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―2―

 ***



 夕食時、ブラックは居なかった。

 屋敷の様子を見てきたら戻るといってたから、私が嫌がるような仕事内容じゃないんだろう。


「私が嫌がるような……か」


 はぁ、と溜息を漏らすと「独り言」と、私の右隣に腰を降ろして、食事を口に運んでいたルカが零す。苦々しくそう口にされて、思ったことが声に出ていたことに気がついた。

 一人暮らしが長くなるとなんだか独り言が増えたような気がする。

 苦笑して、ごめん。と返せば、別に良いけど、と口を尖らせる。ルカの小さなクセだと思う。子どもらしい可愛いクセだなと、一緒に居る時間が長くなったせいもあって愛着を感じる。


「私さ、別にもうそんなに抵抗ないんだ」

「んー?」


 ぽつりと呟いた私に、ルカはお行儀悪くフォークを銜えたまま小首を傾げる。


「仕方ないんだよ……」

「―― ……あっそ」


 意味の分からないだろう私の台詞に、ルカは特に質問を重ねるようなこともなく、適当に相槌を打つ。別にそれで構わない。

 直ぐに、元の静かな食事に戻る。かちゃかちゃとフォークがお皿に当たる微かな音が、聞こえるくらいに今日は静かだ。

 ややしてルカは食事を終えると、さっさと一人片付けるためにお皿を重ねる。いつもの私なら、私が終わるまで待てとぶーたれるところだけれど、今日はなんとなく止める気にならなかった。私はそれをぼんやりと目で追いながら、お皿の隅っこにあったラディッシュをフォークで刺して口に運ぶでもなく苛めていた。


「今夜ブラックさん、戻るんだろ? おれ今日はあっちいってるから。どうせあの陰険オヤジにもご報告とかしなきゃなんないし」

「え? 明日の朝にすれば良いよ」

「嫌だよ。朝飯当番あんたじゃん。おれ一食でも解放されたい」


 このガキ。

 私は、引きつる頬を押さえてフォークに刺さったままのラディッシュをぱくりと口に運んで、お行儀悪く「お好きにどうぞ」と口にした。確かに、ルカの作る料理は美味しい、私のものでは不服だろう。でも、そんなルカの料理だってブラックほどじゃないのに! と思うとなんだかブラックが恋しくなった。




 私は夜の帳が降りた頃、お風呂に入って普段ならぼんやりと本でも読みながらブラックが来るのを待っているのだけど、今日はなんとなく飲みたくなってワインを引っ張り出してきた。


 寝室のサイドボードの上にグラスを二つ。


 一つだけに注いで軽く揺らす。

 いつもは白いほうが好きなのだけど、今日は赤。ちょこっと口を付ける。少しなのに、その存在感を熱くアピールしてくる濃い香りを良いと思えるくらいには、私も大人になった。

 ベッドの脇に腰掛けて、ヘッドに腕を預け顎を擡げれば、二つ月が夜の闇を明るく照らしているのが見える。


 結婚といえば、メネルの結婚話は驚いた。


 エミルが王位に就いてから、暫らくしてメネルは大聖堂を卒業した。

 そして直ぐに「私結婚することにしたのよ」とあっさり……。丁度一緒にお茶をしていたときで、エミルが珍しくあたふたしていたのを思い出すと笑いが零れる。

 と、いってもメネルは今、元の世界でいうところのバツイチだ。

 結婚して一年も経たないうち、そう、数ヶ月で離縁した。「星を詠み間違えたみたい」とメネルはなんでもないことのように微笑んでいたけれど……私も、エミルも分かっていた。

