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―1―

※R15くらいに相当する部分も、散りばめられているので、苦手な方など不適切と思われる場合はブラウザバックをお願いします。

 後日談ですので、この前のお話で終わったと思っていただいても問題ありません^^


※ 裏無し(R15)はこのままこちらでどうぞ。

  裏アリの場合は、こちらからどうぞ^^

  http://www11.plala.or.jp/sshappy/been/○○○02.html

 (○○○の部分はパスに置き換えてください。パス請求はちょこっと広場(拍手お礼ブログ)記事を参考にしてください)

 今日も穏やかな陽気に恵まれた王都。

 私は切れていた食材とか、生活雑貨を買って帰り道をのんびりと歩いていた。


 今年の初め、あのアリシアが結婚をした。

 王都より少し離れた土地の領主家の末子が相手で、アリシアの家に婿入りした。その理由は簡単で、領主としての素養がなかったからだ。アリシアの家は元々大家族ではあったが、アリシアのお陰で傾きかけていたハーブ園は持ち直し今ではあの頃の生活苦は感じさせない。


 結婚式でのアリシアはとても幸せそうだった。


 私の前以外では、いつもどこか作っていたアリシアの本当の笑顔を見た気がして、相手の人はとても好い人なのだろうとしみじみと感じた。


「……あ」


 私はふとショーウィンドウの前で足を止めた。


 ―― ……婚礼衣装だ。


 この国では、特に花嫁さんが白いドレスを着るというわけでもない。

 ただ、純白は、そのまま白い月を連想させ『美しいとき』を人々の心に映すから、多いといえば多いのだけど……その店に飾られているものは、淡い緑色だった。アリシアは優しい水色のドレスを着ていた。彼女の紅い髪と瞳に映えてとても綺麗だった。

 まぁ、アリシアは元々美人なんだけどね。

 暫らくぼんやりとそれを眺めていたが、自分には縁のないものだと、きゅっと向きを変えたら


「ひっ!」


 目の前にルカの顔があった。

 今どきの子どもの成長は早いのか、私とあまり変わらない。きっとこのあと数年でもっとぐっと伸びるだろう。


「……ひっ! はないだろ。おせーよ。遅すぎっ!」

「ごめん、ちょっと色々見てたら遅くなっちゃって」


 私の手の中から荷物を取り上げてくれつつ「色々って」といいながら、ちらっと店の中へと目を走らせる。


「何? あんたこんなの着たいの?」

「ち、違うよ。そうじゃないけど、綺麗だなーと思って」


 私は、なんとなく居た堪れないし、自分の台詞に嘘はないつもりなのに、取り繕った感が拭えなくて「早く帰ろう」とルカの背を押して、足を進めた。

 ルカは、ふーんっと口を尖らせて「女って面倒臭いよな」と子どもらしいのからしくないのか分からないようなことを口にする。


「そういえば、あんたたちって結婚とかしてるわけじゃないんだよな?」

「うん。しないよ」


 もうとても前に思えるけど、そう、二人で決めたから。

 踏み出す足先を見つめていた顔を上げて、私はルカににこりと微笑んで、そうきっぱりといい切った。ルカは小首を傾げて「なんで?」と問い掛けている。


「あんな売れない薬屋なんて、やってても意味ないだろ? 王都に住みたいなら、種屋持ってくれば良いんだよ。ブラックさんなら、そのくらいのあんたの我侭ききそうだろう? 大体、ブラックさんになる前は、種屋は王都にあったんだから、さ」

「売れないは酷い」

「じゃあ、流行らない」


 ―― ……どっちも一緒だよ。


 私はワザとらしく眉を寄せたけど、ルカは微塵も気にしないようだ。


「兎に角、別に私も結婚とか拘らないし、したからって何も変わらない。私は種屋に住む気はないし……ブラックも王都に種屋を持ってくる気は毛頭ないと思うし……」

「ふーん。あの人よっぼどあんたを野放しにしときたいんだな」


 野放しって……。ルカの遠慮のない台詞に私は真面目に眉をひそめる。


「だって、そうだろ? 結局、形式的なものがないから、いつまでたっても周りは浮き足立ってるし、種屋じゃなくてあんたの隣を取って代わろうって奴が多い。おれには、こんなちんちくりんのどこが良いのかわかんねーけど」

