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第七話:実は一番マイペース(2)

「なるほどー……」


 エミルの笑顔が黒い。


「それで釘を刺しておこうってことか……」


 かと思ったら落ち着いていたようだ。私はほっと胸を撫で下ろしたのに


「蒼月教団はトップを据え変えたほうが良いね。訪問と同時に……」


 全然落ち着いてなかった。冷静じゃなかった。


「エ、エミル! ストップ! レムミラスさんにも何か理由が」

「必要ないね? 必要ないよね。この世界にありながら白月に……中立であるはずのものに、手を出そうというんだ。そのくらいの覚悟はあるだろうし」


 マシロが気にすることじゃないよ。と、にっこり。

 気にします! 気にしますよ! 私は十分に気にしますから物騒なことを考えないで下さい。


「だ、駄目だよ! エミル、は、話くらい聞いてあげて。それに、ほら私もシゼが助けてくれて無事だったし……問題ないよ。私はエミルに誰かを傷つけるようなことをして欲しくない。お願い、そんなことで手を汚さないで」


 エミルにそんな業を背負わせたくないしそれに私自身、人の命の責任なんて持てない。懇願する私を暫らく見つめていたエミルは、はぁと物凄く重たい溜息を吐いた。


「被害者であるはずのマシロが、そういうなら僕は強行出来ないけれど、ブラックの耳には入れるべきだと僕は思うよ?」

「え?」


 エミルにしては珍しい意見だと思った。素直に目を丸くした私にエミルは苦笑する。


「僕もマシロとはそこそこ付き合いが長いし、分かるよ。因みにマシロとあってからのブラックも知ってるような知らないようなー……だけどね?」


 そっと横から差し出されたティーカップを受け取りながらエミルは話を続ける。


「これはマシロの命が危険に晒されたんだ。それをどういう理由があったからといって、聞かされずに居るのは辛いと思う。もしも僕だったら絶対に嫌だ」


 絶対に……と、重ねたエミルに私は口を噤んだ。

 エミルは、そんな私の頭をいつもと同じように、ふわふわと撫でた。そして、傍に立っていたシゼに顔を上げる。


「シゼ。ありがとう、マシロを助けてくれて……」

「え、いえ……その……」


 急なお礼にシゼは、ぱあっと頬を朱に染めて動揺する。シゼはエミルの前では年相応だ。そんなシゼにエミルは立ち上がると、私にしたのと同じように頭を撫でた。若干驚いたようで少しシゼが逃げたが気にしない。


「でも……」

「?」

「でも、無理はしないでね。マシロもとても大切だけれど、シゼだって僕にとって大切なんだ。僕は君を失うわけにはいかない」


 双肩に手を掛けてそう告げるエミルにシゼは、困ったような笑みを零して頷いた。掛けてくれる言葉は嬉しい。でも、あの場では他に方法がなかった。そういいたいのだろう。

 きっとエミルもそのくらい分かっていて、でも、いわずには居られなかったのだと思う。


「じゃ、面会してあげようかな」

「え?」

「ん? いったよね。レムミラスが面会を求めてるって……」


 いや、手紙っていってたよね。てことは後日の話じゃないの?


「マシロは同席して。彼は君がここに居るという前提みたいだったから……シゼも大丈夫なら同席して構わないよ。君も当事者だから」


 その言葉に頷いたシゼを確認して「さて、行こうかな」と口にする。


「えっと、今?」

「今だよ。もう、待ってるんじゃないかな?」


 にこにことそういったエミルに苦い笑いが零れる。普通にお茶してたよ……。レムミラスさん待たせてさ。悪かったなと微塵でも思ってしまう私は小心者だ。エミルなんて、勝手に決めて勝手に訪ねてきているのだから問題ないとのんびりしたものだ。




 王宮の一室で待ちぼうけしていたレムミラスさんは、若干顔色が優れなくなっていた。途中で合流したアルファが扉を開いてくれると慌てて立ち上がり恭しく頭を下げる。


「此度王子には……」

「挨拶は結構なので、早く本題に入ってください」


 お怒り気味の王子にレムミラスさんは、また腰を折って私とエミルが席に着くと本題に入った。因みにアルファはエミルの隣に立ちシゼは私の隣に立っていた。


「王子も既にお聞き及びかと思われますが」

「ええ。どうしてお一人なんですか」


 間髪居れずに頷いたエミルにレムミラスさんは怯むことなく「それはお察しください」と続けた。


「今、マリルに危害を加えたものを同行させることは、彼女の精神衛生上よろしくないと思いましたので控えました」


 私の? まぁ、確かに会いたいとは思わないけど。


「彼にはこちらでそれ相応の処罰を受けさせています」

「子どもなのにですか!」


 反射的に口を挟んでしまった。みんなは少し驚いたような空気をまとったが、レムミラスさんは少し小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。


「当然でしょう? 貴方は貴方に危害を加えたものを野放しで構わないのですか?」


 それならそれで都合が良いですが。と、口にしたレムミラスさんをエミルが一瞥する。


「え、そりゃ、野放しは困りますけど……でも、一体どんな」

「それは貴方には関係のないことです」


 膝の上でゆるりと組まれた指先を軽く揺らして、エミルが「貴方は」と話し始める。


「―― ……貴方は少々マシロに対して失礼が過ぎるのではないですか? 今回は僕に、お願いですか? それとも、マシロに、なのですか?」


 疑問符が一応付いているような気がするが、とてつもない威圧感を感じるのは私だけだろうか? 私は庇護されているようだけど……肌寒さを隠せない。

 レムミラスさんはエミルの言葉に僅かに逡巡し「マリル殿にです」と答えた。私にお願いとは意外だ。


「それならそれ相応の話し方というものがあるのではないですか? 蒼月財団の団長殿は礼儀も敬意も払えぬとの認識で構いませんか」


 エミルの穏やかなチクチク攻撃に黙したレムミラスさんに私はわたわたと続きを促す。それに頷いて特に語気を緩めることもなく話を始め


「美しいときを与えてくださるマリル殿ならご理解いただけることと思います。今回の一件はこちらの監督不行き届きも否定は出来ません。しかし、元を質せば……憂いと嘆きが生んだことです」


 と長い前置きから始まった。

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