 メネルは、ナルシルを引き取りたかったのだ。

 結婚して直ぐ、メネルはナルシルを養子として迎えた。今は二人で王宮に入っている。


「星詠み系の素養を持つと、逆に自由人なのかなぁ……」


 しみじみとそういっていたエミルに笑ってしまった。


 ―― ……確かにラウ先生は自由人以外の何者でもないし、今のレニさんも、ある意味自由人だ。


 未来が分かるということは、それに囚われることをやめたあとは、はっちゃけるしかないのかも知れない。なんて思うと一人で、ふふっと笑いを零してしまった。


「楽しそうですね?」

「―― ……遅かったね」


 ぼんやりしてはいたけれど、それほど不意をつかれたわけではなかったから、私の手の中からグラスを抜き取って中身を飲み干したブラックを微笑んで見上げた。


「ええ、予定外の来客があったので……」


 そう告げながら、それはそうと……と続けたブラックは、ことんっとサイドボードに空になったグラスを置き「寂しかったですか?」と加えた。私は、そのグラスの行方を追い掛けながら、その問い掛けに少しだけ酔っているのか、すらっと「寂しいよ」と口にしていた。


 どうして? という風に顔を覗き込んでくるブラックに私は唇を重ねて、ぐいっと腕を引くとブラックをベッドに押し倒した。理由など問うまでもなく、ブラックが居なかったからに決まっている。直ぐに、そう行きつかないことが、身勝手だと思いつつも、面白くなかった。

 少し乱暴だったかなと思ったものの、そのまま口付ければ、覆い被さった私の背と後頭部に腕を回して深く応えてくれる。

 互いの口内に残るワインの味が濃く行き渡り、香りが全身に纏わりつく。


「んっ……は、ぁ……マシ、ロ…?」


 唇の端から零れる言葉尻に「どうかしたのか?」という問いを感じて、私は少しだけ離れた。本当に、少しだけ……。どうしても、離す気にはなれなかった。


「可愛いから、急に襲いたくなったの。……駄目?」


 良いか悪いかなんて答えを紡ぐ前に、私は再びその唇を塞いだ。

 私の中で燻る熱は、アルコールのせいなのか情事を思ってなのか分からない。

 可愛い、なんて言葉をブラックが喜ばないのを知っている。知っているから使うなんて、嗜虐的な気もする。

 するするとブラックのタイを解き。ボタンを外していくと、その間に手を滑り込ませる。首筋に吸い付き、舌を滑らせると、平常時の体温が少し低めのブラックの肌が薄っすらと赤らんでくる。

 それが自分のせいだと思うと、悦に入り、もっとと強く吸ってしまい、白い肌に薄っすらと痕を残してしまった。


 そして、じわりと体温が上がってくるのを感じながら、そっと膨らみのない胸を撫でるとブラックが声を殺したのが分かる。私には声を殺すなというのに、自分にそれを当てはめないのはちょっとズルイ。でも、それと同時に、小さな突起がつんっと起つのがなんだかやっぱり愛らしいから、許してあげる。

 肌蹴た胸に、頬を滑らせ手で触れていないほうの胸へ舌を這わせ、絡みつかせた。僅かに身を引かれても離してあげない。引かれたと同じだけ、いや、それ以上に擦り寄って胸元からブラックの顔を見上げる。

 少し困ったように眉を寄せ、頬を上気させている、いつものブラックの言葉を借りるなら「誘っているようにしか見えない」という恍惚とした表情だと思う。

 女の私から見ても、妖艶で綺麗だ。

 そんな風に感じてしまうと、胸の奥がじりじりと焼けるような熱さを生み出し、お腹の奥が切なく疼く。見つめていた視線を外し、再び、つっと肌を舐めると、長い指が私の髪を掻き雑ぜ、そのまま掻き抱かれる。内太ももに触れる部分が、服の上からでも硬くなっているのが分かると、感じてくれているのだと嬉しくなる。

 好きが溢れてくる。


「―― ……痛くしないから……」


 そっと触れた私に、ブラックが刹那息を詰め、ふっと息を吐くと同時に掠れたような声で「はい」と頷いた。









※ この続きは大丈夫な方だけ、裏にあります。

 http://www11.plala.or.jp/sshappy/been/○○○4.html

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