同類商店街
最近、この土地に引っ越してきたばかりの彼の名は、栗屋といった。くりや、と読むのではなく、りつや、と読むのだが、皮肉にも彼の家は栗屋さんだった。(この場合はくりや、と読む。)
「今時栗だけ売ってる店なんてはやんねーんだよ」そう言い捨てて家を飛び出して引っ越してきたのが、この村対村であった。山が近くにあって空気はおいしい、川は澄んでいて底まで見える、おまけに周りは農園ばかりのこの村は、いわばド田舎とでもいった所か。コンビニは家から歩いて三十分程度の場所で、よって彼の暇潰しとなる場所と言えば家から歩いて十分の「同類商店街」だけだった。
何が同類なのか。いくら考えても分からない疑問に、幾度となく首を捻ったが、いくら考えても分からない疑問はいくら考えても分からないのであった。
今日も栗屋は、同類商店街を散策する。田舎の商店街にしてはなかなかに広いそこは、散策三日目の今日で全てを回りきる予定になっていた。
午後だからか、人は結構集まっていてそれなりに賑やかだった。右に左に、色んな店が所狭しと並んでいた。肉屋、八百屋、本屋、ケーキ屋、コロッケ屋、リサイクルショップ、薬局、魚屋、駄菓子屋、パン屋、といった具合に。(不思議なことに、同じようなものを取り扱っている店は一つもなかった。店に同類は関係なさそうだ。)
コロッケ屋でおばちゃんがサービスしてくれたかぼちゃコロッケをはふはふと食べながら、隣に店の並ばないところが見えてきた。商店街の終わり、ということだろう。入ってきたところと同じように、看板には「同類商店街」と味のある字で大きく書いてあった。栗屋が妙な達成感とともにその看板を見ていると、同じように看板を見ている青年がいることに気付いた。
栗屋は、見た感じなかなかの好青年だった彼に、何故か突然、話しかけなくてはならない衝動にかられた。話しかけてみよう、ではなく、話しかけなくてはならなかった。
「やあ、君、そこで何をしているんだ?」
「迷子の案内人」
青年は、急に話しかけられたことに驚きもせず、淡々とした口調でそう言った。なるほど、こんなに広い商店街では迷子の一人や二人出るんだろうな。栗屋は納得し、手に持っていたコロッケの入った袋を差し出した。青年は何も言わずに中のコロッケを取って一口食べた。
それからは、他愛のない話をした。いつ頃からここに住んでるんだとか、あの山には珍しい木の実がたくさんなっているとか、あそこのパン屋はカレーパンが一番おいしいとか。
青年は栗屋の投げかけてくる質問にだけ最小限の文字で答え、あとはたまに相槌をうつだけだったが、栗屋はそれだけで良かった。
やがて、音楽が流れた。商店街が閉まる合図だ。栗屋はもうこんな時間か、とつけていた腕時計を見ると、大量にコロッケの入っている袋を持って立ち上がった。青年はまだ座っていた。
「長い時間付き合わせちゃって悪かったな、君、名前は?」
青年はゆっくりと栗屋を見上げると、栗屋が聞いた中で今日一番長い言葉を発した。
「鍛冶。家は今時はやんない刀鍛冶屋」
「そうか、また会えたら会おう」
栗屋は少し笑みを残して、その場を去っていった。元来た道をゆっくりと歩いて家路につこうとしたその足で、不動屋さんに寄る事にした。あと、おふくろにも電話しとこう。引っ越しまでして早三日。栗屋の家出は幕を閉じた。




