Ⅶ ランディア
まず、ファルナはアサンデル率いるパル二指揮下の数千騎の軽騎兵をローマ軍の元に送り、攻撃を命じた。騎兵たちは弓がつきる寸前まで攻撃し、命令通り背後の敵に弓を射掛け撤退を始める。騎兵たちに追撃を加えようと企てるローマ軍の伸びた補給線に重騎兵が突撃した。
補給路を断たれたローマ軍は混乱まま後退を始める。混乱に乗じて、裏では包囲の準備が着々と進められていた。そこでファルナのとった策はパルティア国王軍の選り抜き、不死隊・アタナトイに歩兵小隊長だけを狙撃させることだ。その効はすぐに現れる。多くの百人隊長を死傷させられたローマ軍は、もはや組織的行動を取ることができなくなっていた。
後退したローマ軍はランディアの砦で、パルティア軍に包囲されていた。常ならば、接近しない騎兵が堡塁や壕までに容赦ない攻撃を加えて来る。兵糧はすでに尽きかけていた。飢えと寒さ、雨のようにひきりなしに降り注ぐ矢。辛うじて楕円楯で防ぐものの、活路さえ見い出せずにぺトゥス軍団兵は疲弊、消耗していた。
援軍の到着で更に数を増し、パルティア軍は東の空が白みかけると同時に、弓だけではなく槍まで使いより容赦なく激しく攻め立てて来た。
楯に突き刺さる投槍はより厄介だ。その楯本来の重みに槍の重みが加わり、バランスを崩し楯を構えることができなくなる。防御の術を失い、じわじわと削るごとく軍団兵の命は失われて行った。
日が没し夜になると包囲するパルティア兵の灯す無数の松明が明々と燃え、刺すように冷たい夜気に軍太鼓の音と鬨の声が轟く。
それは恐ろしい光景だった。白い息を吐く軍馬にまたがるパルティア兵の姿が明かりに照らされて幽鬼のごとく浮かび上がり、獲物の力尽きるのを待ち、遠吠えを上げる狼さながらに見えた。
軍団兵たちは、敵軍の指揮の変化を体感していた。攻撃の仕方だけではない。敵の指揮官はローマ軍に夜すら休む間を与えず、心理的にも痛め付け、更なる極限状態に陥れるつもりなのだ。
ローマ軍、指揮官の天幕内。
まるで地獄のような夜を迎え、ぺトゥスはまんじりともできずにいた。
ほぼ無傷のパルティア軍に対し、彼は敗走の際に少なくない人数の百人隊長を失い、陣立てを整えることさえままならなくなった。
パルティア国王率いる大軍が近づいていると知り、いかに事態が緊迫しているか訴えるため、慌ててシリア総督のもとに送った軍団副官はいまだ帰還しない。彼は精神的に追い詰められていた。
アディアバネは陥落寸前だった。色よい報告を持たせた使いは、ローマに到着した頃だろうか。
こんな事態に陥っているとは、ローマ皇帝ネロも想像すらしていないだろう。
想像どころか、勝利の報告を心待ちにしているに違いない。そんな皇帝ネロのことを思うと立腹はいかばかりかと、若き将軍はそれだけで身がすくむ思いだった。
ローマの擁立したティグラネスがパルティア従属王国であるアディアバネに侵攻。自ら率いる軍団スキュティカが、パルティア国王軍を迎え討つ手筈であった。
アディアバネ当主モノバズスからローマへの降伏の意を仄めかす書簡が送られて来た直後。
パルティア貴族率いる、モナエセス軍が現れアディアバネ軍は勢いを取り戻した。
ぺトゥスはアルメニアの現首都、ティグラノケルタに退却したティグラネス救援のため、第12軍団を送った。しかし虚しくもティグラノケルタは陥落。
そして、自らはパルティア国王軍に追われ冬営地、ランディアの砦に退却した。
こんなはずではなかった。
何がいけなかったのだ。
