君を求めて
僕はこの世で、誰よりも君のことを知っている。自惚れなんかじゃない。
君の名前は仁美、誕生日は十一月三日、血液型はB。好きな動物は猫。他にも君がいつ、どこで、何をして、何を思ったか、僕の記憶に深く刻まれている。
例えば三月二十六日の仁美『天気が良いのに雪降っててさ、しかも風も少しあるとさ、なんか雪元気だなって思う。なんか雪同士がきゃっきゃうふふしてるみたいで、微笑ましい。』
仁美は、そういった妄想をよく日記に書く妄想家で、でもそんな能天気な子かと思うと、例えば三月二十九日の仁美『今日のバイトボロボロだった……。自己嫌悪で泣きたい。』と、失敗を引きずっていつまでも落ち込んでいるときも多かった。
そういう悲しい言葉が、バイト帰りの深夜に呟くように綴られていく。
そしてたまに、君がくれる透明な雫すらも僕は記憶に残していった。君から与えられるものはなんでも記憶に残しておきたいから。
例えば五月三日の仁美『懐かしい人がフル出演してる夢を見た。中学の友達と部活の先輩たち。着物姿で久しぶりに会ってほっこりした。今どうしてるのかなー。』
ページには様々な仁美が詰まっている。
ああ、仁美。僕の仁美。僕だけの仁美。仁美は、僕にだけ弱い所も見せてくれる。それだけじゃない。彼女は、何で落ち込んだか、何が嬉しかったか、何に感動したか、何に怒ったか、全部包み隠さず僕に教えてくれる。僕にとってそれがどんなに幸せだったことか。
なのに、どうして?
僕は、仁美が何を考えているのか分からなくなってしまった。僕は、仁美の一番の理解者なのに、そのはずなのに。
仁美が僕に語りかけてく頻度が、一日おき、三日おき、それから一週間、一ヵ月、一年……。
僕は待ち疲れたよ、仁美。僕に触れてくる埃は、仁美が僕に与えたものじゃないから、君のことを語ってはくれないんだ。ねえ、仁美。僕は「仁美の日記帳」なんだよね? それならもっと僕に語って、僕の頁はまだまだ余っているんだからさ。仁美、僕はね、過去の仁美だけでなく今の仁美も知りたいんだ。僕の全ては君だけなんだよ、仁美。




