ガールズトーク(2)
「私は断然カナイ様なのですけれど、シルゼハイト様が最近上位に上がってきました。取り付く島もない雰囲気の方で、エミル様以外の方とこちらで口を利いているのも見たことなかったんですよ。ですが、マシロ様がご滞在してくださるようになってから、随分と柔らかい雰囲気になられて、乗り換える方も増えました」
やっぱりシシィは突くと饒舌になる。
にこにこと楽しそうに話してくれるシシィに、私も楽しくなってきて、うんうんと相槌を打ちながら続きを促した。
「ララさんはエミル様では意外性がないからと、アルファ様に投じていらっしゃいますし」
―― ……ん?
「ええと、リズさんは大穴狙いでラウ様をと……」
―― ……んん? 大穴?
「司祭様が連れ去るかもーっ! とか、人外説も」
きゃーっと黄色い声を上げて盛り上がるシシィに私はストップを掛ける。
「ちょ、ちょっと待って!」
「はい?」
「何の話をしていたっけ?」
なんだか私の予想からずれてきて、シシィに問い直す。シシィは私の質問に、きょとんと瞳を瞬かせて、子リスのように愛らしく首を傾げると
「白月の姫争奪レースです」
「……は?」
シシィが意味不明な言葉を発した。
「ですから、どなたがマシロ様を射止めるかという賭けを……あ、も、申し訳ありません」
慌てて両手で口を押さえたけど、シシィ。いい切ったあとだから遅いよ? 別に怒ったりしないけど。呆れているだけで。
「いや、謝ることはないけどさ、そんな不毛な賭け成り立つの?」
「え! マシロ様はお選びになられたんですかっ!」
「いいぃえーっ!」
声が裏返った。
私は慌てて咳払いをして、なんとか整えると続ける。
「選ぶも選ばないも、そんな私を好きだなんて人」
―― ……僕は君が好きなんだ。
今はダメー! を思い出した。今度はシシィの変わりに顔が沸騰する。
「ちちち、違うの、エミルとはなんでもないの、」
「ああ、やはりエミル様が」
「そ、そんな、まさかっ!」
「カナイ様が有力だと思いましたのに、とても打ち解けていらっしゃるように思えましたし、あと、もうひと押しをと思って」
何をひと押しですか? いや、それよりも、揉めたことくらいしか記憶にありませんが。カナイは多分私を女として見ているとはとても思えないけれど……。
「マシロ様はどういった殿方と添い遂げたいとお考えですか?」
「え? 添い遂げ、って、え、結婚っ?! いや、そこまでは、まだ、あ、あぁ……ええと、そう、だなぁ……強いていうなら、私だけを好きで居てくれる人、かなぁ……」
もう、裏切られるのは嫌だから…… ――
そう答えて、私は思い出したくもない過去を思い出し、今日も雨の降り続く窓の外を見上げた。
「マシロ様は本当に可愛らしい方ですよね」
「はい?」
シシィのネジが外れた。
「マシロ様は色々と謙遜されますが、私、マシロ様のお世話を仰せつかることが出来てとても幸せです。マシロ様ならどなたと結ばれましても」
「結ばれないよーっ! 結ばれてないよーっ!!」
強く重ねた。
「あ、ああ、そうでした。愛はゆっくり育むものですよね」
それもちっがーうっ!!
と、突っ込みそうになったら、部屋にノックが響きシシィを待つことなく扉が開いた。
「女の子は朝から楽しそうだね?」
おはよう。と生憎な天気とは裏腹に、微笑んだエミルにシシィは慌てて、申し訳ありませんと腰を折った。
「定時にマシロ様をお連れするのが仕事ですのに」
「え、ええっ! ごめんっ。私が無理矢理話を引っ張ったからで、シシィは、悪く……」
「怒ってないよ、全然。マシロが楽しそうで良かった」
わたわたしている私たちにくすくすと笑いながら、エミルは歩み寄ってくる。
「でも、時間が圧しているのは本当。良かったら一緒に朝食でも如何ですか?」
にっこりとそういって手を差し出したエミルに、私は一瞬「う」と息を詰めたあと、おずおずと手を受けて「喜んで」と重ねた。
「聞いてた?」
部屋を移動する間に問い掛ければ、まさか! と首を振られ、ほっと胸を撫で下ろす。
「ちょっとしか聞いてないよ」
っ! ……聞いてたんですね? ああ、もう……恥ずかしいなぁ……。
「ああいうのは良くある冗談というか、お遊びというか、あー、その」
「こういう時期だし娯楽は必要だよね? でも、大穴にラウまで入ってると思わなかった」
一体どこから聞いてたんですかっ! 王子っ!!
やはり、侮れないエミルの発言に、私はそれを追及することが怖くて、あはは……と乾いた笑いを零すに留まった。
これだから、なんとなく、この人の手を取るのは怖い気がする。
好きか嫌いか世界にこの二択しか存在しないのなら、好きではあるのだと思うんだけど……な?
乙女心はフクザツなのです …… ――