軍団を分けなければ、あるいは結果は違っていたのか。
パルティア、いやヴォロガセスを甘く見すぎていたせいか。
山岳民族の侵攻、カスピ海東岸からの異民族の侵入、南東に位置するヒルカニアの独立、そして実子の反乱。
混乱に乗じたパルティア内への侵攻は、容易いことだと彼は高をくくっていたのだ。
しかし、国家が衰退しかねない危機を抱えながら、パルティアは圧倒的な力でアルメニア、そして自軍をねじ伏せた。
その時、パルティア兵のたてる軍太鼓の音が一際高く聞こえ、ぺトゥスは両目をきつく閉じ、軋むほど奥歯を噛み絞め握り拳で耳を塞いだ。
外界から遮断された音のない暗闇で、死神の囁きが聞こえてくる気がした。
ローマ皇帝ネロは、先帝クラウディウスがそうだったように、コルブロの才覚を畏れ、疎んじていると言う噂があった。さらに軍団兵に広く人望のあるコルブロが、禍いの種になる可能性を危惧していると。
アディアバネ攻略の概要を伝えた書簡に、コルブロからの返書は短く冷ややかなものだった。
それを彼は、皇帝よりパルティア侵攻の任務を許された自分に対する妬みと解釈していた。
重用された優越感、いまだローマにおいてまだ誰もなし遂げたことのない、パルティアへの勝利を前に彼は浮き足だっていた。コルブロは勝利したと言えど、略奪もパルティア人の殺傷もしていないではないか、俺があの蛮族どもの命を奪い、わが帝国の支配のもとに法を課してやると豪語すらした。
それが今はどうだ、コルブロの到着に僅かな望みを託している。
ここで彼の頭の中に一つの疑問が生じる。
本当に友軍は来るのか?
コルブロは最初からアディアバネ侵攻に乗り気ではなかったのだ。
味方にも敵にも厳格なあの男のこと、自分の失敗は身をもって償えと言いかねない。
ついでぺトゥスの脳裏をよぎる古き戦の結末。
カルラエでパルティアに追い詰められたクラッススはどうなった。急激に室温が下がったような気がして、ぺトゥスは身を震わせる。
彼の想像下で、己の腹心の手にかかりパルティア軍の砦にさらされたクラッススの首が、自分のものにすり変わった時、ぺトゥスは生理的な涙を目尻にため、頬の皮膚をかきむしった。
塞ぐものの離れた耳に飛び込んで来る、パルティア兵の閧の声。爪で傷つく左頬にじわりと血が滲む。
「う、るさいっ…」
ぺトゥスは卓上にあるもの全てを払い落とし、卓を踏み倒した。ガラスの水差しが落ち、硬質の音をたてて割れ破片が砕け散る。
「だまれ、黙れっ!!」
さらに彼は床に置いたアンフォラを踵で蹴った。
注ぎ口と取っ手の壊れた、長細く高さのある素焼きのアンフォラからさながら血の色のような鮮紅の酒が溢れ、床に流れをつくり天幕内に葡萄酒の匂いが広がる。
「将軍、いかが致しましたか!!」
数名の衛兵が慌ただしく天幕に飛び込んで来て、その中の一人が彼に訊ねた。
ぺトゥスは呼吸も荒く肩を上下させ、隈に縁取られた焦点の合わない目で衛兵を振り返る。
「いや、何でもない。戻れ」
もはや彼には、自分の配下の者さえ信じられなかった。
2日目の夜明け、配下のものたちに諭されたぺトゥスが、パルティア国王のもとに使者を送り、ローマ軍は武器を捨て降服の旗を掲げた。
これでローマは対パルティア戦において、カルラエ以来の大敗を喫したことになる。
遡ること紀元前55年、シリア属州総督に任命された(ポンペイウス、カエサルらとの三頭政治で知られる)マルクス・リキニウス・クラッススは、紀元前54年メソポタミアを侵略し総督シラケスを破ると、町々を征服してシリアに帰還した。
