の女の子がかわいく見えてしまうんですよ


向こうから断られましたが…


今、遅まきながら姫の花婿選びが行われています

お婿さんに押し付けちゃおうって腹ですね


恐ろしいことに私も候補に入ってます


万が一選ばれてしまった時は死を選びます

もし死にきれなかった時はトン国に逃げ込みます


その時はどうぞ、どうぞ再び私をお雇い下さいますように

心からお願い申し上げます


また私におひねりを下さったお客様方にもよろしくお伝え下さい


寒い日が続きますがくれぐれもお身体に気をつけてお過ごし下さい


ご主人様のご健康と飯屋様の益々のご発展を心からお祈りいたしております


敬具





追伸


ほんとにほんとによろしくお願いいたします















おまけ漫画


どっちもどっち

挿絵(By みてみん)


やめてくれる?

挿絵(By みてみん)


スタババ

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


確信犯

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


だれ?

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


この人の素性は『返品不可姫』で


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 死にますって所が笑えた。 嫌われすぎだろ。
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