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第六十一話:何人集まってるの?

 翌日早々みんな来た。

 本当にみんな来たんですけど、王宮暇なんですか?


「うわーホントだ。猫が増えてる。流石、獣フェチですねっ!」


 マジマジと、二階のダイニングテーブルの上で、毛を逆立てているルカを眺めつつ口にしたアルファに私は肩を落とす。

 フェティシズムがどうとかいう話じゃないからね。というか、違うから、いや、違わないけど……ん?

 因みに毛を逆立てているのは、カナイが無謀にも撫でたいと格闘しているからだ。


 仔猫相手にテンションマックスだ。

 元気だね。

 痛みに弱いくせにあの生傷は良いのだろうか? まぁ、幾らでも薬なら出すけどさぁ。薬屋さんだし?


「有力候補が蒼月財団から姿を消した。って、いってたのは本当だったんだね」

「別にうちで貰ったわけじゃないですけどね。一応、私、預かりということです」

「真の敵は内に居るとはいうけれど、自分から招くとは青い月は酔狂だよね」

「弱いものに警戒するほど、月は心狭くありません。アノールと違って」


 ゆったりとティータイムに興じていると思われた猫と王様だったけれど、微妙にぴりぴりを隠せていないような気がするのは……きっと私の気のせいだ。そうに違いない。そう思いたい。


 因みに“アノール”というのは、エミルが受けた名前の一部だ。前王様の名前を受けて“ドール”の部分がエミルの代で“アノール”となった。

 エミルはそれを私が『陛下』と呼ぶのと同じくらい嫌がる。古代語で“太陽”という意味だと、ブラックが教えてくれた。理由を問えば「過ぎた名前だからだよ」とエミルは答えてくれたけど、ブラックは「太陽は永遠に月に届かないからですよ」と笑っていた。そして、それを使ってはどうかと、こっそり進言したのはブラックだと、ラウ先生に聞いた。ブラックの地味な嫌がらせだ。


 ―― ……はぁ。


 子ども染みた嫌がらせを思い出し溜息を零してから、私はカナイからルカを救ってあげた。ルカは、私の腕の中に飛び込むとごろごろと胸に擦り寄ってくる。

 可愛い。可愛い過ぎる。

 本当、ずっとこれで居れば良いのに。

 真っ白い毛並みにルビーのように赤い瞳。愛くるしさ漂うにゃんこさんが擦り寄ってくる快感。


 ―― ……カツンっ


「にゃっ!!」


 私がルカの抱き心地を堪能していると、ルカの狭い額にティースプーンが直撃した。ブラックだと睨みつければあっさりこちらを無視した。


「どこが心広いの?」

「躾けです」


 その隙にそろりと手を伸ばしてくるカナイはまたルカに引っかかれた。懲りない奴だ。


「ルカ、ちょっとだけ触らせてあげれば」


 一応説得してみるものの、嫌々と首を振って腕に擦り寄ってくる。

 ごめん、カナイ。私ルカの味方かも。

 そういえば、基本的にルカは猫の姿のときは話をしない。口から出てくるのは、にゃーとか、にーとか、なぅとか愛らしい鳴き声だけだ。


「ちょっとくらい良いだろ。減るもんじゃないんだからさ」

「やめろって! こいつなんだよっ気色悪いっ! 分かってんだろ?! 分かってるんだよなっ! おれが獣族で猫じゃないって!」

「あ、戻った」


 ―― ……ヒュっ


 再び飛んできたものを叩き落しルカは怒鳴る。


「闇猫っ! フォークは止めろ!」


 うん、危険だよ。刺さったら怖いからね。いや、ここは薬屋さんだから……以下略。


「五月蝿いですね」

「ねぇねぇ。マシロちゃん。これお代わりないの?」

「え、ああ。台所にあるから好きなだけ食べて良いよ」

「猫に戻ったほうが良いって、絶対、かわ……」

「だからっ! あんたは気色悪いっていってんだろ!」


 なんだか収拾がつかなくなってきた。はぁと私が嘆息したところでノックもなしに扉が開く。


「騒がしいですよっ! いつまで僕に店番をさせておくつもりなんですか!」


 あーだこーだいいつつ、シゼは今日アルファに担がれてきた。本当に担がれて――一体お城で何があったのか――抵抗する気力すら失っていたシゼがちょっぴり気の毒すぎて、私はそのことに触れられなかった。

 ぷりぷりシゼに、エミルがのんびりお茶を勧める。それを丁寧に断ったシゼは、不機嫌そうに私を見た。


「あ! 私、昨日の臭いで気がついたんだけど」

「何ですか?」


 私の台詞にシゼがほんの少し頬を染めて警戒色を強めたのが分かった。


「あの香りって、もしかして“ネロリ”じゃない?」

「ええ、僕が個人的に精製しました」


 ネロリといえば、ビターオレンジから水蒸気蒸留にて得られる精油のことで、コロンとか、アロマテラピーなどに使われる柑橘系の香りだ。結構手間がかかるので、あれから作っていなかった。

 ふーん。と私が頷けば、シゼは少し呆れたように肩を竦め「お分けしましょうか?」と振ってくれた。流石シゼ、皆までいわずとも分かってくれるとは素晴らしい。うんうん。と頷いた私にシゼは苦笑して続ける。


「そんな、もの欲しそうな顔しないでください」

「してません」

「そうですか? 身体中から『欲しい』というのが滲み出てましたよ」

「ごめんね、正直で」


 にこりと悪びれる風も見せないでいると、シゼは構いませんけど、と肩を竦める。


「ついでに、ネトルの準備も進めているので、一緒にお持ちします。毒草関係はご自身で扱わないのでしょう?」


 やれやれというように続けたシゼに今度は私が苦笑する。

 ネトルはイラクサを乾燥させて出来るものなのだけど、イラクサの棘には毒がありかぶれることがあるから、ブラックが温室や庭での栽培を嫌がった。一応私も薬師なのだから、その程度の扱い慣れているというのに過保護な恋人には分かってもらえなかったのだ。

 補足として、それを煎じたものは花粉症に効くとうたわれている。



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