それに対し紀元前53年春、パルティア王、オロデスはクラッススにむけ、次のように手紙をしたためている。
「我々パルティアは、この戦いがローマ人の承諾なしに行われていると聞いている。もしそうであるならば、我々は慈悲を示しクラッススが老齢であることを考慮する。しかしもしもこの攻撃がローマ人の承諾のもとにあるのならば、休戦や和議のない戦いになるであろう」
クラッススの決断は開戦であった。彼はパルティアのもつ富を求めていたのだ。
偽の情報をつかまされ、まんまと砂漠におびき出されたクラッススは、パルティアの英雄、スーレーン氏族のスレナスとカルラエで対峙する。
クラッスス率いるローマ軍は、歩兵3万4千、騎兵4千そしてほぼ同数の軽装備兵。対しスレナス率いるのは騎兵1万と 1千の駱駝。
圧倒的戦力差で始まった戦は、初日でほぼ決着がつき、2日目にはローマ兵の大半が戦死。2万を越すローマ兵が犠牲になり1万は捕虜となった。
最終的に生きて帰還できたローマ兵は、ほんの一握りだったと言われている。
生還した兵士たちは口にした。
パルティア軍の軍旗は朝陽に光輝いていたと。
それがローマ人の見た初めての『絹』だった。それ以後、光輝く布の噂はローマ市民の間でまたたくまに広がった。
抜けるように青い晩秋の寒空の下、朝陽を反射し光輝く明星の軍旗。投降した軍団兵たちは、カルラエでの敗戦の再現を見てるようだった。
しかし、後にぺトゥス将軍がパルティアの女指揮官の前にひざまづいた事実は広まらなかった。
ただでさえ不名誉な敗戦のすえ、ローマ軍が女の前に屈したなど、とても認められなかった。
だが軍団兵の誰もが口をつぐんだその裏で、噂は野営随行者や使用奴隷の間で秘かに語られる。
パルティアにはヒルカニアの虎のような女指揮官がいたと。
完全武装の騎兵たちに囲まれ、ぺトゥスはパルティア指揮官の前へと引き立てられた。
首、肩、腹を鎖帷子で護られる青毛の軍馬の上、矢籠、弓、槍をたずさえた重装の騎兵。
それが最終的に自軍を追い込んだ指揮官らしいということは、何も知らされずともぺトゥス将軍と補佐官にも判った。
パルティアの指揮官は馬上から、ぺトゥスと彼の補佐官を見下ろし冑を脱ぐ。
降り注ぐ陽光を受け白銀に輝く帷子に、髪の金色が映えて見える。そのかんばせは紛れもなく女の顔で、しかも空と同色の目をしていた。
これには捕虜に身を堕としたローマの将軍も、配下の者も言葉を失う。
なぜこの地に、西域の特徴を備えた女が指揮官として存在するのか。
確かにローマの貴婦人の中には、ゲルマン人娘から刈り取った、金髪のかつらをつける者もいた。だがこの女指揮官は青い目をしている。
指揮官ともなれば、有力な貴族の出だろうことは想像できた。
ではなぜゲルマン人の娘がこれほどの地位にいるのか。この場に及び大きな謎を問うほど愚かではなかったが、彼らは言葉を失い立ちつくす。
パルティアの護衛兵が数人がかりで直立不動のままにその場へ立つローマ人たちを、無理矢理にひざまづかせ、槍の柄で顔を上げさせた。
「お前がぺトゥス将軍か」
司令官の軍装を剥がされ、チュニカのみを着たぺトゥスに女指揮官が高圧的な声音でたずねる。
「はい」
年若い女の前にひざまづかされた屈辱に、ぺトゥスの内心は煮え湯のようだった。それでも彼は堅く握る拳の内に爪を立てて激する感情を抑えていた。
