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「ねえ知ってる?学校の裏山には、もう何百年も生きてる魔女が住んでるんだって。」
クラスメイトのイケダさんがそんな事を言い出したのは、今日の給食の時間の時だった。
「ええ、なにそれ?」
僕がちょうど揚げパンをかじっていたもんだから、隣のスギヤマがからかうように返すと、イケダさんは得意気に声を潜めて話し始めた。
「ほら、学校の裏に山があるでしょ?あそこ、昔から立ち入り禁止なんだけど、そこをずっと登って行くと大きな桜の木があるんだって。でね、そこを目印に、左にそれてずっと行くと、大きな池があって、そのほとりにある小さな赤い屋根の家にずっと昔から生きてる魔女が住んでるんだって!」
得意げに言い切るイケダさんを前に、うちの三班のメンバーの大概が、すごい、とか、ほんとう?とか、何らかの反応を返していたけれど、僕はどうにも信じる気にはなれなくて牛乳をすすった。
「それって、だれから聞いたのさ。」
イケダさんはクリームシチューのなかのニンジンをころころとスプーンで弄っている。
「となりのクラスのサイトウくんよ。」
「サイトウくんて……あの、適当なサイトウ?」
「そうそう。あ、でもサイトウくんはタグチくんにきいたって。」
「へえ……そうなんだ。」
所詮ウワサだった。
女の子に限らず、僕たち第四小学校の六年生の間では今、怖い話が流行っていた。自分の話す怖い話が、怖ければ怖いほどステータスとされていたのだ。中には学校の怪談なんていう本を買う子まで出てきた始末。
皆が喋ることといえば、
音楽室のベートーベンのこと。
美術室の像のこと。
理科室の人体模型のこと。
三階のトイレの花子さんのこと。
そんな話ばかりだ。
イケダさんは僕がそれきりだんまりを決め込んだのをみて、つまんないなあと小声でもらした。
「……でもね、その魔女はやっぱり魔女だから、魔法が使えるらしいの。」
「魔法……って?」
怖い話からは逸脱していることに驚いて、勢いで返事をしてしまったが、イケダさんには僕がやっと興味をもったように見えたのだろう。その問いに、そう!と身を乗り出してこたえた。
「魔法!魔女は一生に一度だけ私達のどんなお願いも叶えてくれるんだって!」
彼女は一息に言うと、すごいでしょ?と付け加えて僕たちの顔を見回した。そのあとは、ヤマシタさんとイケダさんが女子らしくどんな願いを叶えてもらいたいかの話題に移り、そのまま5時間目の算数について、明日の国語の宿題についてに変わった。まるで魔女の話なんて無かったみたいだ。
すごいや。本当に、叶うのならね。
と僕が頭中で付け足して相槌を打ったことを知らないイケダさんの、満足そうに笑った顔が今でも頭を離れないでいる。