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第五十九話:どうしてこうなったっ?!(1)

 そのあと、私はシゼを捕獲して、お店に戻った。

 アルファも遊びに行こうかなー、とか零していたけれど、ちゃんとお仕事に戻った。


「本当に、ロスタは帰ったんですよね? 居ないんですよね?」

「帰ったよ。ロスタは忙しいんだって。私もシゼに会って帰ればっていったんだけど」

「よっ! 余計なこといわないでくださいっ。本当……僕、ちょっとトラウマなんですから」


 店に向う馬車の中で、そういってシゼはがっくりと肩を落とす。

 昨日、またロスタがふらりとやってきて、シゼにもお土産を置いて帰ったのだ。直接渡しに行けば良い、といったのだけど、王宮には行きたくないとロスタは駄々を捏ねた。

 そして私は私で、それを持っていけば良いのに、絶対シゼは引き篭もりだろうからとあえて取りにこさせた。


「プレートがオープンのままになってますよ? お客さんが居ないにしても無用心じゃないですか?」


 客が居ないは余計です。否定はしないけど。

 大通りで馬車から降りて通りに入り店の前でシゼが口にする。


「留守番が居るから大丈夫だよ」

「店主殿ですか?」

「ブラックは仕事で種屋に篭ってると思う」


 いいながら私は扉を開けて、ただいまーと入る。シゼも後ろに続いて、人を雇う余裕が出来たんですね? とか、何か感慨深そうに呟いた。うちはそんなに困ってませんよ。全く。


「人っ子一人来てない」

「そっか、ありがとう」


 私はそのままカウンターに寄って、カウンターにお腹を預けると、裏に掛けてあったエプロンを取る。そして、それを身に付けながら、シゼを振り返れば止まってしまっていた。


「シゼ、折角だからお茶でも」

「―― ……さん」


 時間の止まってしまっているシゼに声を掛ければ、ようようというように口を開く。多分、私を呼んだのだろうと首を傾げると、シゼは急に大きな声を出した。


「オカシイですよっ!」

「え、えぇ? 何、シゼ、こ、壊れた?」

「壊れているのは貴方ですっ! 前々から壊れているとは思っていたんです。思っていましたけれど、ここまで壊れているとは思いませんでしたっ! おかしいでしょ? オカシイですよね」


 ここまで憤慨するシゼは珍しい。


「なんでこの人がここにフツーに居るんですか!」


 もう、疑問系でもなかった。

 まぁ、シゼの反応は間違っていないとも思う。思うけど、まぁ、そういうこともあるよ。


「誰だそれ?」


 カウンターの中でシゼに指差し確認された当人は、眉を寄せて怪訝な表情を作る。

 初対面ではないはずだけれど、覚えていないらしい。そんなんじゃ、失格だぞ。ブラックなら、ちら見でも確実に相手の顔を覚えてると思うよ? そう思った私の心を感じ取ったのか「ちょっと待て今思い出す」と考え込んだ。

 うーんっ、と、唸る声に合わせて頭頂部の猫耳が舟を漕いでいる。可愛い。和む。見た目だけは癒し系だ。そして、やや思案したあとぽんっと手を打った。


「あっ! 分かった。お前、店ん中に火放った奴だ」

「店主を殺しかけた人にいわれたくありませんっ!」

「おれは謝った。問題ない」


 ―― ……ん? 


 謝ってもらったかな? 私は小首を傾げたけど、まぁそんな小さなこと良いや。


「えっと、彼は一応蒼月教団所属のルカ。それでこっちがシル・メシア国王陛下付きの薬師シルゼハイト」

「自己紹介なんて必要ありません。どういう経緯があったとしても、僕は納得出来ません! 何故彼がここで店番をしているんですか!」


 シゼがこんなに怒るのは珍しいなー、と、感心していると「私もそう思います」と聞きなれた声が聞こえ、ふわりと私の身体にいつも香りが纏わりつく。振り仰げば、もちろんそこにはブラックが居て、はぁとわざとらしい溜息を吐く。

 ブラックとは、もう何度も話し合ったし、納得してもらってのことなのだから今更なのに、不満は尽きないようだ。

 ブラックは、いつものように私の指輪に口付けて、軽く私の唇にもキスを落とす。


「人前だよっ!」

「ルカの前は良いといったでしょう?」


 それはっ! いったようなーいわなかったようなー……。

 ぶぅっと真っ赤になって不貞腐れたが、シゼへの説明がまだだった。


「あのね、シゼ。色々と心配してくれるのは良く分かるんだけど、えーとその、ね。色々あって」

「はしょらないでください。色々を僕にも分かるようにちゃんと順を追って説明してくださいっ!」


 う、わー……シゼが真面目に怒ってる。


「マシロはなんでも拾う癖があるんですよ。もう、一種の病気ですよね。ええ、絶対に病気です。不治の病なんです」

「別におれは落ちていたわけじゃなくて、マシロがっ」

「似たようなもの、ですよね?」

「―― ……まぁ、別に」


 ブラックに凄まれれば、ルカはごにょごにょといいつつ視線を泳がせる。子どもを苛めるのは可哀想だ。


「ルカは、まだ十二歳なんだよ? それなのに籠の鳥だったんだよ?」

「種屋候補生だったのでしょう? だったら、蒼月財団が手厚く保護育成していたはずです。それを籠と呼ぶのはどうかと思います。在るべき場所。なのでしょう?」


 それに、逃げ出すのも自由のように感じましたけど。と、付け加えたシゼの台詞には棘が沢山だ。ざくざくと突き刺さる。

 ―― ……どういうわけか私に……。


「それはそうなんだけど、そのー、ほら、種屋候補生っていっても、ブラックぴんぴんしてるしさ、ほら、ね? その、なんというか」

「出番がないと腐ってたんですよ」


 ガシャンっとカウンターの後ろの棚の瓶がいくつか割れた。商品に手を出すな。ルカ。


「社会勉強というかなんというか……その、ね。ほら、子どもが出来たと思えば。うん。あとはー……猫が飼いたい?」

「急にそんな大きな子ども出来ませんっ! 猫なら既にそこの大きい人を飼ってるでしょうっ! 小さいのが良いのなら、カナイさんにでも声を掛ければ売るほど連れてきますよ」


 ご立腹ですね? シゼさん。

 びしりっとブラックを指差し、そこの大きい人扱いをするとは、シゼが壊れた。指された本人は「その通りですよね」とシゼに賛同している。


「でもレムミラスさんに交渉にいってくれたのはブラックでしょ?」


 そう口にすればブラックはシゼに睨まれていた。普段なら絶対ない。シゼは他人に対して控えめというか、特に感情を露わにするような事はない。本当に壊れた。


「それは、マシロが物凄く可愛らしい顔で『お願い』とするから……仕方なく……大体私はマシロのお願いには弱いんです」

「おれが帰れば良いんだろ?」


 いってルカはひょいとカウンターを跳び越した。

 私は、慌ててルカを掴まえて引き止める。その腕を無碍に振り払おうとはしないから、ルカ自身ここに居たいと思ってくれているのだと私は信じている。

 じっと、私を見つめていたルカは、何かいいたげに唇を噛んだあと、裏に居る。といい放ってすたすたと店の奥へと姿を消した。


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