そのぺトゥスの胸中を見透かすかのごとく、女指揮官は唇の端を上げ冷ややかな笑いを浮かべる。美しい娘だった。その美貌ゆえ、人間らしい温かさの感じさせない表情と声が、娘に鋭利な雰囲気を与えていた。
「私はこの件を一任されている。私の言葉はそのままパルティア諸王の王、ヴォロガセス陛下の言葉だと思え。ローマ軍をアルメニアから全て撤退させると約束すれば、お前たちを解放してやる」
「捕虜とせずに、解放すると?」
どのような措置が待っているのかと、ローマへの帰還を半ば諦めていたぺトゥスには我が耳を疑う言葉だった。
「お前たちごとき捕虜にした所で何の得になる、処刑するとて労力の無駄。まあせいぜい陛下のご寛大な御心に感謝し、さっさとアルメニアから出て行け。そしてローマ皇帝に伝えろ。我々パルティアはアルメニアさえ、手に入ればローマ領を脅かす気はない。王弟ティリダテス陛下は、ローマ皇帝ネロよりの贈り物としてアルメニア王の戴冠を受ける心づもりがある。しかし王弟陛下は神官の身、戒律により海を渡ることは禁じられている。陸路を行こうにも膨大な時間がかかろう。が、アルメニアにおいて皇帝の代理をたて戴冠の儀を行うのであれば、なんら問題はないと」
選択の余地はなかった。ぺトゥスはすべてを甘んじて受け入れ、首を縦に振るしかないのだ。
勝者と敗者、両指揮官の短く一方的な会談は終わりぺトゥスが騎兵たちに連れられ、その場を去ろうとした時だ。
「ああ、そうだ。かの有名なローマ人の土木技術をこの目で見てみたいと思っていたのだ。ひとつ我々のため、アルサニアス川に橋でも架けて貰おうか」
彼が振り返ると、先程までの尊大で横柄な取り澄まし顔はどこへやら、目を輝かせ興味津々といった風情で新たな要求をつきつける女指揮官と目が合う。
「御意の、ままに…」
この要求にも拒否権などないのだと悟る彼は、安堵とも厄介事を背負い込んだともつかぬ表情で歯切れ悪く応えた。
数騎の護衛騎兵を引き連れ、後方に馬首を返すファルナのそばに、同じ人馬重装の騎兵が近づいて来る。重装騎兵は彼女の友、パルニ氏族のアサンデルだった。彼はファルナと馬を並べ、右方向を指差した。
「ファルナ、あれを見てみろ」
ファルナがそちらを見ると、パルティア兵でもローマ兵でもなく、大勢のアルメニア人の人だかりができていた。
貴族らしき姿も見受けられたが、非戦闘員が圧倒的に多い。彼らは皆、不安そうな表情でこちらを見ていた。
ファルナは顎に指をあて何事か考えていたが、思い至ったように視線をあげ、手綱をあやつりアルメニア人の方に馬を走らせた。
アルメニア人貴族の一人がおそるおそる口を開く。
「私の娘を返していただきたい。ここにいるアルメニア人はみな、ローマ兵に家族や家畜を連れて行かれた者、略奪を受けた者たちです」
「アサンデル、堡塁を残らず調べさせて」
「ああ」
アサンデルはうなづき配下の軽騎兵たちの方へ馬を走らせ、何事か指示をし自らも砦の中に入って行った。
しばらくし、開け放たれた砦の門から一人、また一人と人影が現れる。若い男、女、子供、まばらな人影は次第に多くなり、百人、二百人ほどの人の群れとなった。
突然群衆が二手に分かれ、砦の奥から馬を走らせるアサンデルの姿が見えた。彼は、土けむりを上げて戻って来て、ファルナの目を見てうなずいた。ファルナもうなずき返すと、アサンデルはアルメニア人たちの方へ向き直る。
「身内の者がいたら連れて帰れ。家畜や物品は砦の中だ。持ち主がわかるなら、持ち帰っていい」
