再びベッドの中でふたり
ヨイコハミテハイケマセン
温泉に入ったからか、ベッドに入る時間になってもいつものように凍えるほどの寒さは感じない。温泉てすごいんだなあと思いながら向い合って毛布に丸まる。
明りとりの窓からはうっすらと星空が見える。
「明日も天気いいですかね」
「良かったらいいな」
「馬車でますかね」
「どうかな」
「でなかったらまた温泉に入れますね」
「うん、入れるな」
「シオン様、今日は手が寒いとは言わないんですか」
「う、ああ、別に今日は大丈夫だ」
昨日まであんなに毎日毎日太股にはさめはさめと言っていたのにいったいどういう心境の変化なのか。
不審に思いじっとすぐそばにあるシオンの顔を見上げるとなぜか視線をそらそうとするシオン。
「そんな上目遣いで僕を見るな」
「なんでですか」
「……別に」
先程からシオンの様子がおかしい。
やはり手を挟んで欲しいのだろうか。
「いいですよ?挟んでも」
「いや、だから、いい」
「…………」
いつもならくっついてくるのに今日はなんだか距離がある様な気がする。そのわずかな隙間を埋めるようにわたしは位置を変えてシオンとの距離を縮める。と、ゴソゴソ動きながら距離をおこうとする。
「?」
気のせいかと思って少し近づいてみるとまた遠ざかる。
「…………」
「…………」
う……。
わたしはベッドから抜け出すと部屋の隅でうずくまる。
「……チルリット?トイレか?」
「違います」
「なんでそんなとこにうずくまっているんだ」
「シオン様が」
「僕が?」
「わたしと寝たくなさそうだからです」
「…………」
わたしの言葉にシオンは何も返さない。
そうか、やっぱりわたしと寝たくなかったのかと納得した途端に目から涙がこぼれた。
「い、いや、寝たくないわけじゃない」
「別にそんな言い訳しなくてもいいです」
いつも不安だった。いつかシオンがもっとお似合いの女の人と出会ってしまったらわたしなんかいらなくなってしまうだろうと。それが今だということなのだ。
「言い訳とかじゃなくて……寒いから寝よう」
「今日はわたし、ここで寝ますから」
「ここって、床だが?」
「はい」
温泉に入っているときは楽しかった。あれが最後の思い出になるとは思いもしなかったけれど。
それにしてもふたりでいろんな所へ行こうとか思わせぶりなことを言っておいて……。こんなに早くに心変わりをするなんて一体どういうことなのかとつい恨みがましい気持ちになってしまう。
シオンはうずくまった状態のわたしを見下ろし小さく息をつくと優しく抱き上げる。
「……離してください」
言葉とは裏腹にシオンの腕の中が心地よくてこわばっていた身体も表情も緩んでいく。
「僕はお前と寝たい」
ベッドに下ろしわたしに覆いかぶさるような形でついばむようなキスをする。瞼に、頬に、耳朶に、唇に。くすぐったいような感触に小さな笑みが漏れる。
するするとシオンの手が滑るようにわたしの衣服のボタンをはずしていく。
相変わらず手慣れた……んん?え?あれ?
シオンの唇がどんどん下のほうへ。首筋に舌を這わせ、鎖骨を舐めあげ。
「え、あ、あの、シオン、さま」
身体をよじってシオンの唇から逃れようとするわたしの衣服の隙間から手を這わせ素肌を撫で上げる。
「や、あ、じ、直に胸を、触らない、で、くださ、い……」
「だってお前石鹸のいい匂いするし」
石鹸て、それは温泉に入ったからであって。え?石鹸のいい匂いがするからなんで???
シオンのひんやりした掌が素肌の上を滑る。そのゆっくりとした動きに思わず息が洩れる。
「シ、シオ、ン、さ……」
「ん」
舌と舌が絡み合い唾液が音を立てる。
頭の中がぼんやりとしてきた。
首に吸いついてくるシオンの髪に指をからめる。
すでにほとんどボタンをはずされて半分あらわになったわたしの胸元にシオンの熱い吐息がかかる。
「は……」
シオンの唇がわたしの肌に触れるか触れないところで大きくのけぞって。
がん!
ベッドのヘリに頭を思い切り打ち付けた。
「…………」
「だ、大丈夫か?ものすごい大きな音がしたが」
あまりの痛みに声も出ないわたし。
頭を押さえて丸まっているわたしに毛布をかけシオンは部屋を出ていく。しばらくしてから冷たいタオルを持って戻ってきたシオンはそれをわたしのぶつけた部分に当てて冷やしてくれる。
「すみません」
「大丈夫か。血は出てないようだが」
頭が割れたかのような痛みだったがどうやら大きなこぶ程度で済みそうだ。というかあの状態で流血沙汰なんて恥ずかしすぎる。
まだ頭がくらくらしているのでタオルを当てたまま横になっているわたしをシオンは静かに見下ろし。
「おっぱい見えてる」
「……っ」
慌てて飛び起きようとして眩暈に襲われ枕に顔をうずめる。
おっぱいって、シオンがボタンをはずしたんではないかと今さらながらに羞恥で顔が赤くなる。
「何もしない。寝ていろ」
シオンはわたしの隣に横になりタオルを当て直してくれる。
「……シオン様も、石鹸の香りがしますよ」
「うん」
タオルのせいで半分以上視界が遮られているが、シオンがわたしの髪に顔を押し付けて来たのが感触で分かるのでそちらのほうに顔を向ける。
「痛くはないか」
「大分治まってきました」
わたしを覗き込むシオンの瞳が不安そうに揺れているので笑ってみせる。
「大丈夫ですよ。わたし昔村にいたころ石を投げられたことがあってそれが頭に当たって結構血が出たことがあったんですがそれでも大丈夫でしたし」
「……それは、笑えない」
髪を優しく撫でられてその心地よさに目を閉じる。
疲れていたからか頭を強打したからかわたしは吸い込まれるように眠りについた。
セーフ!セーフ!……?