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―3―

 ***


 私、アルコールに弱いのかな。それとも体力がないのかな……?

 ゆっくりと乱れた髪を梳かれ、頬や唇、顔に降ってくる甘い口付けにぼんやりとそんなことを考える。


 ―― ……最初は私が優勢な気がしたのに、気がついたらいつも組み敷かれてる……


「皺が寄ってますよ? どこか痛い?」


 眉間に唇を寄せてそう問い掛けてきたブラックに、ううん。と、首を振って擦り寄る。まあ、そんなことどうでも良いんだけど……そう、そんなことと思えるくらいに、こうして素肌が触れ合うのはとても気持ち良い。

 幸福感と安堵感に包まれるし、満たされている。


 我侭なんていいだしたら際限ない。この満たされたときを失いたくない。そう思い至ってブラックの鎖骨を軽く食み、つぅと舐める。


「くすぐったいです」

「駄目?」


 問い掛けつつ続ければ


「……まさか」


 ブラックが艶っぽい息を漏らすから、軽くたてるだけの歯に力が篭ってしまった。じわりと、僅かに血が滲む。


「ぁ……ごめん……」


 短く謝罪して、ぺろりと血液を舐め取った。同じ赤い血だ、普通に血液特有の鉄っぽい味がして当然なのに、どこか甘い気がした。

 本当は傷口舐めたりしちゃ駄目なんだけど、傷に入らないくらいの小さなものだから良いよね。


「ブラックって初めてじゃないよね」


 ぽつと口にした台詞にブラックが虚を突かれた風なのが分かる。


「今更それを聞くんですか?」

「……ん、なんとなく……私はブラックしか知らない」


 別に他を知りたいわけじゃない。なんとなく零れた愚痴みたいなものだ。ブラックがそれを分からないわけもなく、苦笑したのが分かる。


「残念ですが、私の目の黒いうちは……」


 ブラックは、くっ付いていた身体を引き離して覆い被さると瞳を細めて私を真っ直ぐに見つめる。そして、私以外の前で貴方のすべてを晒すことは許しません。と口にして、強い口調とは裏腹に、そのままふわりと降ってきて、私をぎゅっと抱き締める。


「―― ……ねぇ…マシロ……」

「う、うん」

「提案があるんです。とても素敵な」


 キラキラとしたブラックの台詞に釣られてか、腕の力はどんどん強くなってくる。

 ブラックはキラキラ。

 私は死線を彷徨いそうだ。


「く、苦し……っ」


 予想以上に強い抱擁に私が息を詰めると「あ、あれ?」と驚いたような声がして僅かに腕の力が緩む。そして、キラキラ猫は話を続けた。


「マシロ、結婚しましょう」

「え」

「私の聞いたところによると、裏切っても良いときというのがあるらしくて」


 ―― ……なんか、またブラックが突拍子もないことをいい出しそうな気がして、私は身構えた。


 きっと私の疑問に答えることもなく、自分のいいたいことをいい終わるまで、私の話なんか聞きもしないだろう、ブラックに私は諦めも込めて、続きを促すように見つめた。

 ブラックは少し落ち着きをなくしたように、慌てて話を始める。


「ええと、確か一つ目は、生まれるときの素養。二つ目は、友人と愛する人が同じになったとき、まあ、私に友人は居ないのでこれはなしとして、三つ目は、共に死のうという約束。らしいのです」

「なるほどー……ブラックはその三番目を最初から裏切るつもりだったわけだ」


 分かってたけどね。

 分かってたけど、ちょっぴり意地悪くそう口にすると、ブラックの耳がへにょんとさがり、ぴたんぴたんっとお布団の中で私の太ももを打っていた尻尾が止まる。


 ああ、もう、堪らない。可愛すぎる。


 それにその入れ知恵はきっと今は亡きジルライン上王陛下だろう。あの人は、ブラックにろくなことを教えていない。


「私が居なくなっても、生きて欲しかったんです。もしかしたら、子どもも残すかもしれないじゃないですか、そうなったらきっとマシロは……だから、形で縛るのは駄目だと、思ったんです。でも、嫌です。やっぱり嫌」


 嫌々と子どものように繰り返し、そして擦り寄ってくるブラックはやっぱり可愛い。


「これは私の我侭です。全部ください。貴方を全部。心も身体も命も……微塵も余すところなく私にください」


 ぎゅうぎゅうと圧死させられるんじゃないかというほど、抱き締めてくるブラックがとても愛しい……そんなこと、わざわざ口にしなくても


 ―― ……もう、とっくにブラックのものだよ……


 まあ、確かにしないって決めたのもブラックなのに、次はしたいといいだすのは、我侭といえば我侭だし、勝手だと思わないこともないけれど、そんなことを物凄く長い時間悩んでいたのだろうと思うと、なんだって、許せてしまう。


「ねぇ、マシロ、お願い。断らないでください」


 はい、といってください。と縋るように腕に力を込めたブラックに答えるように私も回した腕に力を込め、顔を埋めた肩口に唇を寄せた。


「もちろん、はい。だよ」

「―― ……っ」

「あげるよ、全部」


 私の簡単な返事に、ブラックはこの世の春を体現するように、ぱぁっと明るくなる。

 もし、私に子どもでも出来たら、酷い親決定だ。

 でも、私はもう、この人が居ないと生きられない。愛してるからというだけでは、免罪符にもならないだろうけど……きっと変えられない……。


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