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第五十八話:悪意なき嫌がらせ

「ねぇねぇ、マシロちゃん。お菓子、僕も欲しいっ」

「え、ああ。良いよ」


 部屋を出てしまえば、アルファは元通りだ。

 流石に他二人の前でこのハイテンションというわけには行かないのだろうTPOを弁えてくれて良かった。

 背後から私の背に乗っかりつつ、頂戴と手を出すアルファに、同じものをちょこんと載せる。

 アルファは、わーいっと喜んで受け取ってくれる。ここにきて、やっとアルファから私の作ったものへの警戒心が取れたことへの、勝った感がある。


「エミルもどうぞ?」

「え、貰っても良いの?」

「うん。それで最後だから、シゼとカナイには内緒ね。数が足りなくなったから」


 いったあとで子どもにいってるようだと苦笑する。


「ということは、最初から僕らのだったんだ?」

「え、うん。そうだよ。来た早々キサキに掴ると思わなかったから」


 本当はシゼを掴まえて家に戻るつもりだったんだけど、ずるずると引きずられるようにあのお茶の席につかされたのだ。運が良いのか、途中でエミルに発見してもらえ、ハスミ様も引っ掛けてあの状態だった。


「アルファ、食べながら歩いちゃ駄目だよ」


 こりこりと可愛らしい音を立てていたアルファに注意すると、アルファと同時にエミルからも「ごめん」と聞こえた。


 ―― ……エミルもかっ?!


「王様が食べてるんだから、良いよね」

「もう」


 マシロちゃんにも一つ。と、半ば強引に口の中に放り込まれると、仕方ないなーと苦笑するしかない。


 ―― ……王様……か。


「もう、慣れた?」

「うん。慣れたよ。夢を見て痛むこともない」


 突然振った私の質問に、即答してくれたエミルに、そっかと頷く。じゃんけんにはもうひとつの役目もあった。

 それはジルライン上王陛下の種を呑むこと。

 老い先長くないのではないかとも思われたから、それまで待っても良いと思うのに、ジルライン上王陛下は首を縦には振らなかった。

 王を退任したあとから、一気に老け込んだ上王陛下は、自らの役割に終止符を打っていた。

 これまでのルールからいえばそれは当然らしく、もう、私一人の正義で我侭を通すわけにも行かず、私は口出し出来なかった。


 ***


「出来れば、あまりマシロに見て欲しいことではないのですが」


 雨は上がり、二つ月が煌々と夜を照らし出すとき、厳かにも感じる処刑が儀式的に行われる。

 私は見届けたいとお願いして、本来、上王と新王、そして種屋のみで密やかに行われてきた場に立ち合わせてもらった。

 直っていないのでは、戴冠式もそのあとの引継ぎも出来ないと、遅れていた復旧作業に結局ブラックも乗り出し、その日のうちにあっさりことは済んでしまった。

 最初から助けてあげれば良いのに。と、零せば勿論「嫌ですよ、面倒臭い」と返してもらった。ブラックは常にギリギリでないと動く気にはならないらしい。


 場所は直ったばかり――午後には戴冠式の行われた――玉座の間。


 広大な広間に使用人も兵士も、寄せ付けない。

 痛いくらいの静けさだ。


 上を見上げれば、どういう魔法なのか、それとも私が気がつかなかっただけなのか。

 天井は夜空が透けて見えていた。


 私の知る限り、この手で命を落とす名君たちは辞世の句などを残しそうなものだが、上王は静かに玉座に座りそのときを待つだけだった。発言をするだけのときがないわけでも、許されていないわけでもない。

