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―2―

 ふてぶてしい態度を改めない私を、ぺいっと放ったところで周りがざわついた。

 彼らが向けた視線と同じほうを見れば、何の警戒もなく、ふらりと入ってきただけに見える獣族……。もちろん


「何してんの? こんなところで、これ、何プレイ」

「プレイとかいっちゃ駄目だよ、ルカ」


 早いのか遅いのか。微妙なところだけれど、ルカの登場に胸を撫で下ろす。ブラックじゃなくて良かった。カナイじゃなくて良かった。こういうとき、きっとアルファよりカナイが物騒だ。好機とばかりに大きな術式を発動しそうだ。


 そんなことを考え胸を撫で下ろしている間に、ルカが悪漢たちを炊き付ける。

 適当に助けてくれれば良いのに……って、話の流れから魔術が使えないのか……ちょっときついのかな? 私はルカの実力をあまり知らない。

 見ることもないから。

 でも、ブラックが自分の代わりにと私の傍につけているんだから、弱いわけはない。そして、未熟であることも知ってる。


 はたと、気がついて私は口元を拭った。

 痛かったけれど、この際この人たちの身の安全の方が大切だろう。ぐりぐりと肩口に頬を寄せると、ずきりと痛む。声を殺したけれどルカには気がつかれてしまった。


 好戦的に揺れていた尻尾がぴんっと逆立つ。

 怒ってる。


 屋敷の窓ガラスが、割れキラキラと細かい破片が降ってくる。

 ルカの放出した力に恐怖した男は、私の胸倉を掴み上げて抱え込んだ。この人、とても怯えている。手にしている短剣が小刻みに震えている。

 やはり、こんな暴挙に出るまでには理由があったのだろう。


 視線の先にいるルカは、掛かってくる男たちを、容赦なく弾き飛ばしてしまう。年季の入った屋敷だからか、それとも魔力的な何かか……屋敷全体が微動しているように感じる。


 ルカが、暴走してる。止めなくちゃ。

 それにはこの腕が邪魔だと思って、がぶりと噛み付いた。


「いってぇ!!」


 男の低い悲鳴が聞こえたあとは、がつっ! と、頭に鈍い痛みが走り目の前が一瞬真っ暗になった。


 そんなに長い時間気を失っていたわけじゃないと思う。

 私は鈍い音が響くのに頭を上げた。

 こめかみが、ずきりと痛む。


 もじっと身体をねじって身体を持ち上げると、ルカが男に馬乗りになって執拗に殴りつけている。もう、相手はぴくりとも動かない。

 死んでしまっているのではないかと思い、一気に全身が冷えた。


 私は反射的に起き上がり勢いをつけてルカにタックルする。

 倒れたのはルカではなく私だったけど、それでもルカはその手を止めてくれた。


「やめなさい、って、いってるの! 聞こえないの? ルカ……ルカ!」


 ルカが私のせいで人を殺めてしまう。

 そう思ったら涙が止まらなかった。それをなんとか首を振って払うと、落ち着いてきたルカが軽口を叩いて縄を解いてくれる。

 手が自由になったところで、足首の縄を解こうと手を掛けたら、かなりキツイ。駄目だ。と、思って早々にルカに突きつける。

 ルカはぶつぶついいながらも、縄を解いてくれた。


 やっと自由になって、へらへらと笑ったら、まだ残っていた涙が頬を伝ってしまった。

 ルカがたどたどしく、拭ってくれるのがとてもくすぐったい。


「え」


 そして、そのまま唇の傷口を舐められて私は少し固くなった。


 無意識だったのだろう。

 根はとても優しい子だから……。


 はたと自分のしたことに気がついたのか、ルカは真っ赤になって私から離れる。

 あー、とか、うー、とかいってるルカを放置して、私は後ろで伸びている男の人ににじり寄った。


「生きてるかな……?」


 肩を軽く揺すってみる。

 う……っと唸り声が返ってきた。生きては、いる。でも頬骨とか陥没してるだろうな……鼻の骨とかも多分折れてる。よっぽど良いお医者様に掛からないと、命に関わりそうだ。


「シゼにお願いできないかな……」

「は? ほっとけよ、そこまで面倒見ることないだろ」

「駄目だよ、駄目。死んじゃう」

「死ねば良いんだよ」

「ルカっ!」


 私がぴしゃりと声を上げたらルカは黙る。

 そして、ルカはちらりとだけ、彼と私を見て「一応、連絡する……」と床に転がっていたガラス片を、七色の小鳥に変えて外へと放った。

 そのあと、ひとところに伸びてしまった彼らを集める。私は出入り口に背中を預けて、それを眺めていた。まだ、頭はくらくらしているし、そうでなくても男の人を何人も担いで運ぶことなんて出来ない。

 ルカは見た目に反して力持ちさんだった。


「―― ……くそっ……」


 苦々しく履き捨てた男にルカは冷えた視線を落とす。子どものする顔じゃない。


「理由は興味ないけど、あんたらにはもう永遠に“美しいとき”は見えねーよ……」

「そんなもの、あるわけない、あるわけ……」


 ルカと何事かぼそぼそ話していた男は、ちらりとこちらを見た。私は良く分からなくて首を傾げる。


「あの方が……、まさか聖女様は白銀狼の使いを残して月に帰ったと……」

「どうせ、得られないんだ。あいつがなんであろうと、そんなこと、どうでもいんじゃねーの?」


 バイバイ。と彼らに片手を振ったルカは、私のところまで小走りで寄ってくると、ほらと腕を取って肩に掴らせてくれた。ありがとう、と口にすれば、別に、と顔を背ける。


「これで、あとは城の連中がなんとかするだろ?」

「そうだね」


 扉を閉める瞬間、中の男の一人と目が合った。泣いていたような気がした。



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