アルメニア人たちから高い歓声が上がる。彼らはそれぞれ口々に祝福の言葉や、感謝をつげ身内のもとや砦の中へと急ぎ走り去って行った。
「なあ、ファルナ。久しぶりにこれから一杯やるか?」
おどけた目をして、アサンデルが酒杯を傾けるふりをする。
「ええ、いいわね。今回はどっちの奢り?」
「そうだな、いつもので決めるか」
彼は腰のあたりに手をやると、どこから出したのか、金貨を一枚、人差し指と中指の間に挟みファルナの視線の高さにかかげ、にやりと口端をあげた。
「NERO CAESAR AVG IMP…皇帝ネロのアウレウス金貨ね、一体どこから持って来たんだか。私は裏に賭ける」
「じゃあ、俺は表」
二人の視線の先で、ローマ皇帝のレリーフと称号が刻印された金貨が宙を舞い、青い寒空に映えキラキラと煌めいた。
アルサニアス川上流に橋を築かされた後、解放されたペトゥス軍はほうほう体で逃げるようにシリアへ急いだ。解放の際、アルメニア人に服まで剥ぎとられ、その道筋には見捨てられた負傷者が点々と残されていたという。
やがて彼らはユーフラテスの河岸で北上するコルブロ軍と思いがけなくも出会った。
軍団兵たちが敗戦の不幸を嘆き互いに抱擁し合う中、コルブロとペトゥスの両将が顔をつき合わせる。コルブロは敗者に気を配り、一切の華々しい功績をしめす勲章をひとつも身に着けていなかった。
コルブロの前任地、ゲルマニアの北部は劣悪な自然環境だった。
海岸近くまで巨木が繁る、ぬかるんだ湿地、嵐のような雨、風。 ローマ人やギリシア人が蛮族と呼ぶ、ゲルマン人や土着の民たちは、確たる戦略もなしに陸からばかりか海からもローマ領を脅かして来た。
戦略を持たないからと言ってその地の防衛が容易いわけではない。海から陸から自在に攻めて来る彼らは、まさに予測不能の厄介な敵であった。
父はプラエトル(法務官)、先々代カリグラ帝妃カエソニアと血縁関係にあり、元老院階級の家の生まれであったコルブロは、33の歳でコンスル(執政官)に当選した。
その後、先帝クラウディウスにより低地ゲルマニア司令官に任命され、彼の指揮官としての才はそこで開花する。
騎兵を中心とする遊牧民族国家パルティアは、未開地の土着の民とは違う。
低地ゲルマニアでのそれとは対局にあるが、会戦を得意とするローマ軍には不得手な相手に違いはない。
勇敢であった古き時代の将軍たちも、彼らの前に破れ苦戦を強いられたのだ。所詮、この程度の規模の軍団では太刀打ちできる相手ではないのだ。コルブロにはペトゥスの作戦の破綻が見えていた。
「惨敗の末、橋まで架けさせられたとは情けない話だ。何としても持ちこたえろと伝令を返したはずだが、なぜ後3日待てなかった」
悔しげにペトゥスは顔を歪めて、低く呻く。
「伝令を捕らえられた、ヴォロガセスにしてやられたのだ」
コルブロはさもわざとらしく感嘆の息をつき、鼻で笑いを漏らした。
「伝令を? パルティア王もやってくれる」
「まだ遅くはない。今、取って返し自軍と貴軍が手を合わせれば、アルメニアは奪還できる」
ペトゥスは熱っぽく言った。そこには、せめて失ったアルメニアを取り戻せば、皇帝の怒りも減るだろうという思いがありありとうかがえる。
それに対しコルブロの表情は冷淡なものだった。
「儂は、友軍の危機を知ってここまで駆け付けた。我々はアンティオキアに引き返すべきだ。皇帝陛下の命がない限り、これ以上兵を動かすことはできん」
ペトゥスは何か言い返したそうにしていたが、やがて顔をうつむかせ渋々頭を縦に振った。