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第四十八話:休みの日には何をする?

 そして、アルファはあっさり安静を無視した。

 私は、殆ど引きずられるように外に出る。外とはいっても王城の中で目指すは大広間。玉座があったところだ。

 じっとしておいたほうが良いのでは? という私の話は全くアルファの耳には届かなかった。トラブルメーカーは、私ではなくてアルファじゃないのかと怒りたくなったが、アルファの屈託ない笑顔を見るとどういうわけか怒る気力が失せる。


 絶対、役得だと思う。


 私とアルファが歩いていると、擦れ違う使用人たちは大抵姿勢を正す。

 私に対してか、アルファに対してか、そこまでは分からないけど、アルファは全く気にならないのか私の手をぐいぐい引いて、早く! というけれど、王宮ってこうやってみると、やっぱり私にとって居心地の良い場所とは思えない。


「おや、噂の人発見です」

「ラウさん相変わらず暇そうですね?」


 朝露のように爽やかな笑顔で声を掛けてきたのはラウさんだ。

 エミルの授業で何度か顔をあわせていた私は、素直すぎるアルファの腕を引いたけどアルファはちっとも気にならないようだ。


「ええ、とても暇なのですよ。暇なので遊んでもらえますか?」

「嫌ですよ。ラウさん滅茶苦茶、意地の悪い遊びしかしないじゃないですか」


 どんな遊びだろう。些か気になる。


「おやおや、心外ですね? そんなことありませんよ?」


 にっこりと深まる笑みに、肌寒さを隠せなかったけれど、ラウさんにばれてないと良いな。そんなことが頭に過ぎっていると、涼やかな声で「ねぇ、マシロ」と声を掛けられ慌てて返事をする。


「エミルに堕ちましたか?」


 こーのーひーとーはー……。

 ついていけない。


 アルファの後ろにやや隠れていた私を覗き込んでの一言。私を殺す気らしい。ぼふっと音が出そうなほど顔が赤くなったのは分かる。それを見てラウさんはころころと楽しそうに笑った。


 うん。意地が悪い人なんだよね。というかこの人だけは、全く底が見えない。

 例えるなら……不二子ちゃんだ。おお。ぴったり。


「違うみたいですよ。近いうちに家に帰るらしいです」


 簡潔に答えたアルファにラウさんは、へぇと訳知り顔で声を上げた。


「私はエミル贔屓なのですが、残念です。しかし、帰るということはご病気は完治されたのですね」

「されるのですよ、ラウさん」

「なるほど、これから……ということは闇猫の助力でもありましたか? あの騒動の先か……あとに……」


 いってラウさんは階上を見上げる。釣られてアルファも私も同じ方向を見ると思った以上に崩落していた。さっきまでそんな風に見えなかったのに、不思議だ。


「あちゃー……これ、今日明日では片付きそうにないですねー。宮廷術師総出ですね。それにしても、これだけやらかしても隠そうとするんだ。僕、魔力ゼロだから通り過ぎるところでした」

「ふふ。仕方ありませんよ。城の中枢に鉄槌を落とされては、格好がつかないでしょう? 上の人たちも必死なんですよ。大体、壊した本人たちが満身創痍なのですから、手伝わせるわけにも行かないですし。うん、仕方ない」


 話の内容から憶測すると、多分魔法的な何かで隠されていたのだろうなと思う。それをきっとラウさんも手伝っていたのだろう。ていうか、必死な上の人たちってラウさんたちのことじゃないんだろうか?


「壊したのは闇猫ですよ。僕らじゃないもん」


 もんって、ああ、そこが突っ込みどころじゃないか。


「あの、私何か手伝ったほうが」


 ごにょごにょと口にした私に、アルファとラウさんの視線が集中する。

 居心地が益々悪い。

 でも、壊した原因になるようなことをしたのは私だし、私にも責任がある。瓦礫運びとか掃除くらいなら私にだって出来なくはない。


「無理。必要ないですって、僕は怪我人だし、マシロちゃんは病人。ほらほら、帰りましょう。シゼの頭にまた角が生えますよ」


 それを分かってて抜け出してきたのはアルファだということは、この際気にしてはいけないのだろうか?


「マシロ。もし早く戻れるようなら本人に直させてくださいね」


 ぐいぐいと今度は帰り道をせかされた私に、ラウさんは声を掛ける。私は首を傾げたが「お大事に」と重ねたラウさんに質問を重ねることは出来なかった。


「さて、これからどこに行きましょうか?」

「え、寮病棟に戻るんじゃないの?」

「ええっ! 嫌ですよっ! 折角鬼が居ないし、仕事も追いかけてこない。遊ばないでどうするんですか?!」


 ―― ……休息するんだと思うよ?


 そんなことをいっても無駄。なんだろうな。遊ぶ気満々のアルファに仕方がないなと手を引かれた。


 調理場で「カナイさんがいつも取りに来るものください」と注文したアルファは、調理場の人に大き目のバスケットを貰った。重そうだったから代わりに持つといったけど却下。私はそんなに非力に見えるんだろうか? 腕の付が悪いとかいっている人よりマシだと思うのに。

 私はそのままアルファの後ろについて歩き、大きな建物の裏に来た。礼拝堂のように見えるけれど……古ぼけていてあまり手が入っているとは思えない。

 傍にあった大きな木の傍にバスケットを置くと、小さな飛沫が上がった。まだ完全に芝は乾いていないようだ。

 アルファがきょろきょろしたあと、ピューと、口笛を吹く。

 その音を聞きつけて……


「わ……猫っ。可愛いっ!」


 ひょこひょこっと物陰から、数匹猫が顔を出した。


「カナイさんのことだから、忘れてはないと思うんですけど、こっそりお世話しちゃいましょー」


 にこにことそう口にした、アルファはバスケットから集まってきた猫ちゃんたちに給仕を始めた。多分みんな成猫だと思うけど少し小さい子もいるし、ああ、お腹の大きな子がいる。

 私も、アルファの隣に膝を付いてお手伝いを始めた。どの子も人懐っこくてふわふわで可愛い……。お腹の大きな子だけ少し警戒してるけど、それは仕方ないよね。




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