 少し離れていた私をブラックはちらとだけ見て、私から上王の姿が見えない位置に立つと銃を構えた。

 ことは簡単に済んだ。


 ―― ……ガンッ


 たった一発の銃声が響いただけだ。

 私は息を飲んだが、きゅっと目を閉じて改めて開いたときには玉座には誰も居なかった。玉座の背もたれから、黒い煙が一筋上がっているだけだ。

 丁度、頭のあった位置だろう。


 ころんっと一つ残された種を拾い上げ、ブラックは淡々と仕事をこなしていく。


「待って」


 いつものように、こつっと種を白化しようとしたブラックは、エミルに声を掛けられその手を止めた。


「それ、やらなかったら記憶も継承出来るの?」

「……出来ますが、貴方に他人の記憶まで背負うことが出来るのですか?」


 記憶を継ぐ。ということの辛さはブラックが一番良く知っていた。例え一人分の記憶であったとしても、一つの身体では持て余すものだろう。

 エミルは重ねられた問い掛けに、やや逡巡したようだった。でも何かを決めていたのか……――


「そのままで」


 と、ジルライン上王陛下の種を飲み込んだ。


 ***


「今更だけど、父の気持ちが分かって良かったと思ってる」

「―― ……そっか」


 結局、エミルとジルライン上王陛下との蟠りは生きている間にどうにかなることはなかったようだけど、ここに来てそれなりの解決を見たならそれで良いかな? とも思う。

 そう思えるくらい、エミルはすっきりして見えたから。


 しんみりとした話題に終止符を打つように、私は「ああ、それから」と話題を変えた。


「あのね、もう、何度もいってると思うんだけど……あれ、外してよ。正面フロアに飾ることないよね?」


 嫌がらせ? と重ねて眉を寄せた私にエミルはにっこりと微笑み「まさか」と首を振る。あれが、嫌がらせでなくてなんだというんだ。私には嫌がらせとしか思えない。私に王宮へはもう来るなといっているも同然だ。来るけど。今も来てるけどっ!


「だったら、外してよ」

「駄目だよ。だって、あれ、アセアの形見なんだよ」


 う。

 それをいわれると辛い。辛いけど……辛いけどあの晒し者感は、エミルたちには絶対分からない。肖像画だよっ! 私のっ! しかもあんなデカデカと。その上っ、三割くらい増しで美人になってる。私はあんな神秘的な表情は出来ないっ。

 アセアは、以前私とハクアをスケッチしてくれていたのを、キチンと起こしてくれていた。そして、一枚の立派なものに仕上げて、舞踏会の前の晩、エミルに贈ったのだそうだ。


「場所を変えてくれても良いよねぇ……」

「うーん。僕はあそこが一番良いと思うんだけど、他っていったら……僕の寝室?」


 なんかちょっと恥ずかしいよね? と僅かに頬を朱に染めるエミルに私も脱力。勘弁してください。


「それなら、書斎とかさ」

「駄目だよ。それじゃ、仕事にならない」


 仕事してください。陛下。


「僕はあそこで良いと思いますよ? だって、僕毎朝あそこで爆笑してから仕事はじめますから」


 相変わらず人の肩に寄りかかりつつ、器用に歩きながらぱりぽりやっていたアルファが口を開く。きっと、食べ終わったのだろう。


「爆笑って、酷い」

「え? ああ、違いますよ? マシロちゃんの絵を見て笑うんじゃなくて、あそこへの参拝を日課にしているお年寄りが何人か居たり、使用人が居たりするんですよ。お祈りしてたり、膝折ったり、マシロちゃん生き神さま?」


 アルファはくつくつと笑いながらそう続ける。私は、ふわわっと頬に熱が集中するのが分かる。エミルっ! と悲鳴のような声を上げたのに、エミルは「拠り所があるってことは良い事だよね」とにっこり。

 う、ううっ。もう、この人に何をいっても無駄だと痛感した。


「陛下遅いですよ」


 エミルが執務室に使っているという一室の前ではラウ先生が待ち構えていた。エミルは、楽しい時間はここでお仕舞いという風に肩を軽く竦めると、ごめん。忙しくて、と謝ったけど心は篭っていないだろう。形だけの謝罪に、私も、告げられたラウ先生も苦笑した。


「じゃあ、僕はエミルさんを送り届けたので、次はマシロちゃんを届けますね」


 がしっと私の腕を取ってそういうのが早いか、歩き始めるのが早いか、良い勝負だった。私は手を振ってくれるエミルとラウ先生に、手を振り返すのがやっとだ。

 ずるずる引きずるのはやめてください。

 そして、にこやかに見送ってくれる二人の会話は、途切れ途切れで私の耳には届かなかった……。


「やり直しても駄目だったのに、まだ友達ごっこですか?」

「今はもっと悪い。家族ごっこになってるよ」

いたわしいですね」

「僕さ、ラウの首を刎ねたらどうかなと思うんだ」

「構いませんけど、私は白月の姫お墨付きの宰相ですよ?」

「悪運も強いよね」

「―― ……お褒めに預かり光栄です」

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