「ち、ちんちくりん、って……」


 子どものいうことだ。堪えろ私。

 そのあと、私はそれ以上の話はしなかった。特に会話らしい会話をすることもなく、ルカは店の扉に手を掛けて、カランと扉を少し開いて後ろに続いていた私を振り返る。


「あんたさ……」


 紡ぎ出された台詞に、私は続きを促すように首を傾げた。


「覚悟、あるんだろ?」

「え?」

「あの人と、死ぬ覚悟」


 ルカの硝子玉のような真っ赤な瞳は、射抜くように私を見つめる。意図せず、初めて会ったとき首を絞められたのを思い出してしまうほど真摯な瞳だ。


「あの人は、あんたがもし死ぬようなことがあったら、迷わない。ここに居れば分かる」


 私は喉がごくりと鳴った。


「でも、あの人は、死ぬようなことがあってもあんたを殺せない。絶対に……そして、周りもあんたを殺さない。絶対に……禁呪を使ってでもあんたを生かす」


 微かに自分の唇が震えるのが分かった。


「ま、おれがここに居る限りあんたは死なないけどな」


 そのために置かれてるんだろうし、とぶつぶつ零しながらルカは店の扉を開ききって扉が安定してから、店の中へと入っていった。

 私もとぼとぼとその後ろを着いて入る。心臓の裏側辺りが、ぎゅっと苦しくなったまま私はカウンターに入った。

 カウンターの影にしまってある椅子を引っ張り出して腰掛ければ、ルカは「飯の支度してくるー」と二階に上がってしまった。


 ―― ……覚悟は、ある。


 襟元をぎゅっと握り締める。

 ちゃんと今日もある。


 私は服の奥で、今日もそこにある小さなカプセルがついたネックレスの位置を確認する。中身は猛毒だ。王宮の件がひと段落してから暫らくして、持ち始めたものだ。中身も酸化して使い物にならなくなる度に入れ替えている。

 だから、私はいつでも終わりを決められる。


 ブラックが私を殺せないのは良く分かってる。

 自らの命は気にも掛けないだろうけれど……私のことは殺せない。

 それが、改めて良く分かった。


 ブラックは王宮の一件で、自分が望む形でなくても、私を生かそうとした。殺してくれても構わなかったのに。

 私が思っているよりも、ずっと、ずっと……ブラックは私に優しく、甘い。自分の痛みを私にぶつけたりはしない。きっと、ずっと。


 だからって……


「野放しはないよねぇ……」

「何が野放しなんですか?」


 びくぅっ!!


 私の肩は綺麗に跳ね上がったと思う。自信がある。

 突然掛けられた声に、私は組んでいた足を跳ね上げてカウンターの裏を蹴ってしまい、ひっくり返るところだった。


「大丈夫ですか?」


 それを、しなっと支えて元の位置に戻すと、ふらりと現われたブラックは私の顔を覗き込んでにっこりと微笑んだ。


「ど、どうしたの? 今日は早いね」


 声裏返った。


「はい、暇だったので」

「……嘘」

「嘘ですけど、マシロに会いたくなったんです」


 これは本当。と微笑んでこめかみに、ちゅっと口付ける。もちろん、取った手にも口付けた。


「まだ店は閉められないよ?」

「構いません、傍に居ます」


 ブラックはそういって、ふっと獣型を取ると私の膝の上に飛び乗って丸くなった。

 そ……っと、私が頭から背に掛けて撫で付ければ、ふにゃんっと耳が後ろに流れる。尻尾の先っぽだけがぱたんっぱたんっと動き私の膝を叩くのはなんだかくすぐったい。



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